13 国のいざこざですか

「こんにちはー」


 シェミーのいる食堂で、腹ごしらえをした後、私は冒険者省に行った。国からの依頼がある、とロワイエさんから知らせを受けたからだ。

 受付に行くと、受付嬢が慣れた手つきで、


「エイリー様。お待ちしておりました。すでに省長はいらしております」


 と、告げた。


「分かった、ありがとう。いつもの部屋でしょ?」

「はい」


 簡単な会話を済ませ、私はある一室へ向かう。ロワイエさんとの話をする部屋、つまり国からの依頼について、話す部屋である。もう、それ専用の部屋になりつつある感じもするけど、気づかないふりをした方がいいだろう。


 とんとんとん、とドアをノックすると、中からロワイエさんの、了承の返事が聞こえてきた。

 だから、私は遠慮なくドアを開けた。


「こんにちは、ロワイエさん」

「こんにちは、エイリーさん」


 なんだ、この意味不明な挨拶。めっちゃ機械的だなぁ。

 なんて思いながら、私はロワイエさんと向かい合うようにして置いてある、ソファに腰を下ろす。

 いつも座っているけど、このソファはふわふわしていて、気持ちが良い。人を駄目にするソファだ。


 ふわ〜と意識が遠のくのをこらえながら、私はロワイエさんの顔を見つめた。

 ロワイエさんは、こほん、と咳払いをすると、話し始めた。


「……今回の依頼は少し変わっているんですよ。何でも、王家に伝わる宝石を取り戻して欲しいんだそうですよ」

「……はぁ」


 …………それってもう完璧に、王家の雑用係だよね?

 まあ、いいんだけどさ。もう、慣れてきてから、何でもいいんだけどさ。

 当初と約束がちょっと違わないかなぁ〜と思ったり思わなかったり。


「これには、かなりの依頼料が出ますよ」


 曖昧な返事をした私を見かねて、ロワイエさんは餌を出してきた。


「どうしてまた?」


 その餌に、少し目が輝いてしまう私。

 いや、別にお金は欲しくないんだけどね? 割と私、お金は持ってるから、必要ないんだけどね? でも、ちょっとは聞いてあげないとね? 可哀想だしね?


「大事な品物っていうのもありますがね、それだけじゃないんですよ。

 ……えーと、アイオーンの後継者争いが激しいのは知ってますね?」

「はあ、まあ」


 自分の住んでる国のことだし何となくは知っている。そもそもそれ以前に、マカリオスの元公爵令嬢である。悪名高き、悪役令嬢だけど。


 アイオーンの現国王には、7人の子供がいる。(ここで一つ注意しておくが、アイオーンは一夫一妻制である)そこで問題になっているのが、後継者の問題である。兄弟の上3人の争いが、とてつもなく激しいらしい。


 長女のベルナディット・マスグレイブ姫。

 長男のコランタン・マスグレイブ王子。

 次男のアナクレト・マスグレイブ王子。


 3人の王権を巡った争いが、今は比較的ささやかに行われているが、いつ武力行使になるか分からないと、巷ではよく言われている。

 何でも、皆さま血の気が多い人たちなそうで。


「それでですね、国王様が7人の子供にこう言ったのです。“失われた宝を見つけよ。見つけたものが王にする”と」

「つまりは、私にを回収させて、争いを未然に防ぐのですね」

「そういうことです」


 奪い合いの武力行使の内戦になる前に、私に宝石を回収させ、王権を巡る争いに、終止符を打とうとしてるのだろう。「見つけられないとはまだまだだ」、とか言って。

 それで、私にこんな依頼をしてきたのか。


 –––––––––––腹黒い王様だなぁ。


「かなり、私的なものですが、お願いできないでしょうか?」


 ロワイエさんも、半分呆れているらしく、困ったような顔をした。

 はあ、と私は深いため息をつき、


「……分かりました。一応は国の為ですしね。こんなんで内戦が起こったら困りますし」


 と、了承をする。この国が安全じゃなくなったら、私が困るのだ。住む場所がなくなる。


 今回だけだぞ、こんな依頼を引き受けるのは。なんて、決心するけど、どうせまた同じような依頼を受けるのだろう。そういう未来しか予想できない。


「ただし、料金は更に上乗せで。しかも王様のポケットマネーでお願いします、とお伝えください」


 にやり、と私は笑う。

 個人的な依頼なんだから、当然だろう。にひひひ、してやったり。


「了解しました」


 私の言い草に、笑いを漏らしたロワイエさん。

 めんどくさい依頼だけど、頑張るしかないなぁ。

 この国が滅んだら、私、本当に行く場所ないしね。

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