11.実食したら……?
テーブルもセッティング完了。
無事、席にも着かせていただいた。
だがしかし、何故……何故?
私はロティと旦那様のすぐお隣の席にさせられてしまったのだろうか?
しかも、彼の左隣。
(こここここ、こんな、お近くにいらっしゃる、と、きききき、緊張がぁ⁉︎)
ただでさえ、美形で男前な人の顔が近くにあるのなんて慣れやしないのに!
「へぇ? 作るってパンだったんだ?」
「すごいわよね? エイマーさんに伺ったけど、私達が作る以上に美味しく見えるわ」
そして、旦那様の隣に座らせるのを画策した当人達は、私の様子は知らんぷりか見て見ぬ振りをしてるのかバターロールに釘付けだった。
『でふ! ご主人様が錬成されたからでふ!』
「ろ、ロティ!」
まだ君は旦那様に認識されてるか怪しいんだから、無闇に刺激させないでほしい!
ちらっと見えたけど、旦那様はまたロティを不機嫌そうな目で見ていた。
ひょっとして、可愛いものは嫌いなのかもしれない。
元冒険者だからって、精霊の好き嫌いがないわけでもないだろうし。
「…………構わない」
「え?」
「精霊ゆえの好奇心と、主人の功績を自慢したがる特性はさして珍しくもない。俺は、別に気にしてないぞ」
「そ、そうですか?」
その割には、ロティに向ける視線は結構怖いんだけれども。
『あ、ロティ自己しょーかい忘れてたでふ。ロティはチャロナ=マンシェリー様の契約精霊でふ!』
ロティはまだ旦那様に自己紹介してなかったのか、自分でお辞儀をしながら言えば、旦那様は少しだけ不機嫌さを引っ込めた。
私とさっき顔を合わせた時のような、少し目を丸くした時と同じ。
「…………ああ、よろしく」
それだけでした。
結局お名前聞けていないけど、どれだけご厄介になるかわからないから、聞くのも逆に失礼かもしれない。
その上、助けていただいたのを除くとまだお会いするのは二度目だ。元冒険者さんだからって、お貴族様に対して不敬な事は出来ないからここは聞かないでおく。
「…………せっかくだから、いただくか」
ちょっと難しいことを考えてたら、ぽんって感じに旦那様が提案してくれました。
たしかに、お昼時なので全員お腹は空いてたから、誰も異論しませんでした。
「ねえ、チャロナちゃん? この白いバターとも違うのは何かしら?」
メイミーさんがまず気になり出したのは、やっぱりカッテージチーズ。
これには、はちみつがけとは違うタイプに味付けしてあるので、説明することにした。
「カッテージチーズと言います。味付けは塩と胡椒だけですが卵サラダと一緒に食べても美味しいですよ?」
まず見本にと、半分に割ったバターロールに卵サラダをたっぷり塗りつけ、こぼさないようにカッテージチーズもスプーンで。
出来上がったら、私が食べるんじゃなくてロティに渡してあげた。
『ありがとうでふぅ〜』
「ゆっくり召し上がれ?」
しっかり持たせてあげてから手を離すと、ロティは『あーむ』って大口開けて食べ出した。
『ふ、ふわわわわ!』
よっぽど美味しかったのか、発酵器の時のような声を上げたけれど、何故かすぐに半目になり出した?
【成功】
「え、ロティ?」
【枯渇の悪食により、失われていたレシピの一柱戻りたし。付与したコカトリスのサラダ、アーマン牛の乳より生み出したチーズ。共にレシピ集データノートに記載しました】
急に天の声みたいな状態になったから驚いたけど、前にお風呂場で温泉水を飲んだ時とも違う。
いや、もしかしたらこれが本来のロティ?
ちょっと揺すろうとしたけど、言い終わったらまた元のようにもぐもぐパンを食べ出したので、やっぱり一時的な状態なのかも。
『パンは〜ふっわふわでたまごとチーズの相性ぴったりでふ〜! おいち〜でふぅ、ご主人様ぁ〜!』
「あ、ありがとう」
確認は後にしようそうしよう。
とりあえず、私も久しぶりに日本のパンを食べてみようと思ったら、何故かロティ以外が静かになったのが気になり慌てて前を見た。
ら、
「み、皆さん、何故泣いて…………?」
『でふぅ!』
そう。
私とロティが驚いたように、あの旦那様も、さっきまでパンに興味を持たれていたメイミーさん達まで。
何故か、バターロールをひと口召し上がった後の状態のまま動かずに、静かに泣いていたのだ。
『でふ! ご主人様の錬成したパンの効果かもちれません!』
「え、え?」
『
「く、詳しく説明してっ」
まだ泣いたまま、誰も動かない間にロティから聞いた話はこうだった。
①本来の『口福』程ではないが、主食のパンの美味しさが感じ取れると……涙が自然と流れて『郷愁』を思い浮かべる→これが『涙の郷愁』。
②この郷愁が得られたことにより、制作者も口にしたらレベルアップに必要な
③得られるPTは、制作した品によって変わる
→要は、経験値に必要な育成ゲームと似てる
以上のことがわかったところで、誰かに腕を掴まれた。
「……お前は、いったい何者だ?」
そんな事出来るの、右側にいるメイミーさん以外じゃ旦那様しか出来ません!
顔を上げたら、涙は止まってたけど不機嫌の時に近いような眉間のシワMAXで怖い怖い!
「え、あの……えっと」
なんでロティが割り込まないのと思ってたら、既に旦那様のシャツにしがみついて引き離そうとはしてた。
だけど、赤ちゃんサイズの妖精だから、筋肉腕力がガッチリな旦那様の腕なんて到底振り払えない。
私は私で、綺麗なスミレ色の瞳に射抜かれて体がすくんでしまってた。だから、言葉にしようにもうまく動かないのだ。
「こら、カイル⁉︎ 女の子驚かせちゃダメだろって、いっつも言ってるでしょーが!」
この事態を壊してくれたのは、なんとレクター先生。
旦那様の後ろから彼の頭を軽く殴ってくれたおかげで、掴まれた腕は離され、ロティがぐいぐいと旦那様の腕を押し戻した。
『ご主人様を困らちぇないでくださいでふ!』
「ロティちゃんの言う通りだよ。ごめんね、急にこいつが驚かせちゃって」
「あ、いえ……」
『しょれと、このおにーしゃん。ロティもご主人様もお名前聞いてないでふ』
ロティ、今ここで聞かなくてもいいでしょ!
そう言いたくても、もう後の祭り。
旦那様は目を丸くされたが、彼の後ろにまだ立ってたレクター先生はチャームポイントのタレ目を少しだけ引き上げていく。
「カーイールーぅ?」
そして、旦那様の首にすぐさま腕を回したのだった。
「女の子だからって、助けた相手になんで名前も名乗らないのかなぁ君はぁあ!」
「は、離せ……離せ、レクターっ」
本気じゃないにしても、旦那様はそこそこ苦しがっている。
止めた方がいいんじゃと思ってると、右隣にいたメイミーさんがいいからと私に声を掛けてきた。
「いきなり泣いてごめんなさいね? でも、気にしなくていいわ。二人ともいっつもこうだから」
「しかし、チャロナくん。このパンはやはり美味しいよ。パサつきも全くないし、ふわふわで病み付きになりそうだっ」
「あ、どうも……」
「これはこれは、甘いのも格別でしたが、食事にもぴったりですな」
いいの?
私の真横で物騒な状態になってるけど、これほっといててもいいの?
「…………いい加減にしろっ」
「へぷ⁉︎」
やっと終わったと思えば、今度は旦那様が立ち上がってレクター先生の腕を振りほどくと、そのまま床に一本背負い。
元冒険者の実力すごい、と拍手しそうになったけどレクター先生がピクピクしたまま気絶しそうになのに驚きを持っていかれた。
「レクター先生⁉︎」
「あら、気にしないでチャロナちゃん? これもいつものことだから。腕力でカイル様に敵うはずないのにバカな弟よねー?」
いえいえ、おバカで済ませていいのでしょうかお姉さん。
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