呪いだって!?
俺は改めて神龍に向かって駆けだした。
同時にミシェイラは神龍の側面に回るべく、小さく素早い動きで移動を開始した。
気配を極力消したその動きは、俺も気を付けなければその姿を見失ってしまいそうな程だった。
直後、俺に向かって神龍の口から轟炎が吐きだされる。
それと殆ど同時に、俺の身体から柔らかで力強い光が発せられた。
トモエの魔法が発動したのだと直感した俺は、盾を前面に翳してその炎を正面から受け止めたっ!
素早さ等皆無な俺に、ミシェイラの様に炎を躱す等と言った芸当など出来ないからだ。
「グウゥ……ウゥ……」
吐き出された炎の圧力に足を止めて耐える!
盾に加わる力がこれほど強いものだと言う事を初めて知った。
ゲームやアニメ、マンガなんかでは、主人公達がいとも容易く受け止められる吐息(ブレス)攻撃だけど、実際は受け止めるだけでも結構な力が必要になる。
「あっち―――っ! あっちあちっ!」
それに加えて、炎が俺の身体を取り巻いているんだ。
その熱は俺の肌を容赦なく焼き、火傷するかと錯覚するほどの熱さだった。
でもそれもさっき程じゃない。
きっとトモエの魔法が炎の熱を中和してくれているんだ。
「グワオォ―――ッ!」
突然炎の放射がストップした。
俺に攻撃を集中していた神龍の側頭部に、ミシェイラが再び一撃を加えたからだ。
(勇翔、今ですよ。一気に間合いを詰めて一撃を加えるのです)
神龍の意識がミシェイラへと向いた間隙をついて、オーフェの指示が脳内に響いた!
「よ……よしっ!」
ここまで来れば怖いだの何だのと言っていられない。
俺は神龍の関心が逸れている内に、一気に駆け出して神龍の元まで辿り着いた!
(勇翔、力の限り斬り付けなさい。今のあなたでは大したダメージを与えられませんが、元々倒してはいけない神龍です。丁度良い手傷を負わせる事が出来るでしょう)
オーフェの言い方には引っ掛かる処もあったけど、俺は彼女の言う通りに剣を振るった。
まるで、散りばめられた星が飛び散るかのような輝き。
そして、美しい音色の鈴が一斉に奏でられたような風切り音。
「オーフェの剣」はその美しさに見合った剣閃を発して、神龍の身体をいとも簡単に斬り裂いた!
「ギャオォ―――ッ!」
強固な鱗に覆われた身体がアッサリと傷つけられて、神龍は巨大な咆哮を上げた!
「ユート殿っ!」
「ユートッ!」
俺の一撃を見たミシェイラとトモエが、殆ど同時に歓喜の声を上げた。
それを聞いた俺もハッキリと感じる事が出来たんだ!
―――行けるっ! ……と。
(神龍を倒せると考えているなら、それは大きな間違いですよ? 少なくとも今、神龍は倒してはならないのです。ある程度のダメージを与えたら、あの巫女の封印で神龍を抑え込む算段をしなければなりませんよ? それに……)
思わず「倒せるっ!」なんて考えてしまった俺の思考を先読みする様に、オーフェの注意を喚起する言葉が響いた。
そうだった……この神龍はこの国の守護龍。倒すのではなく鎮める事を第一にしなければならなかった。
(……そんな所でジッとしていると、神龍の攻撃を受けます……ああ、遅かったようですね)
「ぐぼあぁっ!」
オーフェの忠告が終わり切る前に、俺の身体を側面から凄まじい衝撃が襲った!
攻撃が通じた喜びで動きが止まっていた俺は、盾でその攻撃を防ぐ事も出来ずモロに食らってしまった!
神龍の前足を食らった俺は、爪で斬り裂かれる様な感覚と強烈な打撃の衝撃を同時に受けて吹き飛ばされ、遥か後方の壁に激突してしまった!
そのどれもが重傷に値する攻撃であり、俺の全身を隈なく激痛が駆け抜けた!
「ユート殿っ!?」
「ちょ、ちょっとっ!? ユートッ!?」
俺を心配する声が聞こえ、俺は痛みに顔を顰(しか)めながら瓦礫から何とか這い出てきた。
この能力で一つ良い処は、どんなに痛みが苛んでも気絶する事が無いって事だろうか?
「あー……死ぬかと思った……」
俺は素直に思った事を口にした。
さっきの攻撃はオーフェの言っていた「致命傷の攻撃」では無いんだろう、俺の想像を超える程の痛みじゃ無かった。
それでも一般人なら、打ち所が悪ければ死んでいてもおかしくない攻撃ではあったんだ。
「いや……今のは死んでいてもおかしくないぞ……?」
「……どんだけ頑丈なんだよ……」
這い出てきた俺の姿と台詞を聞いて、呆然としながらミシェイラとトモエがそう呟いた。
その目は信じられない者を見る様に、驚きに見開かれている。
「いやー、トモエの魔法が効いていたからだよ。ありがとな」
これは冗談でもなく本当の事だった。
最初に受けた攻撃より、炎も熱く感じなかったし打撃も痛くはなかった。
それが多少であっても、今の俺には有難い効果である事に違いは無かったんだ。
「べ……別にその……」
俺の言葉でトモエはまた照れまくっている。
でも今はそれを弄る時間は無かった。
神龍の攻撃は、俺達の都合何て待ってくれないからだ。
「トモエ、見ての通り俺に回復は不要だっ! この後もミシェイラのフォローに従事してくれっ! ミシェイラはさっきの要領で牽制と攻撃を頼むっ! ある程度ダメージを与えたらトモエ、封印してくれっ! 出来るよなっ!?」
俺は矢継ぎ早に指示を出した。
時間がないからゆっくりと打ち合わせをしている訳にもいかない。
結局さっき決めた事を再確認しただけみたいなものだった。
「あ……ああ、出来るさ。任せてくれよっ!」
トモエから力強い返答が返って来た。
流石は大司教が勧めてくれた巫女だけあって、彼女一人でも神龍を鎮める封印は出来る様だった。
「ミシェイラッ! 行くぞっ!」
俺はそうミシェイラに声を掛けて、何の小細工も無く神龍に対して一直線に駆けだした。
俺の能力じゃあ、神龍の攻撃を華麗に躱すなんて出来っこない。
この体とトモエの防御魔法を信じて、ただ間合いを詰めるだけだった。
「分かりましたっ!」
俺の声にミシェイラはそう返事を返して、俺とは違う方向へと素早く駈け出していった。
(ふむ。これは呪いの類ですね)
何度か神龍に斬り付け、何度も神龍の攻撃でふっ飛ばされた後に、オーフェが怪訝とも思える声でそう呟いてきた。
「ハァ……ハァ……の……呪い……って……?」
俺の息も随分と上がっていた。
元々運動不足に加えて、肉体的ダメージは無いにしても精神的ダメージは相当受けていたんだ。
呼吸が荒くなっても仕方が無い事だった。
(何度か神龍の身体に接触して分かりました。この神龍が暴れる理由は、何らかの呪詛をその身に受けているからでしょう)
呪詛……つまりは呪いなんだけど、それが神龍に掛けられてるって事なのか?
高い知能を持つ神龍とは、少し前まで対話が可能だったって事だ。
でもある時期から全くそれらが出来なくなったって話だったな。
つまりその呪詛が掛けられてから、神龍とは話が通じなくなってしまったって事だった。
それはつまり……。
「それじゃあ、その呪いを解いてやればまた元の神龍に戻るって事なのか?」
つまりはそう言う事だろう。
そして神龍の呪いが解けてまた対話出来るようになれば、今後は神龍の被害に悩まされる事も無くなる筈だ。
(神龍の本来ある姿と言うものは知りませんが、その可能性は低くありませんね)
オーフェの客観的観測は断定的でしかないが、今はそれで十分だった。
そして俺のするべき事は、正しく神龍の呪いを解く事だとはっきり理解したんだ。
「ミシェイラッ、トモエッ! 神龍は何らかの呪いに掛かってるっ! それを解く事って出来るのかっ!?」
俺はオーフェに伝えられた事をそのまま伝えた。
「な、なんですとっ!?」
「神龍様が……呪いに掛けられてるだってっ!?」
俺の言葉で、彼女達に少なくない動揺が走る。
神と同等の力を持つとまで言われる神龍が、まさか呪詛に掛けられているなんて思いも依らなかったんだろう。
「そうだっ! それでどうなんだっ!? 呪いを解く事は出来るのかっ!?」
もう随分と神龍にはダメージを与えている。
程なくすれば、神龍を再び眠りに就かせる封印が可能だろうと考えていた。
でも呪いを解くと言う事を優先するなら、もしかすれば方針を変更しなければならなかった。
「ああっ、出来るっ! あらゆる状態の回復を図る白魔法なら、俺達“アミナ神龍教”は何処よりも優れてるからなっ!」
そしてトモエからは力強い返事が返って来た。
それなら神龍の呪いを解く方へ作戦を変更するに否やは無い。
「それでっ!? どうすれば良いっ!?」
今までは弱らせて封印する事だけを考えて攻撃して来た。
でも解呪に必要な手順があるなら、多少無理をしてもその方向で調整しなければならないんだ。
「今までと同じだっ! 兎に角、俺の術が邪魔されない様に、動けない程度に弱らせてくれれば良いっ!」
でもトモエの答えは「今まで通り」だった。
随分と手傷を負わせた神龍を更に弱らせるだけと言うのは、難しいながらもまだ分かりやすかった。
残りの力を振り絞って、神龍に攻撃すれば良いだけだからな。
「分かったっ! じゃあ、行くぞっ! ミシェイラ、頼んだっ!」
「お任せくださいっ!」
俺はミシェイラと示し合わせて、さっきと同様のコンビネーションで神龍へと向かって行った。
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