神龍、圧倒的
「グウォ―――……グルルルルゥ―――……」
通路を抜けて巨大な空間へと出た俺達は、そこで大きなイビキを立てて眠りに就いている神龍アミナを目の当たりにした。
青味がかった白銀の鱗に覆われた、ちょっとした小山ほどある巨体。
これは俺の想像する「
そしてその胴体へと巻き付けるかの様に、長い尻尾と首を横たえている。
蜷局を巻いている……とは少し違うが、コンパクトにまとまった姿はそう表現するのが一番合っていると思ったんだ。
「あれがドラゴンと言う生物ですか。なる程、強そうな存在ですね。架空の幻獣とは言え、古に神々と戦った……等と言った童話も納得させられる話ですね」
神龍アミナを初めて見ただろうオーフェの言葉は、実に淡々としたものだった。
でも、その目は興味津々と煌いている。
オーフェの力は恐らく、この世界のいかなる存在も凌駕しているんだろうな。
でも少なくともこの世界の神々と、目の前で眠る神龍の力は拮抗しているとの事だ。
曲がりなりにも、神と言う存在と同等の力を持つ……と言う設定の生物に、同じ神として興味は尽きないんだろうな。
「あれが……神龍アミナ様……」
「相変わらず、眠ってても凄い威圧感だな……」
その神龍を、オーフェとは違う目で他の二人は見ていた。
初めて神龍と言う存在を目にしたミシェイラは、流石に冷静とはいかない様だった。
一方のトモエは、休眠期にでもここを訪れているのだろう、以前に見たと思われる言葉を発していた。
でもどちらにも当て嵌まるのは、神龍アミナの存在感に気圧されていると言う事だった。
「グウォ―――……グルル……」
その時、神龍アミナが響かせていたイビキが止まった。
そしてそれが何を意味するのか、俺達は言葉を交わさなくても知る事が出来たんだ。
―――神龍アミナが目覚めたっ!
息を呑んでその動向を見つめる俺達の前で、今まで動かなかった神龍アミナの長い首が、まるで鎌首を持ち上げる蛇の様に動きこちらへと向いた。
ただこっちを向いただけだって言うのに、俺達は正しく蛇に睨まれたカエルの如く動けなくなっていたんだ。
そんな俺達を一瞥した神龍アミナはゆっくりと、その表情? を変える事無く、本当にゆっくりとその口を大きく広げだした。
ノーモーションッ!
息を大きく吸い込むとか、首を大きく
「これはサービスです」
飛来するその火球に対して、動けないでいる俺達の前に進み出たのはオーフェだった。
彼女はそう言うと、スッと右手を翳しその火球と対した。
そしてその火球は、オーフェの元へと辿り着く事は出来なかった。
オーフェが火球を防いだ訳でも、何か対抗する物が放たれた訳でも無い。
ただ彼女が手を翳しただけで、その火球はまるでそこに存在する事を許されないとでも言うように打ち消されたんだ。
一瞬で消え去った火球を目にして、神龍アミナでさえ何が起こったのか分からないと言った様に動きを止めてしまっている。
「さぁ、私が直接手を貸すのはここまでですよ。次は自分達の力で何とかして下さいね」
そう言ったオーフェは、完全に神龍へ背を向けてスタスタと後方へと下がっていった。
下がり切ったオーフェを見て、真っ先に覚醒したのはミシェイラだった。
「神龍様を完全に倒す等、まず無理かもしれませんっ! それにもしそれが可能だったとしても、神龍様を倒す事は出来ませんっ! 私が前衛を務めますっ! ユート殿は後方へと下がって下さいっ! トモエ殿、バックアップをお願いいたしますっ!」
未だ攻撃態勢を取らない神龍を前に、ミシェイラは瞬時にそう指示をして抜刀し、盾を前方へと構えた。
即座に対応するその判断力は、流石歴戦の猛者と言った所か。
そして駈け出したミシェイラと、攻撃態勢を取った神龍の動きは殆ど同時だった。
「我等を守護する神龍様に申し上げるっ! 敬虔なる巫女の願いを聞き届け賜えっ! 今ここで戦いへと赴く戦士に神龍様の加護をっ! 願わくばその雄々しき肉体を護る盾を授け賜えっ! ディファー・スクートゥム・タリズマッ……スリューダッ!」
その背後から、トモエがすかさず呪文を唱えた。
詠唱により光り輝く両掌をミシェイラと翳した途端、前を走るミシェイラの身体から同じ色の光が発せられた。
恐らくは何かしらの防御魔法なんだろう。
普段はつっけんどんな態度を取っている彼女も、いざとなればちゃんと手を貸してくれるんだから本当に素直じゃないな。
そんな場合では無いのは分かってても、ついそんな事を思ってしまった。
そしてそんな事を考えている内に、ミシェイラと神龍アミナの戦いは切って落とされていた。
今度は大きく息を吸い込んだ神龍アミナは、長い首を撓らせた大きなモーションから炎をミシェイラへと向けて吐きだしたっ!
さっきの様な火球では無く、まるで火炎放射の様に口から途切れる事無く吐き出される轟炎がミシェイラへと襲い掛かるっ!
オーフェに止められた火球がどの程度の威力を持っていたのかは分からないけど、ミシェイラへと浴びせかけられた炎が火球よりも威力の高い物だってのは見るからに理解出来た。
その炎を、ミシェイラは手にした盾で正面から受け止めたんだっ!
一瞬、業火に焼かれるミシェイラを想像したけど、その考えが杞憂だと言う事はすぐに目で見て理解する事となった。
神龍の炎は盾に阻まれて受け流されている。
彼女の両脇を流れる炎も、ミシェイラの身体に燃え移る事無く後方へと流れた後霧散していた。
それは間違いなく、トモエが使った魔法の効果に他ならなかった。
炎を受け切り、その威力が弱まったのを感じ取ったミシェイラが攻撃へと転じたっ!
「はあぁ―――っ!」
驚くべき速さで一気に間合いを詰めて、ドラゴンの巨体へ一太刀浴びせかけたっ!
でもその一撃は、まるで鎧の様な鱗に弾かれてしまった。
いや、ミシェイラの強烈な一撃は神龍の鱗数枚を砕くに至ったが、神龍本体に傷をつける事は出来なかった。
「くぅっ!」
その結果を素直に認めたミシェイラは、即座に大きく神龍との間合いを取った。
ダメージを与えにくい相手に、あの場で留まって攻撃を繰り返した処でリスクだけが高くなるだけだ。
その判断も見事としか言いようがなかった。
でもミシェイラの判断を褒めたって、事態が好転する訳じゃない。
そして仕切り直しを図ったミシェイラに併せて、神龍の攻撃が止むと言う事も無い。
距離を取ったミシェイラへ向けて、神龍は炎の弾丸を浴びせかける。
ミシェイラはそれを躱し、時には盾で受け止めて防いでいた。
だけど防戦一方で物事が良い方向に傾くなんてありえない。
あのままではミシェイラが倒れるのも時間の問題だった。
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