第69話 ヒーロー
ウバは今までで一番の満面の笑みを見せた。
つられて、こちらもほほ笑んでしまう。
「地球、これで大丈夫?」
「そうだ」
よかった。ほっとして立ち上がり、お尻の土をパンパン払っていると、ほほ笑んでいたウバの顔が、すっと真顔になった。
「今回は……、なのだがな」
どういうこと?
周りに目をやる。みんな、どうしたんだろうと不思議がっている。
「本来、この儀式をすれば、百年、二百年のあいだ、卵は深い眠りにつく」
しかし、と精霊はため息をついた。
「最近は、その周期が早いのだ。記憶では、前回の儀式から五十年ほどしかたっていない」
「じゃ、また五十年後に儀式をすればいいんだな」
「ケイゾー。ことはそう簡単ではないのだ」
ちょっと待って。なんだが不穏な空気だ。
地球はもう、無事なはずなんでしょ?
「儀式もくり返せば、効果が薄れる。それに、わたしの言葉や危機を信じてくれる人の数が減れば、それにつれて効き目も半減するのだ」
「あたしたち、信じてるよ!」
思わず声をあげる。ウバはふっと優しいけど、かなしげに笑った。
「ああ、きみたちは特別だ。だから今回は成功したのだ」
「なら、今度も」とケイゾーは言ったけれど、ウバがゆっくりと首を横にふる。
「きみたちを疑うわけではない。本当に感謝しているのだ。わたしは卵を守る役目をになっているが、そのじつ、出来ることは、ただ見守ることくらいしかない」
いざ、目覚めの時がきたら、わたしではどうすることもできないのだ。
「でも、でも……」
あたしは言葉が続かなくて、だまってしまった。
さっきから、あごに手をやって考え込んでいた、ミコちゃんが口を開く。
「わたしたちも卵を守ればいいはず。みんなで、ちゃんと守れば」
ミコちゃんはウバに笑いかけた。
「大丈夫。卵はみんなで守るから。起こさないように、割らないように」
そうやって、守っていけばいいんだ。
「そうか」とウバ。
ミコちゃんと見つめ合って、ニコニコしている。すると、そのようすを見ていたノゾムくんが、ぱっと立ち上がった。それまで、よし子をひざにのせて、疲れすぎたのか声も出ないって感じだったのに。
「ぼくも守るぞ。ミコちゃんも、地球も守るんだ!」
「そうか」
「ありがとう、ノゾムくん」
三人でニコニコ。
っていうか、ノゾムくんって愛情表現がストレートだね。
ケイゾー、負けるんじゃないか?
ミコちゃん、弟にとられちゃうじゃん。
「ま、今回は成功したんだからな。それで、よし、だろ?」
ケイゾーがのんびり頭の後ろで手を組む。
「あんず、おれたち、ヒーローだ」
にやっと笑うケイゾー。
のんきなやつ。
「ヒーローね」
あたしは空を見上げた。
虹がもう消えていて、かわりに大きな白い雲が浮かんでいる。
大好きな空は、今日もまぶしくて、青い。
(完)
『よげんの書』を見つけたら 竹神チエ @chokorabonbon
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