第61話 精霊の名前 2

「せいれい、名前、つけてあげよっか」とノゾムくんが言った。

「ノゾム・ツーってどぉ?」


 いやっ、ツーってなに?


「いや、けっこうだ。ありがとう」と精霊。

 ノゾムくんは、ムーっとくちびるをつきだす。


「精霊ってのが、名前でいんじゃねーか」

「ケイゾー、あんた、名前は人間ねって言われてうれしい?」


 あと、名前は男とか、男子ぃ、とか、ちびぃ、とか。


「いや、本当に名はいらんのだ。わたしはわたしでいい」

「でも」とミコちゃん。


 うんうん、やっぱり名前はあったほうがいいよね。


「レオンとか、どぉ?」


 アニメに出てくるイケメン騎士の名前がそんなだったんだよね。

 いいと思うんだけど。

 でも、ケイゾーが、「にあわねーよ」って文句を言う。


「じゃぁ、なにがいいわけ?」

 ムッとして、つっかかるとケイゾーはニヤッとした。

「いいのを思いついた。ウバってのは、どーだ」


 ウ、ウバっ。


「どっから、そんな変な名前……」


 なし、なし、って思ってたのに、ミコちゃんが、「どうして、ウバ?」と食いついてしまった。ケイゾーのにやり顔がますます広がる。


「地球を守ってるんだろ」とあたしに顔を向ける。

「あんず、去年の学芸会で、乳母役やっただろ? 最後は船から、『どうか、姫さまたちをお守りください』って、つぶやいて海に身投げする役」


 それが、どうしたよ。

 たしかに、やったけどさ。


 あの役は立候補じゃなくて、先生が配役をすでに決めていた。

「あなたたち、それぞれにあう役をえらびましたよ」って言うから、どんな役だろうと思うじゃん。そうしたら、主役の姫さまたちの乳母で、敵に追われた姫さまたちといっしょに逃げる途中、船頭に散々けられたあげくに、海に飛びこむって役だった。


 これが、にあうって、あたしって、先生にどう思われてたんだろ。


「で、それと精霊の名前が、どう関係あるのさ」

「だーから、卵の守り役ってわけなんだから、ウバがいいかなって」


 だーから、の意味がわからない。

 でも、精霊がこんどは食いついてしまった。


「乳母というのは、赤子をあやしたりする人だったな」

「あ、えーと、たぶん」とあたし。

 えーっ、もしかして、ウバって気に入ったとか言わないでしょうね。

「そうか。なら、ウバがいいかもしれんな」


「おっ、そう? なら、ウバね」


 ケイゾーはあたしにちらっと見ると、舌をぺろっと出した。

 んがーっ、もっとかっこいい名前がよかったのに!

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