第48話 君たちに頼みたいこと 4 

 儀式には四人と一匹が必要なんだとか。


 ケイゾーはそれをきいて、「あと一人なんて無理だ。おれたちの頭がおかしいと思われる」と早くも、あきらめモードだ。


「ノゾムくんがいいよ」


 深く考えずに提案した。

 ケイゾーが、「もう失敗決定だな。あいつに頼るようじゃ」とお手上げポーズをとる。


「むずかしい儀式なんですか?」

 ミコちゃんの質問に精霊が首をふる。

「いや。とても簡単だ。それぞれが持つアイテムを動かしながら、ある呪文を唱えてくれればいい」


「呪文って?」


 あたしが言った瞬間、突然、ばたんとドアが開いた。


「ミコ。はい、おやつ食べなさいね」


 ミコちゃんのお母さんだ。トレイにジュースと手作りのクッキーが皿に山盛りにつんである。グラスが四つ、ブドウジュースかな、濃いむらさき色。


「あら、ノゾムくんは?」

「う、うちに帰りました」とケイゾー。

「そうなの。ま、残ったのも誰か飲むでしょう?」


 おばさんは、あたしたちにほほ笑みかけると、それ以上何も言わずに部屋を出て行った。しばらく、全員がだまりこむ。


「もしかして……、おまえ、見えないのか?」

 ケイゾーがきり出す。精霊はちょっとだけ楽しむように、口のはしをあげた。

「信じていないものには見えない」


 わたしが見えるということは、それだけで信じているという証明になるのだよ。


 ケイゾーの舌打ちが、部屋に響く。

 なんだ。文句言っていたけど、信じてはいたのか。


「ノゾムはなしだ。あと犬はどうすんだ?」


 やるなら、さっさとやっちまおう。

 ケイゾーは急に仕切り始めた。

 今回も横取りされた気分になって、盛り上がっていた気持ちがしぼむ。


「あんず。みんなで協力しないといけないんだ」


 どきっ。

 心を見透かされたみたいだ。精霊があたしに視線を向けてくる。


「うん。わかってるよ。でも、ケイゾーが仕切るのはい・や!」

「は、仕切ってねーし」


 どこが。

 あたしはグラスをつかむと、ジュースを一気飲みした。

 クッキーもバクバク食べる。

 ちょっと粉っぽいけど、悪くない。

 ミコちゃんの家に遊びに来ると、いつも手作りのお菓子が出てくる。

 それが楽しみのひとつだったりするんだ。


「精霊さんも、どうぞ」

 ミコちゃんがすすめる。でも、精霊は軽く顔を横にふった。

「いいや。わたしに食べ物は必要ない」


「おいしいよ」とあたし。

 ミコちゃんも、皿を前に押し出す。

 でも精霊はまた首をふった。

「必要ないのだ。……というか、食べられない。そういう体のつくりにはなってないんだ」


「げー、なんだそりゃ。うまいのに」

 ケイゾーはわざと音を立てて、クッキーをかじる。

 いやなヤツ。下品。

「ケイゾー、きたない」

「おまえに言われたくねー」


 お腹のあたりを指さされる。

 下を見ると、食べかすが落ちていた。

 ちぇっ。

 あたしは、つまんで口に放り投げた。

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