第46話 君たちに頼みたいこと 2

 もしかして、口を乗っとられた、とか?

 ぞっとすべきかも。

 でも、イヤじゃなかった。


 時間短縮に必要だったんだろう。それだけ緊急事態なんだ。


 それに、精霊を悪いやつじゃないって思っていたからかもしれないけど、波長が合うというか、精霊が考えていることが伝わってくるような気がしていた。


 全部じゃないけど、言おうとしていることは理解できたし、時間がないってあせっていることも、重大な役目を担っていて、あたしたちが協力しないとダメなんだってこともわかる。


「あんず。君は信じてくれるだろう。だから『よげんの書』は君の前に現れたんだ。わたしはもう、誰も見つけてくれないかもしれないと、あきらめかけていた。だから、あんずが『よげんの書』を手にとってくれたときは、本当に感謝したのだ」


「うん、あたし信じる! あなたに協力する!」


 ウエェッと、ケイゾーが吐くマネをしているけど、無視だ。

 あたし一人でも、精霊に協力する。

 やる気、満々。


「わたしたち、何をすればいいの?」


 気合十分のあたしのとなりで、ミコちゃんは落ちついている。

 精霊は穏やかな微笑をうかべたまま、顔をあたしからミコちゃんへと移した。


「目覚めようとしている卵を、また長い眠りにつかせる必要があるのだ」


 その手伝いをしてほしい。

 精霊は、あたしたちの顔を順にゆっくりと目を合わすようにして見ていく。


「用意してもらいたいものが、いくつかある。それを持って、卵を鎮める儀式に、わたしと共に参加してほしい。簡単なことだよ。あぶないことは、ひとつもないんだ」


「あやしいな」


 ケイゾーの目が、また線みたいに細くなる。

 まだ、ぐちぐち言っているケイゾーにうんざりしてきた。

 まったく。

 わくわくする話なのに、いちいちつっかかるんだから。


「その卵ってなんだよ。目覚めたら、どうなるってんだ」

「地球が割れる」

「へー、割れるのか。……は?」


 ケイゾーが腰を浮かせる。あたしもびっくりして、体をのけぞらせた。


「わ、割れる?」とケイゾー。

「ああ、割れる。パカリと割れる」


 そして地球の中央からヒナが飛び立つ。宇宙にな。


 精霊は真面目な顔をしてそう言った。ケイゾーは「ははっ」と笑い、あたしも顔がゆるんだ。ミコちゃんを見ると、難しい顔をしていて、あたしはだらけていた顔をひきしめた。


「地球卵ってそういうことなんですね。割れちゃうと、わたしたち、死んじゃいますよね」


 ミコちゃんは冷静だ。けど、言っていることはすごい。

 気づいたら、あたしは首をすくめていて、肩に力が入っていた。


「そうだ。孵化すれば、この星は役目を終える。あとは宇宙に砕け散り、やがて姿を消すだろう」

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