第25話 小屋の前で 4

 ミコちゃんは小屋まで戻ってくると、そのままアオサカ堂まで走って行った。

 顔が真っ赤になってるけど、大丈夫かな。

 かわりに取りに行ってあげればよかったと思っていると、ケイゾーが「なぁ、これってマジなんかな」と、マジメなトーンでつぶやいた。


「これって?」

「よげん」

「なに、びびってんの?」

「ちがうって。全部、冗談かなって」


 苦笑しているケイゾー。同じ気分だったけど、それでもケイゾーに、「うん、あたしもそんな気分」なんて話す気にはなれなかった。なんだか、仲良しって雰囲気をかもしだすのはイヤなんだ。


 だから、あたしはミコちゃんの姿を目で追って、絶対、ケイゾーのほうは向かないようにしてから言った。


「字、見たじゃん。赤いやつ」

「血みたいな」

「そう」


 ちょっと間があく。ミコちゃんがバスケットを抱えながら、こちらに向かって歩いてくる。ちょっと小走りになったけど、走りにくいのか、すぐに歩調がゆるむ。ミコちゃんはどう思っているんだろうか。今は怖がっていないようだけど、信じていないってわけでもないと思う。


「あたしさ、周りが信じなくなると、すっごい本当な気がしてきて、逆に信じはじめると、うそっぽく感じてくる」


「ひねくれてんな」

「まあね」


 でも、それが本当の気持ちだ。うそっぽいと思いながら、もしかしたらこの三人の中で一番あたしが『よげんの書』を信じているんじゃないかと感じていた。


 だって、あたしが見つけた『よげんの書』なんだし、よげんの言葉はあたしに向けられているって気がしていたから。うぬぼれなのかもしれないけど、『よげんの書』があたしに語りかけているって。


 ミコちゃんが到着すると、あたしはケイゾーに、バスケットを持ってやるように命令した。イヤそうな顔をしたけど、ジュースやお菓子をもらったんだし、今は『よげんの書』もバスケットの中だから、ケイゾーもためらいはせずに、すぐにミコちゃんからバスケットをもらう。


「ごめんね」

「べつにー」


 ミコちゃんは、ちょっとうつむいてから、あたしにむかって、にこって小さく笑った。うれしいって気持ちからなんだろうか。それとも、「よけいなお世話しやがって」ってことだろうか。ちょっと、どっちなんだかわからない笑いかただった。

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