仕掛けを解いた先に

 城の中は明るかった。冥府アビシアにある青白い魂が燭台に灯され、床を天井を照らす。仮面の男によって創られた世界はフォートレスシティに浮かぶ漆黒の城。光を許さぬ色は内装にも施されている。

「なんか、魔物の彫像が生きてるみたいで怖いよ」

 聖南がルフィアにくっついたままだ。皆は何が出てもいいように武器を握る。キャスライの耳は全方位の気配と音を探る。特に目立った音はない。皆に伝える。

「ここにはいないってことか?」

「恐らくね」

 エントランスらしき広間の先には三つの扉がある。左右より真ん中の扉が大きく作られていた。真ん中の扉の前には赤と青のロックがかけられていた。どうやら、左右の扉の奥にあるギミックを解除しなければいけない造りのようだ。

「右の扉から行くか」

 ラインを先頭に右の扉へ。ゆっくりと開ければ、壁にかけられた燭台に青白い魂が灯る。人が二人並べる程度の狭い廊下が現れた。

「とっても怖いね・・・・・・」

「怖いなら待ってるか?」

「ううん、あたし待っていたくない」

「じゃあ、行くか」

 変わらずラインが先頭を歩く。ルフィア、聖南と続いた。

「しっかし、奴さんも厳重に鍵かけて待ってるじゃねぇか。オレ達試されてるのか?」

「試しているなら期待に添えるまでだ。こんなところで死んでたまるか」

 そんなラインの後ろ姿に、かっこいい、と聖南がもらした。

「仮面の人に聞きたいこともたくさんあるしね」

「なんでラインの妹さんをあんな風にしたんだろう」

 ラインは会話を背中で聞いている。仮面の男は何者なのか。妹セーラはどうしてああなったのか。気になることだらけだ。

「キャスライの師匠を殺したのも、もしかしたら仮面の奴だろ?」

「そうかもしれない。だから僕は聞きたいんだ」

 キャスライの本当の仇かもしれない仮面の男に、問わねばならなかった。そのためにも先に進まなければいけない。

 通路の先に扉がある。慎重に開けると、広間に丸いスイッチが整然と並んでいた。皆が横に並んで眺める。ハテナが描かれている以外特徴はない。ただのスイッチだ。

「なんだろう」

 キャスライが飛んで上から観察する。縦横同じ数のスイッチが等間隔に並んでいた。皆に伝えて反対側まで飛んでいく。青の宝珠が障壁に包まれ浮いていた。

「こっちには、解錠するための青い玉があるよ!」

「取れそうか?」

「障壁に囲まれててダメだよ!」

 となると、このスイッチのいずれかが正解だろう。大きさからして足で踏むタイプのスイッチだ。ラインは角のスイッチをひとつ踏んでみた。軽快な音を立ててスイッチがへこむ。隣同士のスイッチまでへこんだ。三つのスイッチが押されたことになる。

「魔物とかは出てこないんだな」

「こりゃあ、もしかしたらスイッチ全部をオンにするんじゃねぇか」

「スイッチ全部押していいの!?」

 聖南がわくわくして跳びはねている。ルフィアが微笑んだ。

「ねぇ、それならキャスライに上から見てもらおうよ。そうすればどこのスイッチ押してないか確認できるし。どこを押せばいいのか教えてもらえるし」

「そういうことだが、聞こえたか、キャスライ」

「ばっちり聞こえてるよー!」

 キャスライは再び空を飛び始めた。上から見ると、ラインが踏んだスイッチと隣接する二つのスイッチだけへこんでいる。

「押したスイッチと隣同士のスイッチがオンになるようだ。法則性が分かれば、押していく場所も分かるだろう」

「はいはい! あたしスイッチ押しまーす!」

 一旦武器は収めて、皆はキャスライの指示に従ってスイッチを押していく。聖南が間違えてオンにしたスイッチをまたオフにしてしまった。ぐちゃぐちゃになったのを立て直したのはフェイラストだ。ルフィアと協力しスイッチを押していく。しばらくして、最後の角のスイッチと隣接の二つを押すだけとなった。キャスライが降りてくる。

「最後、僕が押してもいい?」

「いいよー! 譲ってあげる!」

「ありがと聖南。それじゃあ、えい!」

 最後のスイッチがオンになった。青い宝珠を取り囲んでいた障壁が消える。遮るように大きな鎧の魔物が降ってきた。大剣を片手に握っている。皆が一斉に武器を取った。

「頭脳労働のあとは肉体労働かよ」

「なんだか固そうな敵だぁ」

「物理攻撃は通らなそうだな。ルフィア、聖南、援護は任せた」

「はい!」

「りょーかい!」

 ラインが跳び上がる。鉄巨人の胸の装甲に攻撃を仕掛けた。


 ガキィン!


「くっ、やはり固い」

 反動を利用して回転し、右手に呼んだ火の術式を鉄巨人にぶつける。鉄板が熱くなっただけで特に効いていないようだ。

「オレの弾丸も通るか分からねぇな」

 炸裂弾から浄化の力が込められた弾に変え、唯一見える顔の部分に撃ち込む。しかし弾丸は弾かれ壁に突き刺さる。

「ダメだ、弾かれちまう!」

「今度は僕が!」

 風の力を以てキャスライの連撃が繰り出される。熱くなった鉄板に傷が少しついただけだった。

「傷がつくってことは、効いてるってことかな!?」

「そのようだぜ!」

 鉄巨人が大剣を振るう。横に薙ぐだけで気流が乱れ、避ける三人の体勢を崩した。がら空きになった前線。しかし二人は詠唱を済ましていた。

「あたしとルフィアの術式、くらえー!」

「氷よ、地と共に敵を叩け!」

 二人の合体昇華術式が放たれる。鉄巨人の足元に浮かんだ氷紋から氷の植物がつるを伸ばした。凍てつく樹木は鉄巨人をがんじがらめに縛り上げる。大剣を動かそうとした手が凍る。ぎちぎちと鉄の擦れる音が広間に渡る。氷の樹木は、先程ラインが熱した鉄板を急速に冷やす。バコン、と大きな音が鳴った。固い鉄板が潰れているのだ。

「えいやー!」

 聖南が鈴を鳴らす。鉄巨人を囲むように現れた地紋から、銛の先をした鋭い岩が装甲を貫いた。心臓部まで到達した銛は、ばらばらと崩れて役目を終える。巨人が膝をついた。稼働停止。氷の樹木に包まれたまま眠りについた。

「やったねルフィア!」

「うんうん、やったよ聖南!」

 二人抱き合う。練習していた訳ではなく、突発的にやったのだ。嬉しくて聖南は跳ねとんだ。

「嬢ちゃん達のすげぇの見せてもらったぜ」

「やれやれ、よくやったな」

「すごいすごい!」

 みんなに誉められて聖南の跳びはねが加速する。小刻みに跳びはねながら動き回っていた。

 ラインが青の宝珠を回収して、スイッチの広間をあとにした。


*******


 ロックされている中央の扉に青の宝珠を差し出す。宝珠は青のロックに反応し、白い光となって消失した。

「次は赤い宝珠だな」

「左の扉、いってみよー!」

 聖南が扉を開ける。右の扉と同じように燭台へ青白い魂が灯された。聖南がラインの隣を歩く。

「今度は何が出るかな?」

「さぁな。面倒な仕掛けじゃなければいいんだが」

「あたしはなんでもどんとこい、だよ!」

「やれやれ、元気でいいことだ」

 元気付けられているのはこっちの方だ。ラインは心の中で思った。

「次もスイッチかな?」

「なわけねぇだろ、キャスライ」

「あのね、僕、もっとみんなの役に立ちたいんだ」

「充分役に立ってるぜ。耳がいい分人よりたくさん音聞いて気配探ってくれるじゃねぇか。おっさん頼りにしてるぜ」

「私も頼りにしてるよ、キャスライ」

「あはは、なんだか恥ずかしいな。・・・・・・ありがとう」

 そうこうしているうちに扉までやって来た。扉を開く。次なる仕掛けは。

「スイッチ、だけど」

「さっきと雰囲気が違うな」

 今度は一直線に伸びた通路の先に赤の宝珠が障壁に包まれていた。通路から枝を伸ばすように別な通路があり、壁際に行くとスイッチがあった。同じようなものが四つある。

「また全部オンにしたらいいのかな」

「僕、試しに近くのスイッチ押してみるよ」

 通路を一歩踏み外せば奈落の底だ。下を覗くと無数の目がまばたきしてはこちらを見えていた。ひっ、とキャスライが悲鳴を漏らす。下を見ないように通路を進んだ。

「押すね!」

 キャスライがひとつスイッチを押した。しかし何も起こらない。それを見てルフィアがひらめいた。

「もしかしたら、四つのスイッチを同時に押すのかも!」

「やってみる価値ありだぜ」

「じゃあ、あたしこっち側にある左のスイッチ押すね!」

「オレは聖南の向こう側のスイッチに行く」

「私はキャスライの向こう側に行くから、ラインが赤の宝珠の受け取りお願いね」

「分かった」

 手すりもない落ちたらアウトの通路をゆっくり進み、なんとか皆はスイッチの前に辿り着いた。下の奈落は落ちてこないかと餌を待ちわびている。一直線に歩くラインも視線を感じて下を見た。

「そんなに見つめるなよ。照れるだろ」

 冗談を言う余裕はあるようだ。赤い宝珠の前にやって来た。皆に合図を送る。聖南がはい、と返事した。

「いくよー、いち、に、さん!」

 同時にスイッチが押される。想定通り赤の宝珠が障壁のガードを外した。ラインが赤の宝珠を受け取り、戻ろうとする。

「やはり来たか」

 入ってきた扉を塞ぐようにしてそれは降ってきた。巨大な双頭の蛇だ。口を開けて大きな声で威嚇する。

「へ、蛇だぁー!」

「こんな狭い足場で戦えってかよ!」

 フェイラストがすぐさま銃を抜いた。浄化の力こもった弾丸を撃ち込む。どうやら今度は効いている。聖南が慌てて地の術式を発動する。しかし術式は蛇の鱗を貫けなかった。

「え、どうして!」

「聖南の術式が効いてねぇ」

「今度は私が!」

「援護するよ!」

 ルフィアが氷の術式を放つ。鋭いつららのミサイルが氷紋から射出された。しかしこれも弾き返しびくともしない。キャスライが大きく羽ばたき素早い連撃を繰り出す。これは効いているようだ。

「術式が効かないの?」

「待てよ、さっきのでかいのは物理攻撃を通さなかった。こいつはもしかしたら、その逆じゃねぇのか?」

「それなら話は早いな」

 ラインも剣を握り、瞬速を起動して一歩で距離を詰めた。双子の頭の間を裂くように刃を入れる。蛇の頭が開かれる。キャスライが片方の頭へ蹴りを入れてから短剣を閃かせた。フェイラストは胴体に銃撃を浴びせた。ラインがまだ生きている片割れの首を落とす。どしん、と巨体が地に伏した。その振動でフェイラストが細い通路から落ちそうになる。底の目玉が彼を一斉に見た。

「おわ、わわわわ!」

「フェイ!」

 キャスライが羽ばたいた。彼の手をがしっと掴んで救出した。ルフィア達も蛇のところへ移動する。フェイラストが彼らのもとに着地した。キャスライも羽をたたむ。

「ふぃー、助かったぜ」

「危なかったね。目玉が全部フェイラストのこと見てたよ」

 彼は銃を片付ける。後ろの底を見る。たくさんの視線と目が合った。

「見てるこっちもひやひやしたぁ」

「危なかったぁ」

「・・・・・・さて、行くか」

「おう」

 ラインは宝珠を抱えて先頭を行く。奈落の底の視線は最後まで彼らの方を見ていた。


*******


 ラインが赤の宝珠を中央扉に差し出す。赤の宝珠とロックは白い光となって消失した。扉にかけられた術式が解錠された。これで先に進める。誰もがそう思っていた。


 ――ズシン。


 背後から轟音が響いた。振り返ると竜が出現しているではないか。

「え、え、竜!?」

「ずいぶん真っ黒な竜だなぁおい」

「いわゆる門番って奴だろうな」

 竜は知能が高く人語を介すると言うが、この竜はただ咆哮を上げるだけで人語を理解していないようだ。

「でも、竜ってあたし達を助けてくれた竜もいたじゃん!」

「残念だけど、この竜は僕達を敵として見なしてるみたいだ」

 皆は武器を構える。黒竜は咆哮を上げて翼をばたつかせた。強風吹き荒れる中、ラインが瞬速を起動して竜の眼前に現れる。

「はぁっ!」

 振るう剣は固い鱗に弾かれた。竜の口が開き、ラインに激しい青白いブレスを浴びせる。余波はルフィア達にも及んだ。聖南が賢鶏ケンケイを呼び出して障壁を張り難を逃れた。

「ライン!」

「ありゃあまずいぞ!」

 青白い炎が収まる。ラインは羽を生やして自分の身を隠して飛んでいた。その周囲には火の精霊サラマンダーが取り巻いている。火を司る精霊の前に、竜の炎は無効化されたようだ。

「今度は俺の番だ」

 体に取り巻くサラマンダーを具現化させる。巨大化した炎蛇は竜よりも大きく、竜の巨体を締め付ける。翼に噛みつき呑み込まんとしていた。

「ギュアアアア!!」

 炎蛇の攻撃にもがく竜。咆哮を上げて暴れるが全く剥がれる気配はない。

「今ノ内ニヤレ!」

 サラマンダーの声にはっとして、フェイラストとキャスライも攻撃を仕掛ける。聖南が地の術式を唱える。ルフィアも浄化の術式を唱え始めた。

「竜を相手にする日が来るなんて、なぁ!」

 フェイラストが弾丸の雨を打ち付ける。キャスライが竜の腹をジグザグに斬り込んだ。その傷に向かってラインは羽ばたき、剣で縦に一閃した。黒竜の血は青く澱んでいた。深く鋭く斬り刻まれた傷口からはおびただしい青い血が流れ出す。サラマンダーの締め付けによってさらに血は溢れだした。

 聖南が地の術式を発動する。空中にできた地紋から岩石が現れ、竜の体に張り付いた。重くずっしりとした岩石に耐えきれず、竜は体勢を崩す。

「ギュアアアア!!」

 最後の抵抗とばかりに竜は青白いブレスを吐き出した。広間の床も天井も所構わず焼き尽くす。

賢鶏ケンケイ、ぐるっと守って!」

「承知!」

 けたたましい鳴き声が響く。瞬間、彼らを障壁で囲ってブレスから守った。障壁の外にいるラインはブレスを避けて竜の背後に回る。剣に魔力を込めて、通り過ぎざまに首を斬り払った。ブレスが収まっていく。秒遅れて、首がずるりと動いた。青い血がぶしゅっと吹き出す。口をかっと開いたままの頭が地に転がった。

「浄化の力よ、癒して!」

 ルフィアが浄化の術式を放つ。サラマンダーごと広範囲の浄化の術式が組まれ、穏やかな力が波打ち竜を清めていく。竜は黒から白に色を変えた。キャスライがはっとする。

「まさか、君は神竜族だったの!?」

「神竜族って?」

「神に近い竜だよ。浄化の力を持った強い竜なんだ」

「なんでそんな竜が、真っ黒のままこんなところにいるんだ?」

「僕にも分からない。神竜族は、ラスカ族と唯一の交流がある種族だから、残念だよ・・・・・・」

 神竜だった竜は粒子となってふわりと浄化の力に流されていく。完全に姿が失われたのを見て、サラマンダーも姿を消してラインの中に帰っていった。聖南も賢鶏ケンケイを戻す。ラインが羽ばたいてこちらに戻ってきた。

「神竜族だったとは。申し訳ないことをした」

「仕方ないよ。僕達を殺そうとしてきたんだ。やらなきゃ、こっちがやられる」

 悲しそうなキャスライを見て、ラインは何か言いたげな口を開いて、閉じた。武器を片付けたフェイラストがキャスライの頭にぽんと手を置いた。

「こりゃあますます仮面の奴を叩く理由ができたな。おっさんも協力してやるから、気を落とすなって」

「・・・・・・うん。仮面の人に聞かなきゃ気が済まないよ」

「じゃあ、気を取り直して扉の向こうに行こうぜ。ここでくよくよしてられねぇ」

「うん!」

 強い意思を瞳に戻したキャスライを見て、皆はほっとした。フェイラストがキャスライの頭をくしゃりと撫でた。

「何が出ても驚くなよ」

 ラインが中央扉に手をかける。重く開いた扉の向こうは階段になっていた。

「みんな、行く前にちょっといい?」

 ルフィアが皆に浄化と治癒術を合わせた術式をかける。傷と穢れが払われて体が軽くなった。

「ルフィア、助かるよ」

「大将に行く前にへばってたら意味ないからな」

「ありがと、ルフィア!」

「助かる」

「どういたしまして。それじゃあ、行こう」

 皆は顔を見合わせ頷く。階段を見る。この先にひずみの元凶が待ち受けている。黒服をけしかけて秩序を乱す者がいる。そして。

(セーラを冒涜した仮面の男がそこにいる)

 階段を上る足に力がこもる。壁にかかるのは絵画ではなくひずみの向こう側の世界だ。自分達がここで戦っている間も、世界各国にひずみが溢れ、黒服で攻撃していたらしい。皆は何も言わずに階段を上っていく。

 出口が見えた。彼らは意を決して部屋に入る。なんとも広い玉座の間。天井のステンドグラスからは様々な色が落ちてくる。窓からは赤い空と黒雲が見えた。

 玉座に足を組んで座るは仮面の男。立ち上がると、ローブで隠していた顔を露にした。仮面の下の瞳は闇に彩られている。

「ようこそ。待っていたよ」

 彼は丁寧にお辞儀した。キャスライが前に出る。

「どうして神竜族を闇に落としたんだ! 彼らは闇を浄化する役割を持っているというのに!」

「どうでもいい質問だ。そこにいたからおれのものにした。それだけだ」

「師匠を殺して、僕のことを騙してラインを襲わせたのも、どうでもいいって言うのか!」

「あぁ、あの時のラスカ族か。お前がしっかりやってくれればよかったのだがなぁ。今となっては、本当にどうでもいいことだ」

「なっ・・・・・・!」

 ルフィアが前に出る。

「世界にひずみを起こす目的は何?」

「それはもちろん自分の領域を広げるためだ。ダーカーの仲間としてやらねばいけないからな」

 フェイラストが前のめりになる。

「だからってオレ達の住んでいる世界を荒らされたら困るんだよ」

「奪われたくないなら、奪われないように守らなくてはいけない。異議を唱えるのは認める。だが、君達がこの世界を満喫している間にも、おれは攻撃の手を緩めなかったよ」

 聖南が鈴を取り出して構える。

「真国も狙ったの!?」

「もちろんだ。奪えるものは全て奪う。欲しいものには手を伸ばす。たとえば、そう」

 仮面の男はラインを見る。

「誰かの妹の肉体を利用してけしかけるなど、造作もないことだ」

「貴様・・・・・・っ!」

 ラインが剣を構えた。

「そして、利用できるものはなんでも利用するのが、我らダーカーなものでな」

 仮面の男がおもむろに仮面を外し床に投げた。彼の顔を見たラインは絶句した。剣先が床を向く。

「やぁ、この顔に見覚えはあるかな?」

 嘘であってほしかった。

 信じたくなかった。

「ライン、どうしたの?」

「おい、ライン!」

「ラインさん!」

「ライン!」

 どうして。どうしてそこにいる。

 妹も、彼も、死んだはずだ。

 普段感情を露にしない男がひどく動揺している。ラインの瞳が震えていた。怯えにも似た震えが起きた。呼吸が乱れる。言葉を押し出すのが怖かった。


「・・・・・・っ、父さん」


 ラインの口から出た言葉を聞いて、皆は静かに驚いた。

 仮面の男は、優しげな微笑みを浮かべて彼らを見渡していた。

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