戦争終結

 帝国の港町ワイアットへ転移してきた一行は、帝国の現在の様子を聞き込んでいた。

「今も国境は閉鎖されているよ。商人なら通行は許されているけど、一般人の通行は厳しいよ」

「わたしは帝国から来たわ。出るときは簡単だったわ。入るのは大変だったのよ。持ち物検査とか、身体検査とか、色々されたわ」

 帝国に入るのは厳しいようだ。国境閉鎖が解かれない限り、目的地であるラインの家には行けない。フォートレスシティは帝国第二の都市であり、また軍事拠点として利用される要塞都市だ。恐らく現在はドーム状の防護障壁が張り巡らされているだろう。容易に入ることができないのだ。

「どうする。やっぱり帝国には入れないみたいだぜ」

「困ったな・・・・・・」

「身分証があればいいって感じじゃないね。王様直々のものでも入れるか分からないよ」

「よその人にはとても厳しい検査があるって言ってたよ」

 ライン達は一旦宿を取ることにした。今後どうするか考えるために。

「戦争が収まらないことには、どうすることもできないぞ」

「どうしたものか・・・・・・」

「ねぇ、みんな」

 ルフィアが小さく手を上げた。

「一旦、それぞれの家に帰って戦争が終わるのを待つってのは、どう?」

「それが一番なのかもな」

「オレも一回ルレインに帰っておかねぇといけない気がするぜ。賛成だ」

「あたしも真国に帰るべきかなぁ」

「聖南を一人にはできないから、私も真国へ一緒についていくよ」

「やった、ルフィアと二人旅だね!」

 話がまとまってきた。

 戦争が終わったら皆はルレインシティに集まると約束し、ラインとフェイラスト、ルフィアと聖南で旅立つことになった。このまま宿で一泊し、明朝の船で彼女らが旅立つ。砂漠の港町ティモスから船で真国へ行くのだ。

「離ればなれになるけど、きっとまた会えるよ」

「うん。会えるよね!」

「おう。ルレインに遊びに来いよな」

「転移が安定して使えるようになったら楽になるんだが。まぁ、仕方ないか。何日かかるか分からないが、その時まで」

「うん。その時まで」

「じゃあ、お別れ会といこうよ。ご馳走頼んでこよー!」

 聖南がはしゃぎ出す。フェイラストがはは、と笑った。ラインも微笑みを浮かべた。


 かくして彼らはひととき別れることとなった。明朝の船で砂漠の港町ティモスへ出発した彼女らを見送り、ラインとフェイラストも港町ワイアットを旅立つ。砦で休憩し、ルレインシティに着いた頃には夜になっていた。フェイラストの家を目指して歩く。

「いやー、まさかお前とこうして歩くことになるとはな」

「どうなるか分からないものだな」

「ケティスに惚れるなよ? オレの未来の嫁さんなんだからな」

「余計なことを言うと惚れてしまうぞ?」

「え、マジ?」

「冗談だ」

 他愛ない会話をして、彼の家に着いた頃には日を跨いでいた。静かに入って、二人はようやく辿り着いたと息を吐いた。

「オレの家に来たからには、郷に入っては郷に従えだ。分かったな?」

「あぁ。それに、ただ居候するつもりはない。依頼屋クライアとして働くつもりだ」

「はは、そりゃあいい」

 疲れたと言ってフェイラストはソファーで横になった。ラインも向かいのソファーに座って身を預けた。眠りはすぐに訪れた。


*******


 戦争は続いた。エイト・シャンバル王国はアポステル帝国がダーカーと結託していることを突き止め、抗議の声明を出した。攻撃を受けた王国兵が、ダーカーの闇に侵食されて魔物になるなどの報告が相次いだ。

 シャンバル王は国を守るため天上界ファンテイジアに赴き、天使達の浄化の力を貸してほしいと嘆願した。天上王レミエルも地上で起きている出来事を見過ごすなどできなかった。天聖の騎士団から浄化の術式を使える者を選抜し、王国の助けになるようにと指示を出した。

 天上界ファンテイジアの介入はいかがなものかと、帝国側は批難の声明を出す。しかし、ダーカーと繋がり戦力にしていることはあってはならないことだ。穢れを撒き散らし、自国の兵すらダーカーに汚染されてしまっている現状を考えると、王国の対応は最もである。


 戦争は二年に及んだ。

 国境閉鎖が解かれたのは、帝国がダーカーと手を切ることを決めた瞬間であった。

 戦争はどちらが勝った負けたということにはならず、天上界ファンテイジアも介入し、停戦協定を結ぶことによって和解することとなる。

 ダーカーと手を結んだ事実は帝国にとって結果有益なことにならなかった。帝国首都ファタリテートは穢れに酷く汚染され、病気を発症する者や大事故が起きるなど不吉なことばかりが蔓延していた。第二の首都フォートレスシティは軍事拠点となっていたこともあり、ダーカーの影響を少なからず受けた。浄化の力を使える者達によって少しずつ浄化され、元の暮らしを取り戻していった。


 ラインは戦争が終結したことを街の放送で知る。ほっとした。ようやく帰れる。そう思うと胸が躍った。

 彼はこの二年の間で少年から立派な青年に育っていた。依頼屋クライアでは少し名の知れた存在になり、稼ぐ額も上がった。依頼屋クライアの出す新聞にも取り上げられるほどだ。火の精霊サラマンダーのおかげで火の力を上手く扱えて、火力の上がった彼は手強い相手も難なく倒せるようになった。

「戦争が、終わった」

 気持ちよく晴れた空を眺めていた。青い空が白い雲を運んでいく。

「聞いたか、戦争が終わったぜ」

「あぁ。放送で聞こえた」

「これでようやくお前も、家に帰れるな」

「そうだな」

 フェイラストは二年の内に街でちょっとした名医として知られるようになっていた。魔眼の力を以て患者の診察に当たれば、どこが悪いのかすぐに分かる。人柄の良さもあって評判になっていた。ケティスとはまだ結婚に至ってないが、二人は幸せそうに暮らしている。居候していたラインもそのことはよく知っていた。

「約束を覚えていたら、ルフィアと聖南がこっちに向かってくるなぁ。真国から手紙来てないか?」

「ポスト見てくる」

 ラインが表のポストを開けると、手紙が何通か来ていた。その中に真国からの手紙が混ざっていた。きっと聖南からだ。フェイラストのいるリビングに戻って開くと。


「やっほー! 元気してた?

 王国と帝国の戦争がもうすぐ終わるって聞いたから、ルフィアと一緒にそっちに向かうよ!

 首ながーくして待っててね! それじゃ!」


 元気な内容を見て相変わらずだな、と思った。フェイラストに手渡す。彼もはは、と笑った。

「聖南姫は元気の塊みてぇだな。こっちに向かってるならゆっくり待ってようぜ」

「そうだな。迷子にならなきゃいいが」

「聖南一人なら確実に迷子だな」

 がははとフェイラストが笑う。ラインもつられてふっと笑った。


 一週間が経ち。ルレインシティではお祭りが開催された。商店街は祭りの装飾が施され、食べ物が多く並んでいた。海が目の前にあるのもあって、海産物も出回っていた。

 フェイラストとラインは装いも新たにして、街の公園で彼女達を待っていた。街に入って真っ先に訪れる公園だ。見落とすことはないと思うが。

「聖南がお祭り一直線に行かなきゃいいけどなぁ」

「祭り目掛けて飛んでいきそうだよな」

「ほんとそれな」

「誰がお祭り娘だってー?」

「そんなこと言ってねぇ、・・・・・・おろ?」

 聞き覚えのある声。二人が振り向くと、聖南が頬を膨らませて立っていた。後ろにはルフィアもいる。

「聖南ぁー! 久しぶりだなお姫様!」

「ルフィアも、大きくなったか?」

「ちょっと身長伸びました。兄さんこそ、かなり大きくなったよね。フェイラストと同じくらいになってるよ」

「お兄さんショックだぜ」

 二年経っても変わらない笑顔を見て二人は安心した。聖南がぐるるとうなるのも相変わらずだ。

「ねぇねぇ、お祭りに行きたいー!」

「言うと思ったぜ。せっかくだ。祭りに行くか!」

「わーい!」

「やった。お祭りだー!」

「やれやれ、元気そうで何よりだ」

「でしょー!」

 聖南とルフィアが笑い合う。ラインとフェイラストは顔を見合わせ、ふっと笑った。


 四人は再びこの地で集う。

 最後の目的地、ラインの家は、遠くとも近くに感じた。

 その前に、まずはお祭りを楽しんでから――。

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