いざ、天上界へ

 ヴェルトゲーエン。地上界エルデラートを一周する霊峰である。海にあるものは島となり、陸にあるものは山となる。穏やかな山もあれば険しい山もある。王都の背にある山もヴェルトゲーエンの一部だ。

 一行は馬を降りる。聖南がお礼を言って優馬ユウマを戻した。山のふもとにある小さな集落へと入る。道を進むと、白く美しい毛並みの大型狼に出会う。白狼族と呼ばれる狼の一匹だ。

「人の子?」

 耳と尻尾を立てて少し警戒体勢だ。ラインが前へ出て自分達の目的を説明した。狼の目がすっと細くなる。

「承知した。しかしただでは登らせられぬ」

「何故だ」

「登山道に巣食う魔を倒してもらおう」

 魔とはなんだろうか。もしやダーカーか。ラインは考える。

「天の道に通ずる場所に住む、我ら白狼族の役割を邪魔する者を排除できれば約束しよう」

「分かった。みんなもそれでいいな?」

「うん、いいよ」

「悪いやつ倒すのなら、任せてよ!」

「ちゃちゃっと片付けようかね」

「わたくしは戦えませんが、応援してますね!」

 狼に案内され、集落の奥へとやって来た。顔は狼だが、人の姿をした狼の子供が走り回っている。案内してくれた狼がすっと二足で立ち上がると、手足と頭以外の部位は人の姿へと変身した。ルフィアと聖南が驚いて声を出す。狼が美しい白い毛並みを揺らして振り返る。マズルが突き出た獣人の顔になっていた。

「人の子。お前達の中に穢れを内包した者がいるな」

 彼は鼻をひくひくさせてにおいを嗅ぎとった。ラインが自分のことだと思い頷いた。

「それは俺だ。・・・・・・訳ありなんだ」

「穢れが体内に残るとは。ハーフエンジェルの力を感じるが、それでも貴様は天使か」

「・・・・・・一応、天使です」

 自分が天使であるという自覚はあるが、こうもきつく言われたのは初めてだった。胸に手を当てて、自分の体内に流れる穢れを感じ取る。どうしても払うことのできない固着した穢れ。ルフィアの浄化の術式でも完全には打ち払えぬ濃いものだ。

「穢れを纏う貴様の試練だと思え。しかし我らはそこまで情が無い生き物ではない。魔の者を倒す前に、我らの集落で休んでいくとよい」

「お気遣い、ありがとうございます」

 狼は名乗らず集落の奥へと去っていく。ふと視線を感じて振り向くと、小さな狼獣人が無垢な瞳でこちらを見ていた。大きな赤いキノコの影や、家の影から覗く者もいる。興味津々だ。

「かわいい・・・・・・!」

「ねー! とってもかわいい!」

「白狼族の子供も獣人になれるんだな。生態の分からない種族と言われてるから、お兄さん興味ありありのありだぜ」

「解剖するなよ」

「誰がするかよ。ははっ、言われるとしたくなっちまうなぁ」

「こら、フェイラスト」

「冗談だって!」

 四人が話していると、クロエが彼らに近づいて腕を広げている。おいで、と優しく呼び掛けると、狼子供は目を輝かせて飛び出してきた。クロエの腕に二人の子供がきゃっきゃと喜びながら飛び込んだ。

「まぁ、なんてかわいらしいのでしょう。いい子達ね」

 クロエが子供達を撫でる。ルフィアと聖南が羨ましそうに見て。

「わ、私も!」

「あたしもー!」

 腕を広げて待ってみると。

「きゅっ!」

「きゃー!」

「きゃうー!」

 子供達は嬉しそうに彼女らの腕に飛び込んだ。かわいらしい鳴き声を上げて甘えている。ルフィアと聖南はもふもふの毛並みを堪能しながら子供達を撫でた。

 彼女達が楽しんでいるならそっとしておこう。ラインとフェイラストは二人で集落を見て回る。集落の奥は登山道へと繋がっていた。これ以上進むなら全員で行くべきだ、と引き下がった。

「この高さだと、千メートルはあるよな。空飛んで行った方が速そうだぞ」

「確かにな。しかし、聖南とクロエが無事に登れるといいのだが」

「彼女達なら心配要らんぞ」

 いつの間に。気配が感じられなかった。背後にたくましい体つきの狼獣人が立っていた。左目に傷が走り、眼帯をしているのが目立つ。

「此処へ来る者は天上界ファンテイジアを目指す者。貴様らもそうであろう?」

 二人は頷く。

「俺達は山を守護するためと、旅人や冒険者をもてなすために暮らしている。山に登る冒険者を引き止めはしない。だが、荒らされるとなれば話は別だ」

 狼はラインを睨む。彼も目を鋭くさせた。

「貴様ら人の中に、良い奴と悪い奴がいるのは理解している。もし悪い奴ならば、噛みついて今晩の飯にしてやる。分かったな?」

 二人は頷いた。ルフィア達にも言っておくと伝えた。たくましい白狼の獣人は、山の入り口で見張りをしに行った。

 二人は集落の中で一段高い場所にできた家を訪ねた。森の木々で造られた家は、藁や植物が敷かれていた。土足で入って良いものか考えてると、奥から少し年老いた狼獣人が現れる。この群れをまとめる族長のようだ。

「上がりなされ」

 二人は挨拶して家に入る。狼獣人は揺り椅子に座った。促されて彼らは藁の上に座る。

「此の魔力の感覚は、ハーフエンジェルだな。だいぶ穢れに冒されているようだが」

「・・・・・・はい」

 ラインは静かに返事する。

「本来ならば、穢れを纏う者は立ち入りを許さぬ。しかし、お主からはただならぬ力を感じる。穢れではなく、太古の昔地上に降り立った天使のような、特別な力だ」

「特別な力?」

「うむ。穢れを払う強き力だ。なのに何故、お主は穢れを内に秘めておるんじゃ?」

「それは、その」

 背の刻印が悪さをしているから。とは言えなかった。どもるラインを見て、フェイラストは話題を変えようと咳払いをして尋ねてみた。

「あんた達、白狼族は教会も何も無しにどうやって穢れを払っているんだ?」

 長はひとつ頷くと、山の見える窓を眺めた。

「霊峰の力だ。天上界ファンテイジアの入り口を守護する一族を見守ってくださるのだ。我ら白狼族が霊峰を守り、また霊峰が白狼族を守る」

「それなら、何故、魔の者が入り込んだんだ?」

 最もな問いに、族長は眉をひそめた。

「それが、何故入ってきたか分からないのだ。霊峰の力が失われつつあるのか、別な要因があるのか・・・・・・」

「その辺は分からないか。つまるところ、オレ達が魔の者を倒して天上界ファンテイジアへ行けば、あんた達は許してくれるんだな」

「うむ。・・・・・・しかし、穢れを内包する天使か。これも何かの兆候なのやもしれぬな」

 族長はラインを見る。霊峰の力が働いているなら彼の穢れも払われるはず。しかしライン自身もどうにもできない穢れの固着は、簡単には払われなかった。

 ラインは背の刻印が疼くのを感じた。ずきんと痺れが体に走る。痛みで漏れそうな声を我慢した。

「今日はもうすぐ日も落ちる。ゆっくりしていくとよい。しかし魔の者はいつ襲ってくるか分からぬのじゃ。気を付けてな」

 族長は、一段下にある隣の家が空いているので、そこで休むといいと言ってくれた。お言葉に甘えて休むことにする。そのことを伝えようと一旦ルフィア達を探しにいく。

「お前の背中のことは、オレ達も分からないことだらけだ。ルフィアの力で収まっていることだけは分かる。それ以外はどうにもできねぇもんな」

「刻印の中に眠る、かつて悪さしていた魔王の息子が出ていけば、恐らくは」

「お前の穢れも晴れるかも、だな」

 医者として興味がある。フェイラストは告げた。ラインは手のひらに視線を落とす。いつか、穢れは晴れるのだろうか。

「あ、兄さんにフェイラスト」

「兄さんんぅ?」

 フェイラストがなんじゃそりゃ、と反応する。ラインは変わる様子もなく返事をした。

「あれ、フェイラストには言ってなかったっけ」

「初耳だぞ。いやまぁ、初めて会ったときは兄妹かと思ったけどよぉ。まさか兄さん呼びになるとはなぁ意外だったぜ」

「そう呼びたくなったの。ねぇ、聖南とクロエ見てない?」

 二人は見ていないことを伝える。探して来ようか思ったとき、彼女達が合流した。

「ごめーん、子供達のお母さんと話し込んでた!」

「白狼族の皆さんが温かく出迎えてくれるので、ついつい」

 クロエの足元には、白狼族の子供がくっついている。顔を隠したり出したりしていた。ラインとフェイラストを上目遣いで見ている。二人はしゃがんで、おいでと誘ってみた。

「きゅう!」

 笑顔になった子供達がラインとフェイラストに抱きつく。優しく撫でる。ラインは抱き上げた。フェイラストは眼鏡をいじられて困っていた。

「ははっ、くすぐってぇなぁ」

「ふかふかだな・・・・・・」

 もふもふの尻尾をそっと撫でると、柔らかな毛並みが感じられた。

「きゃうきゃうー!」

「二人も気に入られたみたいね」

「いいねー!」

「ふふ、かわいらしい」

「もががが」

 フェイラストの顔に子供がくっついた。ラインに引っ付く子供も、肩車をして遊んでいた。


 夜。あてがわれた空き家で休んでいた。

 明日に登るヴェルトゲーエンの山。穢れを打ち払う力を持つ霊峰はどんな試練を与えるだろうか。

「魔の者がいったいなんなのか、分かるわけだね」

「いつ襲ってくるか分からないと言っていた。寝ている間に来るかもしれないぞ」

「それは怖いや・・・・・・」

「白狼族の皆さんは、山を登る旅人をサポートすると言っていたわ。魔の者の対処さえできるなら、わたくし達を案内してくれると思うの」

「ちゃちゃっと魔の者を倒して、天上界ファンテイジアを目指そうぜ。なんだったら、オレの眼で見れば・・・・・・」

 そこまで言ってフェイラストは黙った。不審に思う女性陣に迫られる。

「フェイラストの眼で見るって、何さ」

「気になるよ」

「なんのことです?」

「いや、あのですねぇー・・・・・・」

 観念したフェイラストは、ついに魔眼の話を打ち明けた。ラインは既に聞いていたのでリアクションは薄い。いや、いつも冷静な彼だから聞いても驚かないのだが。

「フェイラストの目、そんなすごいことができるんだぁ!」

「全然気づかなかったよ」

「不思議な目なのですねぇ」

(いや、クロエあんたは分かってるだろ)

 フェイラストは一度彼女を視ている。その際に彼女も気づいてこちらを振り返っている。魔眼に映った彼女の正体はまだ言えないが。

(まぁでも悪い奴じゃあねぇよな)

 と、納得してまだ黙っておいた。気づいたクロエがふふ、と笑う。

「みんな、明日は頑張って山登りしようね」

 ルフィアが微笑む。ラインは頷いた。

「頑張るー!」

 聖南が手を突き上げた。


*******


 すっきり晴れた朝となった。起きると白狼族の子供達が食べ物を運んで来ていた。母親の狼獣人も一緒にやって来て、スープを盛り始めていた。

「はわわ、そんなお気遣いなく!」

 びっくりしたルフィアが腕を振ってわなわなしている。母は微笑みスープを差し出した。思わずルフィアは受け取った。

「あ、ありがとうございます」

 起きてきた皆も、彼女達の世話になった。

 白狼族は旅人を丁重にもてなすことを一族の規律のひとつとしている。それは霊峰の頂を目指す者への敬意に近かった。だからライン達にも同じようにもてなす。無論、悪しき心持つ者には牙を剥く。その時は容赦ない。

 温かいスープをご馳走になり、子供達から果物をもらって食べる。なつかれた皆は子供達に撫でることを求められる。わしゃわしゃと頭を撫でてあげた。

「きゃう!」

「きゃっ!」

「きゃきゃっ!」

 喜ぶ子供達がぴょんぴょん跳ねた。愛くるしい姿に皆の表情も綻ぶ。とても可愛らしかった。


 身支度を終えて、皆は族長の家を訪れた。

「山を登るのかね」

「はい」

 ライン達は既に覚悟を決めている。強き意志を感じ取り、族長は深く頷いた。

「行ってきなされ、旅人よ。魔の者に気を付けてな」

 族長から背中を押される。彼らは家を後にした。集落から少し行った先の登山道入り口へ移動する。そこには、集落の入り口で出会った男と、眼帯を付けた男が待っていた。

「登るのだな」

「登ります」

「我ら白狼族が山を登る者を案内する。魔の者の相手、任せるぞ」

「分かりました」

 案内する彼の名はザキ、眼帯をしたたくましい彼はゴウと、それぞれ名乗った。

 一行はザキを先頭に、ライン達が続く。ゴウは最後尾についていく。登りの険しい山だ。自然のままの登山道は彼らを苦しめた。

 しばらく登ってようやく二合目に辿り着く。ここで長めの休憩を取った。聖南が疲れてぜえぜえと息を荒くする。顔色は変わらないが、ラインも息を荒く吐いていた。

「道が整っていれば、もっと歩きやすいのですが・・・・・・」

「仕方ねぇさ。ヴェルトゲーエンの洗礼だと思って登ろうぜ」

「あたし、ここでバテそう・・・・・・」

「聖南、頑張れー!」

「頑張るよルフィアー!」

 水分補給を済ませ、皆は山を登り始める。ザキとゴウは狼の姿に戻り山を案内する。聖南がバテてしゃがみこむと、ゴウが乗れと言って背に乗せた。

「なんか、新しい子を呼べそうな気もする・・・・・・!」

「ここで新しい子呼んじゃう?」

「貴様達、静かに待て」

 先頭のザキが立ち止まる。鼻を動かしくんくんとにおいを嗅いだ。魔の者の気配がした。ラインとルフィアも感じ取った。間違いないこの気配は。

「ダーカーがいるよ」

「穢れを払う山に何故ダーカーが・・・・・・」

 ダーカーを組成しているのは人々の悪意と穢れ。浄化によって打ち消せる。しかし、浄化の力が湧いている山に居座ることのできる個体がいるようだ。

 慎重に山を登る。道の先に黒いもやが湧き出していた。もやの出所は、登山道を少し進むと分かった。

「山に穴があいてるよ!」

「なんということだ。霊峰に穴をあけるなど、禁忌である!」

 山にあいた穴の奥から穢れのもやが溢れていた。ルフィアが浄化の術式を発動して浄化を試みた。美しい光に包まれ、穢れのもやは収束した。

「クアーー!」

 突如空から奇怪な声がした。鳥型のダーカーが飛行している。

「せっかく巣を作ったっていうのに、お前達、なんてことをしてくれたんダ!」

「あなたが穢れを溜め込んでいたのね!」

 クロエがダーカーを睨む。ラインとルフィアは剣を抜いた。

「クアー! 此処で卵を生んで、狼共を餌にしてやろうって考えてたのニ!」

 鳥型ダーカーは旋回してライン達を狙う。大きなくちばしを回避。登山道の一部が崩れた。突き刺さったくちばしが抜かれる。左を向いた方向にラインがいた。彼は駿足を起動して鳥型ダーカーの上に飛び乗る。剣を突き立てた。

「クェエエエエ!」

 ダーカーが暴れる。ラインは翡翠色の一対の羽を生やし、空を飛んで体勢を立て直した。氷の術式が飛んでくる。ルフィアが放ったそれはダーカーに直撃した。奇声を上げるダーカー。ふらつく姿勢を元に戻して空へ舞った。

「逃がすかよ!」

 フェイラストの銃撃が追い付いた。浄化の力を込めた弾丸が命中し、ダーカーの翼に穴があいた。バランスを崩して落下してくる。

「それ!」

 聖南が鈴を鳴らす。地を司る術式は、ダーカーの落下点に地紋を浮かび上がらせ、槍のように尖った岩で貫いた。

「浄化の力よ!」

 ルフィアが剣を向ける。浄化の術式を使用し、ダーカーは奇声を上げて浄化された。

「これで・・・・・・えっ!?」

 ルフィアが信じられない、とダーカーのいた場所を見た。

 何処から穢れを集めだし、鳥型ダーカーは再び姿を現したのだ。

「クェエエエエ!」

「なんでさ!」

「浄化の術式でも浄化仕切れねぇのか!?」

 フェイラストははっとして、魔眼の力を起動した。ダーカーを視る。何も印が浮かんでいない。やはり、と彼は合点がいった。

(あいつの弱点はここじゃねぇ)

 鳥型ダーカーが穢れのもやを吐き出す。霊峰の力が弱まっている場所にいる彼らは、もろに穢れを浴びてしまう。このまま浴び続ければ、彼らは闇に染まって動けなくなるだろう。

 フェイラストは辺りを見回す。魔眼が捉えた。先のもやが溜まっていた場所。穴の中心に、赤い印が浮かんでいた。

「そこだぁ!」

 フェイラストが跳び上がる。銃を構え、穴の中心に向かって弾丸の雨を降らせた。

「おおおぉ!!」

 雄叫びを上げて撃ち込む。カチッ。弾切れ。彼はニヤリと笑った。

「クェッ!?」

 突然、鳥型ダーカーの動きが止まった。宙に浮いたまま体が固まっている。

「お前の本当の弱点は、穴の中心だ!」

 固まったダーカーを足場にして跳び、登山道へと戻った。ルフィアがもやを浄化してようやく視界が晴れた。フェイラストの言葉を聞いて、ラインは穴の中心に剣を突き立てた。

「グェエエエエエ!!」

 鳥型ダーカーが断末魔を上げる。細かな白い粒子となって、浄化の力に飲まれて消えた。

「やったー!」

 聖南がゴウの背に乗って皆のところにやって来た。

「フェイラストの目のおかげだね!」

「いやぁ、お兄さんもなかなかやるでしょ」

 と、鋭い頭痛が走る。銃をしまった手で頭を抱えた。ルフィアが近寄って治癒術を使用するが、治る様子はない。大丈夫、とルフィアに伝えた。

「魔眼の後遺症が出てるんだ。いててて」

 彼の魔眼は確かに優秀だ。けれど、使いすぎると激しい頭痛が襲いかかる。今の頭痛もそれだった。

「わりぃ、聖南みたいに乗せてもらえないか。歩くには、ちときつい・・・・・・」

 よろめいて立ち上がったフェイラストは今にも倒れそうだ。

「魔の者を本当に倒すとは。強き者達だな」

「これで俺達の気も休まる。さぁ、行くぞ」

 フェイラストはザキの背に乗せてもらい、一行は山の頂を目指す。


 ようやく七合目まで来た。代わるがわるザキとゴウの背に乗せてもらい、大きな休憩を取る。つづら折りの道はここで終わり、八合目からはほんの少しなだらかな道を辿ることになる。なんとかこれで一区切りだ。皆の持ち寄った水分も半分を切った。節約していたとはいえ、減るのはやはり速い。

「あたし、足ががくがくするよ」

「山登りを趣味でしてる人の足ってどうなってるんだろうね」

「本当に、疲れますわね」

 女性陣はくたくただ。ラインとフェイラストも疲れが足にきていた。フェイラストは膝が笑うのか屈伸して血流を促す。

「いやぁー、急な山だとは思っていたけど、ここまでとはな」

「父さんもここを登ったのだろうか」

「お前の親父さんも登って天上界ファンテイジアを目指したのか?」

「あぁ。一度だけ行ったと聞いてる」

「なら、親父さんに負けてらんなぇな」

 フェイラストが立ち上がる。ラインもつられて立つ。

「あと少しだ。行こうぜ」

 ザキが少し先に行っている。後ろを向いて待っていた。女性陣も立ち上がって、最後の一踏ん張りと山を登り始めた。

 八合目のアップダウンのある稜線。九合目の上り階段が体力を奪う。しかし彼らには見えていた。頂に見える崩れた神殿が。立ち止まる者はいなかった。ザキとゴウの背に乗る者もいない。自分の足で登ろうと決めた。

「頑張るもん・・・・・・!」

「聖南、ファイトー!」

「オレも、頑張ってるぞぉ!」

「フェイラストさん、頑張って!」

 皆で声を掛け合い、動かなくなりそうな足を動かした。

「・・・・・・あれは」

 ラインは目の前に広がる景色を立ち止まって眺める。ついに頂上に辿り着いたのだ。

「や、やったー!」

「着きました、ね・・・・・・!」

「なんだ? あれは神殿か?」

 ザキとゴウが前に立ち塞がった。険しい表情を見て、ライン達は身構える。

「本当に魔の者を倒して最後まで登ってしまうとは。貴様らは、久方ぶりの登頂者だ」

「白狼族を代表して、敬意を示そう」

 二人はその場に座り、頭を垂れた。

「ザキ、ゴウ。ここから天上界ファンテイジアに行けるんだな?」

「左様。だが、行けるかは貴様ら次第だ」

「行く方法が分からねば、山を登った意味も無いだろう」

 彼らは道を開けた。行くがいい、と言っている。ライン達は崩れた神殿に立ち入った。床には転移の紋が掘られている。一部が崩れているが。

「・・・・・・使えそうだな」

 ラインはできると思った。父も通ったかもしれない道だ。自分も行けると信じていた。

「みんな、転移の紋に乗って」

 ルフィアが呼び掛ける。転移の紋に皆が乗ると、ルフィアは頭の中に天上界ファンテイジアをイメージする。転移の術式を起動した。床に掘られた転移の紋が反応する。

「うおっ!」

「わわわ!」

 光が溢れだす。

「ザキさん、ゴウさん、ありがとうございました!」

 ルフィアが笑顔でお礼を言う。ついに彼らを飲み込んだ光は、天に向かって伸びて、消えた。

「旅人よ、よい旅路を」

 天に昇る光を見つめ、ザキとロウは彼らの旅路を祈った。




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