【中編】真国

 聖南は宮廷を隠れながら進んでいた。兵の目を掻い潜る。部屋に入ったり、中庭の木に隠れたり。順調に進んでいた。

麗鈴レイリンがあって、恵鼠ケイソが呼べたらなあ」

 ネズミの恵鼠ケイソは隠密行動、潜入捜査などを得意とする。砂漠の国でやったときのように情報収集を頼みたいのだが。麗鈴無しでは召喚はできなかった。

 聖南は宮廷の内部は知り尽くしている。抜け出して宮町みやまちに行くことなど朝飯前だった。そんな彼女だからこそ、抜け道を覚えている。

「えーと、この辺!」

 壁をばんと叩く。隠し扉が現れた。すぐに入り込む。壁は元の形に戻った。暗闇の中、壁つたいに歩く。出口の壁をそっと押して、兵がいないか確認。最低限の隙間を開けて廊下に出た。

「よしよし」

 長い廊下を進み、牢屋を目指す。宮廷の中心から遠いところに牢屋はあった。まだあと半分といったところか。

「みんな、待っててね!」

 抜け道を駆使して、聖南は皆のいる牢屋へ向かった。


 牢屋。ライン達は一人ずつ牢に入れられていた。木製の檻のため、剣を呼び出して暴れればすぐに対処できそうだが。

(ここで暴れて聖南の身を危うくするのはよろしくないな)

 ラインは檻の隅で考えていた。壁を挟んで隣のルフィアは静かだ。フェイラストは銃を奪われて身動きが取れない。

(処刑される前に逃げ出さなければ)

 亜空間から剣を呼べば、牢屋は破れる。しかし、その後どう動くかが肝心だ。また捕まってしまえば元も子もない。

(今はじっとしているのが得策か・・・・・・)

 目を閉じる。何かできないか、再び考えた。


 聖南は牢屋へ近づいていた。問題は、見張りの兵をどう抜けていくかだ。

(こっちに来たら兵が増えてる)

 警戒をどう潜り抜けるか考えた。

(あたしが姿を見せて、隠し扉の中に入れば)

 一か八か、聖南は賭けに出た。こちらにやって来る兵を確認し、わざと姿を見せる。

「ばぁ!」

「せ、聖南姫!」

「あたしの大切な仲間を返して!」

 聖南は兵に向かって走り出した。兵は反射的に剣を構える。身軽な聖南はすっと通り抜けて、曲がり角を曲がる。兵は慌てて追いかける。曲がり角の先には、聖南は既にいなかった。

(よし、作戦成功!)

 既に壁の中の抜け道へ入り込んでいた。暗闇を足早に駆け抜け表へ出る。ちょうど兵が通り過ぎていくところだ。聖南はこそこそと泥棒になったつもりで動き回る。

「聖南姫」

 びくっ。聖南は恐る恐る振り向いた。

「聖南姫、ここの壁に」

「豊城、なにっ」

 豊城が壁を叩き、隠し扉へ聖南を押し込めた。すぐそばにいた兵が怪しいと感じて豊城のもとへ行くが、何も無いと思って通り抜けていった。一息吐く。周りを確認して、壁を叩く。聖南が表に出てきた。

「豊城、どうして」

「爺やも聖南姫と同じ気持ちです。このままクーデターを成功させる訳にはいきませぬ。さぁ、今のうちに早く、仲間のところへ!」

 豊城に牢屋への道を教えてもらう。聖南は頭の中の地図を頼りに牢屋へ向かった。隠し扉を上手く使って兵をかわし、ついに牢屋の入り口に辿り着いた。

(わわ、厳重すぎ)

 あと一歩が踏み出せない。素早く小部屋に侵入して、物影に隠れる。手をついたところに固い感触があった。

(これ、フェイラストの二丁拳銃!)

 回収して一丁腰帯に入れた。一丁は自分の手の中に残す。

(もしもの時のために、使い方は教えてもらってる。けど、使わないで終わりたいな)

 ぎこちなく銃を構え、物影から顔を出す。兵はいない。動く。牢屋への扉を開ける。地下への階段が現れた。足音は聞こえない。静かに階段を下りていく。牢屋が見えた。人の声がする。

(まずい、人がいる)

 銃を握る手が強くなる。撃つのが怖い。でも、やらなくては――。

(あたしが、殺される)

 目をぎゅっとつむり、開ける。兵は二人。槍と剣を持っている。聖南は、飛び出した。

「動かないで!」

 突然の声に兵は武器を構えた。聖南だと気づくと兵は攻撃をためらった。

「聖南姫、その異国の武器を下ろしてください」

「あたしは本気なの。みんなを解放して」

 兵は顔を見合わせ、聖南の言う通りに動いた。牢の鍵を開け、三人を外へ出す。

「全く、無茶しやがって」

 フェイラストが大きなため息を吐く。ラインとルフィアも心配した顔で聖南を見た。

「聖南姫、このことは、内密にお願い致します」

 兵の一人が焦りながら言う。聖南は笑う。

「うん。あたしに任せて」

 彼らが言うに、聖南の父親を信じる派閥がいるらしい。彼らもそうであり、彼の娘である聖南のことも信じていると言う。

 聖南は二丁の銃をフェイラストへ返した。

「で、俺達を助けてどうする」

「とりあえず、あたしの部屋まで行こ。案内する」

 階段を駆け上がり、聖南を先頭に宮廷を駆け抜けていった。


*******


 聖南の部屋へ皆を案内し、一旦休憩を取る。スニーキングをして戻ってきた皆の心臓はどきどきしたままだ。

「聖南、あんなに抜け道覚えてるなんてすごいや」

「あれを覚えてるから、宮町に抜け出せるんだよ!」

 にひひー、と聖南が自慢げに語る。天蓋付きの聖南のベッドに、ルフィアは座った。ラインとフェイラストも客用の椅子に座っている。

「これからどうする。俺達を助けたところで、形勢が逆転する訳でもないだろ」

 聖南は彼らの顔を一人一人見る。

「力を貸してほしいの。真国を助けてほしいの」

「おう。充分そのつもりだが、どうする」

「みんな、明日の処刑の日に、出て」

 聖南の言葉に皆が驚いた。おいおい、とフェイラストが言葉を漏らす。

「父上を信じてる兵士さんに協力してもらう。きっと絞首刑にされるから、縄を切ってもらう。そうしたら、騒動を大きくしてほしいの」

「大胆な計画だなぁ。要はオレ達で陽動作戦してほしいのか」

「ようどう? よく分かんないけど、そういうこと。このままだと、妹の玲奈が代官の言うこと聞くだけのお飾りになっちゃう。あたしは、それを許さない」

「傀儡政治になる訳だな」

「難しい言葉はよく分かんないや! とにかく、みんなには暴れてほしい。その間に、あたしは父上を探しにいく。父上探してみんなの前に出せば、代官の悪いこと防げると思うの」

「目星はついてるのか?」

「うん。みんなのいた牢屋にいなかったってことは、きっと父上の部屋にいると思う。部屋への行きかたは、あたしが知ってるから大丈夫」

「聖南がお父さんを助けに行って、みんなの前に出すまで、私達は頑張ればいいね」

「武器はこっちに戻ってきたが、聖南の鈴は持ち去られたままだな」

 聖南はがっくりして俯いた。フェイラストが苦笑いする。彼女は再び顔を上げた。

「麗鈴はきっと代官が持ってると思う。白羽はくばね家に代々伝わる巫女の宝だよ。十二聖獣を召喚するための、大事なものなの」

「それ無しでどうにかできるか?」

 彼女はにっこり笑った。

「麗鈴のことは最後でいいよ。まずは、父上を助けてからだよ!」

 明日の動きかたは粗方決まった。

「ちょっと待て。てことは、明日の処刑に出なきゃいけないだろ?」

「そうだね」

「また牢に入る必要があるじゃねーか!」

 フェイラストが頭を抱えて仰け反った。椅子を後ろ足だけでバランスを取り体を伸ばす。

「牢屋に戻ろっかー」

「やれやれだな」

 思わず三人は笑う。聖南に案内され、抜け道を通って牢屋に入るために戻った。兵士は聖南が説得して、父を信じる派閥への伝達を頼んだ。


*******


 聖南が作戦を練るのと時同じくして、代官も自らが立てたクーデターを楽しんでいた。聖南が麗鈴を持って帰ってきたことにより、新たなみかどに奉る存在を固定できる。麗鈴が持つ召喚の力以上に、その物自体がみかどの証としての効力を発揮する方が狙いだった。

「豊城、聖南姫は部屋にいるな?」

「はい。姫は部屋におられます」

「聖南姫の付き人のお前が言えば、大人しくなるのは正解か。よいぞ」

 代官は豪奢な飾りの部屋を歩く。椅子に小柄な男と細身の男が座っていた。にやにやと気味悪い笑みを浮かべている。

「明日には、この国は我が物となる。今から宴が楽しみだな」

 がっはっは、と大口を開けて笑う。男達もくすくす笑った。豊城は頭を下げて、表情を読み取られまいとした。

(聖南姫、奏輝様、爺やにはどうすることもできませぬ・・・・・・)

 己の無力さを嘆いた。彼女の手助けをしたいが、彼らに監視されている。動こうにも何もできなかった。

「玲奈姫が明日からこの国のみかどとなる。しかし幼すぎるゆえ、代理の官が必要だ。そこにわしが据えられれば完璧よ」

 薄汚い計画を知っていながら、豊城はどうすることもできなかった。あとは奇跡が起こるのを信じるのみだ。


 日が落ちる。

 聖南達の決戦の時が、刻一刻と迫ってきていた。

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