真国へ向けて

 真国へ出ている船は、砂漠の港町ティモスから出港している。そこへ行くには、まず港町ワイアットへ向けて、来た道を戻らなくてはいけなかった。街道を足早に進んでいく。

「オレ達が倒した巨大獣ジャイアント、この前砦を封鎖させてた奴なら、きっと開いてるぜ」

「そういえば、歩いていたら商人さんとたくさんすれ違ったね」

「荷馬車の人もいたよねー」

「森の集落のじいさんに、孫に会ったと言おうと思ったが」

「あ、そうだね。おじいさん大丈夫かな」

「気になるなら、寄り道していくか」

 一行は以前来た森の集落へ向かった。森へ入り、魔物を警戒しながら先に進む。山に近いため雲の動きが怪しい。

「そんなっ」

「えっ、嘘・・・・・・!」

 森が開けた。集落は、無惨に破壊されていた。数件立っていた家は踏みつけられたようにぺしゃんこだ。ライン達が休んだ屋敷も壊れていた。

「ねえ、おじいさんは、もしかして」

 聖南がルフィアに抱きついて震えている。頭を撫でてなだめた。フェイラストがおじいさんのいた家へ向かう。家の柱や家具が木っ端微塵になっている。よく見ると、黒ずんだ血が染みている場所があった。

「じいさん・・・・・・」

 彼は家の下敷きになって死んでいる。フェイラストは十字を切った。皆のもとへ戻る。事を話すと、聖南は泣いてしまった。

「私、浄化するよ」

「なんで浄化を?」

「このままだと、穢れがおじいさんの魂を星に還してくれない。魔物になってしまうから、浄化するの」

 ルフィアが浄化の術式を展開した。土地に対して術式を使う。優しい光が土地を慰めた。

「長居しても仕方ない。港町ワイアットへ行こう」

 ラインが声をかける。聖南の頭にぽんと手を置いた。

「行こう」

「・・・・・・うん」

 きびすを返して、ライン達は集落を後にした。


 森を抜け、街道に戻ってくる。通りすがりの商人に話を聞くと、砦の門が開いているとのこと。皆はほっとして砦に向かう。魔物の出現も少なく済み、昼下がりに砦へ辿り着いた。

「休憩していくか」

「そうだね。ここからワイアットは近いし、ちょっと休んでいこ」

 旅人用の休憩小屋に入る。ちょうど雨が降ってきた。

「ルレインシティに行くときも、雨が降ってたね」

「雨やまないかなぁ」

「山にぶつかった雲が、ここで停滞しやすくってな。雨や雪がよく降るぜ」

「通り雨を願って待つとしよう」

 ラインは小屋を見回す。自分達以外にも旅人はいる。身なりを見るに依頼屋クライアや商人、傭兵など職業は様々だ。

「聞いた? 帝国が戦争を始めるって噂」

「聞いてるよ。なんでも、王国に国境線で部隊を傷つけられたって話で、帝国側が怒ってるってな。戦争がいつ起きてもおかしくないそうだし」

「困ったわね。あたしらの商売にも影響出そうよ」

 小屋の中は情報で満ちている。ライン達は彼らの会話に耳を傾けていた。

「そういえば、真国でもお姫様がさらわれたって話じゃない。国を上げて捜索をしているけれど、全然見つからないって」

「皇女がいなくなって、みかどが難病を患ってるとも聞いたわ」

みかど代行の政治が酷くて、国民が高い税に苦しんでるってさ」

 聖南が身を乗り出して聞いていた。ラインが止める。聖南はでも、と反論する。

「行ってみて真実を確かめればいい。あくまで噂だ」

「・・・・・・うん」


 雨がやみ、ライン達は砦を抜けた。街道を進む。聖南の表情が暗い。先程の話を聞いて心配していた。魔物との戦闘の際は気を張っているため動きに問題はない。しかし、みかどである父親が難病にかかっていると聞いて、心配しないわけがなかった。

「父上、大丈夫かな」

「難病にかかってるって、言ってたね」

「父上に病気の話なんてなかったもん。嘘だよ。・・・・・・嘘だと、思うよ」

 力の無くなる聖南に、フェイラストが声をかける。

「百聞は一見にしかずだ。とにかく真国を目指す他ない。案外お前の顔見たら、病気が吹っ飛んじまうかもよ?」

「そうかな?」

「おう。それに、本当に病気なら、医者であるオレの出番だ。基本的な薬と道具は持ってきたから、大船に乗ったつもりで任せておけ!」

 ははは、とフェイラストは笑う。聖南もつられて笑った。

「笑うが一番だ。親父さんの前で、飛びっきりの笑顔見せて、ただいまって言ってやれよ」

「うん、・・・・・・うんっ!」

 聖南の明るさが元に戻ってきた。ルフィアとラインもほっとした。

 日も傾き夕暮れに差し掛かった頃、港町ワイアットへ到着した。相変わらず活気に満ちている。

 ラインは案内係に港町ティモス行きの船を聞く。一時間後に出る便があるそうだ。船は出港の準備中で入ることはできない。

「少し待つけど、仕方ないな」

「早めに飯でも食っていくか」

「さんせーい!」

 オアーゼ国王からもらった身分証を見せる。フェイラストはルレイン市長のサインが入った証明書を見せた。船のチケットを買い、一旦港を後にする。オアーゼで手にした大金も半分になった。

 時間帯もあって、店は混んでいた。有名店は満席。隣の肉専門店も列ができている。

「おなかすいたー!」

 聖南の腹の虫がぐうと鳴った。

「どこもかしこも満席かぁ。露店もあるからそれで済ませるかい?」

「なんでもいいからごはんください」

「聖南、変な声だね」

「ぐるる・・・・・・」

 まるで飢えた獣だ。と、ラインは思った。


 夕食を済ませ、船に乗り込む。ティモスに着く頃には夜になっているだろう。夕日が海に向かって沈もうとしていた。

 甲板にラインとルフィアがいる。フェイラストと聖南はあてられた部屋でのんびりしていた。

「ねぇ、ライン」

「なんだ、急にかしこまって」

「・・・・・・兄さんって、呼んでいい?」

「ん?」

 突然のことに一瞬固まった。

「特に何もないんだけどね。私の中で色々あって、そう呼びたくなっちゃった」 

「俺は別に構わないが・・・・・・」

「が、なに?」

「・・・・・・いや、なんでもない」

「じゃあ、兄さん、よろしくね」

 ルフィアが笑う。ラインは困惑して苦笑いした。


 夜。港町ティモスに到着した。船から降りて、まずは今晩の宿探しだ。

「あっちが宿屋さんみたい」

 暗い中、看板を見つけた。空き部屋を聞くと、奇跡的に二部屋あった。一部屋にベッドは二つずつだ。男女分かれて寝ることにした。


*******


 朝。チケットを買った皆は大きな船に乗り込んだ。予定では、二泊三日の船旅になりそうだ。乗船する客も、庶民から貴族まで幅広い。汽笛が鳴り、船は港町ティモスを出港した。

「あたし、帰れるんだ・・・・・・!」

 聖南は期待に胸が膨らむ。甲板へ出て海を眺めた。彼女の嬉しそうな顔を見て、三人も顔を見合わせて微笑んだ。

「聖南、嬉しそうだね」

「誘拐されて出会ったときは、どうなるかと思ったがな」

「船旅はまだ始まったばかりだぜ。最初からとばしていくと疲れるぞぉ」

 聖南がこちらに駆けてきた。

「もうー、早く真国に行きたーい!」

「ちっとはゆっくりしていこうぜ」

「このままだと、途中で体力が切れそうだな」

「ほんと、聖南はしゃぎすぎ」

 皆が笑顔になる。フェイラストが聖南の頭をくしゃくしゃと撫で回した。

 噂で聞いた真国の真相は、いったいどうなっているだろうか。まずは無事に船旅を終えることが先決だ。

 ライン達は一旦別れた。それぞれ行きたいところへ行く。聖南は甲板に残った。手すりに体を預けて海を見ている。

(家に帰る喜び、か)

 聖南の後ろ姿を見つめる。

 自分が家に帰ったら、母さんは出迎えてくれるだろうか。体を壊していないだろうか。ラインは郷愁にふけった。

(今は、聖南を家に帰すことが目的だ。俺のことは、その後だな)

 聖南が視界に入るように移動する。彼女はまだ子供なのだ。不埒な輩がいないとも限らないので、護衛のようにそばへつくことにした。


 船は緩やかに海を進む。

 その日は各々が思い思いに過ごし、一日を終えた。

 海風に当たりながら夜空を眺めたり。音楽隊の静かな演奏に聞き入ったり。

「こういう船旅も悪くねぇな」

「楽しいね」

 客に混じって、甲板に集まり音楽を聞く。踊る者もいた。

「みんな笑ってるね!」

 聖南は笑顔でダンスを眺める。海を覗くと、月が海面に光を溢していた。美しさに魅了され、釘付けになる。

「お兄さんは早めに寝ることにするぜ。お前らも早く寝ろよ」

 フェイラストは部屋に戻っていった。ラインも二人を呼び、部屋へ帰っていった。


 二日目も滞りなく船は海を進んでいた。港町アイゼアで荷を下ろすため、一旦立ち寄った。商人や貴族も降りていく。アイゼアから乗り込む人もいた。

 積み荷や客を乗せ、アイゼアを出港した。再び景色は一面の海となる。ルフィアと聖南が寄り添って海を眺めていた。

「ルフィアとの旅も、これで終わりなんだね」

「聖南がいなくなったら、寂しいね」

「あたしもルフィアがいなくなったら寂しいよ」

 別れるときは笑顔でいよう。そう言って、二人はさざ波立つ海面の揺らぎを眺める。姿形を変えていく海は、見ていて飽きがこない。

「いつか、ルフィアのおうちも行くからね。天上界ファンテイジア、行ってみたい」

「そのときは案内するね」

 音楽隊が陽気な演奏を始めた。客のみんなは楽しそうに踊り、音楽を聞いている。ルフィアと聖南も手を繋いで踊った。


 客室の一角。当てられた部屋の中で、フェイラストは銃のメンテナンスをしていた。ラインは備え付けの本を読んでいる。表紙には聖書と書かれていた。二人は静かに過ごしている。

「ライン、お前はこれからどうするんだ?」

 静寂を破ったのはフェイラストだ。ラインは視線を彼に向けて、問いに答える。

「真国へ聖南を返した後、俺は帝国にある家へ帰るつもりだ。戦争が起きる兆候があるらしいから、入れないとは思うが」

「戦争が起きたら、帝国は商人すら立ち入りが規制される。王国も似たようなもんだろう」

「なら、先にルフィアを家に帰すことにしよう」

 聖書をたたむ。フェイラストへ視線を投げた。メンテナンスを終えた彼は銃をホルスターにしまう。

天上界ファンテイジアにどうやって行くか、分かるのか?」

「それは今後の課題だな。転移しないと行けないだろう。一度行ったことのある場所でないと転移はできない。ルフィアが転移の術式を使えるなら、光明が見えるがな」

「転移ねぇ。できたら便利だよなぁ。・・・・・・天上界ファンテイジアか。オレも行ってみたいぜ、天使の世界に」


 ――ドォンッ!


「な、なんだ!」

 フェイラストが立ち上がる。衝撃によって船が揺れている。ラインと顔を見合わせて頷く。部屋を出て、甲板へ向かった。


 時同じくして、ルフィアと聖南は衝撃でうずくまっていた。手すりに手をかけ起き上がる。

「何が起こったの」

「船が揺れてるよぉ!」

 海から影が飛び上がってきた。海水を撒き散らし甲板に上がる者。魚人の魔物だ。鮫の姿をした彼らは、手に鉄の棒を握っている。

「ギャア、ギャア!」

 言葉は介さないようだ。鳴き声を出しながら人々へ襲いかかった。音楽隊は楽器を守るように抱いて逃げた。魚人が海から跳んでくる。甲板は一気に騒がしくなった。

「ルフィア、あいつら追い出さなきゃ!」

「うん!」

 聖南が鈴を取り、ルフィアが亜空間から剣を抜く。逃げ惑う人々の合間をぬって、魚人へ迫る。聖南が術式を発動した。地紋から鋭い小石が魚人に突き刺さり、一体消失した。ルフィアが剣を振るう。氷の術式をまとった剣は切り口を凍らせ弾けた。もう一体が消失する。

 遠くから銃声が聞こえた。甲板へ上がる階段の所に、フェイラストの姿を捉えた。ラインも一体屠る。乗船していた他の依頼屋クライアや傭兵など、戦える者が甲板へ集まってきた。

 魚人は倒しても倒しても海から飛び上がってくる。力自慢の大男が振り回して海に投げ捨てた。弓を扱う女性が矢を放つ。魚人の目玉に突き刺さった。

「ひるむなー!」

「どんどん海に帰してやれ!」

 大量に湧いてくる魚人はまだ収まらない。ラインとフェイラストは、ルフィアと聖南に合流した。

「数多すぎなんだけどぉ!」

「文句言っても仕方ねえ。一匹ずつ確実に仕止めるぞ!」

「船を壊されたら終わりだ。威力の強い術式は控えろ!」

 背中を合わせ、魚人の囲いを睨む。聖南はぐるると唸っていた。散開。フェイラストが跳躍して二丁の銃を構える。上から弾丸の雨を降らせた。魚人二匹が消失した。ラインが駿足を起動して魚人の背後に現れた。一体斬り捨て、次のターゲットへ動く。ルフィアが水の術式を発動する。水紋から水の波動が放たれた。魚人は混乱した状態になり、仲間を攻撃したり、ふらふらと歩き回ったりする。聖南は鈴を鳴らすと、広がった地紋から岩を突き出した。

 みるみる魚人は数を減らし、最後の一体が海に投げられた。遂に魚人の襲撃を防ぎきった。甲板は男女関係なく雄叫びを上げる。

「やったね!」

 聖南がはしゃいでジャンプする。ルフィアとハイタッチした。

「やれやれ、なんとか収まったな」

 フェイラストがホルスターへ銃をしまった。

「敵の気配はもう無いようだ。やったな」

 ラインも亜空間へ剣を片付けた。甲板の様子を見れば、依頼屋クライアや傭兵などの職業を越えて喜びあっていた。


*******


 三日目は、昨日の騒ぎのようなことはなく、平穏な時が過ぎていた。四人は船の中で過ごしている。食堂で食事をしながら話していた。

「真国の噂が本当だった場合、俺達もただでは済まないと考えた方がいいな」

「オレは医者としてやって来たと言い逃れできそうだが、問題が起きれば戦いになるだろうな」

「父上、病気って言ってたけど、フェイラストに診てもらえるかな」

「お城の人次第だよね。私も聖南の手伝いするからね」

「うん。ありがとルフィア」

 国民は困窮し、高額の税を取られるとまで言われていた。国の真相を知るためにも、情報を集めなければ。

 ふと、アナウンスが入った。真国が見えてきたとのこと。四人は食べ終えたトレーを返却し、甲板へと移動する。

 甲板へ出ると、島がいくつか重なって見えた。一番大きな本島は、聖南の生まれた真国の首都、神威カムイだ。

「あたし、帰ってきたんだ」

 感嘆と呟く。久しぶりの故郷に胸が踊る。手すりから身を乗り出す。泳いででも今すぐに行きたかった。

「遂に来たぜ、真国」

「いよいよ、聖南のお父さんに会えるね」

「父上、待っててねー!」

 船はゆっくりと港町の島、楽来らくらいへ入っていく。

 果たして、噂の真相はいかに。

 四人は遂に、真国へと降り立った。

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