40.本音

「それにしてもあなた、テオのことが好きなのよね?」

「え、えええ!?」

「そうじゃないなんて言わせなくてよ。テオのことを語るとき、あんな顔をしておいて」

「そ、そんな……。お気に留めないでください。アルテミシア様」

「いいのよ、別に」


「わたし……正直に言いますと、アルテミシア様がテオの奥方になる方だからお助けしなきゃって思ったのかもしれないです」

「なんですって?」

「アルテミシア様、おっしゃってましたよね。テオはきっと再起するって。わたしもそう思います。テオはこんなところにいていい人じゃない。アルテミシア様のような方が添ってくださるのなら、テオは必ず……」


「お馬鹿さんね」

「……。え……?」

「わたくしの嘘を真に受けるなんて」

「うそ?」

「いいえ、かつては本当だったけれど。でも今はもう違う。わたくしはテオの許嫁(いいなずけ)ではない。他の男性に嫁ぐことが決まってるのよ」

「…………」


「あなたみたいな可愛らしい人がテオのそばにいるのがわかったから、言ってやりたくなったの。テオはわたくしのものだったのにって。今も昔も、テオがわたくしを想ってくれたことなんてなかったのに」

「そ、そんなことは……」

「いいえ、そうなのよ。テオは責任感が強いから精一杯のことをしてはくれるわ。でもそれは好意ではないのよ」

「それは……。それは、わたしたちにだって、そうなのだと思います」


「しようのない人ね。でも、そうね。わたくしはもう、充分だわ」

「どういう意味ですか?」

「もう関係ないからと拒絶したわたくしを、こうして招いて助けてくれたでしょう? テオはそういう人。だからもういいの。大祭が終わればわたくしは嫁ぐ。それでいいわ」

「アルテミシア様……」

「あなたはせいぜい頑張って。ああいう人をつなぎとめるのは大変よ」

「そんなっ。わたしはそんなんじゃ……」

「いやだ、そんなに真っ赤になって」

「もう、意地悪ですね」


 涼やかなふたりの声音はそよ風にのって、室内にまで届いていました。そこで、ひそかに話を聞いていた者がいたのです。テオです。


「盗み聞きか?」

 四つ這いになって上半身だけを屋内に入れ、女神さまがテオを睨みつけました。

「そのつもりはなくても聞こえてきたんだ」

「ふうん?」

 ずりずりと部屋の中に移動して女神さまはテオと向き合いました。


「果報者よなあ、テオ。ふたりが仲良くなって嬉しいか?」

「おれには実利がなかろうが」

「礼はいらんぞ。妾同士、不和がないよう取りはからうのも正妻の務めゆえ」

「おまえはまったく人の話を聞かないな」

「惜しくはないか?」

「何が」

「可愛くないやつじゃなあ。たまには本音を言わんといつか爆発するぞ」

「よけいなお世話だ」

「可愛くないやつじゃなあ」

 繰り返して、女神さまはくちびるを尖らせます。


 あのですねえ、わたしもそろそろ、女神さまの本音をお聞きしたいのですが。

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