エピローグ 振り返ればあの時ヤれたかも

 高校時代の記憶。あるようでないものだ。


 新大阪行き新幹線の指定席で、俺はぼーっと考えていた。


 時々、高校時代のことを思い出す。だが、もう37歳だ。細かいところまでは覚えてない。


 ただ、高校1年の期末考査が終わった日の夜のことは妙に覚えている。


 俺は公園で妹の友人と会ってた。たしか、かなり良い雰囲気だった。


 なんて名前だっけな、あの子。おっぱい大きかったあの子。


 顔とか胸とか覚えてるのに、名前は思い出せない。


 妹のことも思い出す。高校2年から3年までの2年間だけ、俺には血の繋がらない妹がいた。色白で華奢な女の子だった。


 今ごろどうしているんだろう。紗季。


 親父と咲江さん――親父の再婚相手――の結婚生活は長くは続かなかった。理由は知らない。あっという間に2人は結婚し、離婚した。紗季ともそれ以来会ってない。


 血の繋がらない妹の紗季。今思えば、あれは初恋だったのかな。恥ずかしいことだが、紗季をおかずに何度もオナニーした。

 風呂も覗いたことある。紗季が夢に出てきたこともある。もちろん、口に出せないようなことをしてしまった。ていうか、口に出した。


 親父たちの離婚で紗季とは離れ離れ。初恋は実らなかった。


 それを引きずっているのだろうか。なんと俺は独身だ。何人かと付き合ったし、童貞と言うわけではない。


 なんでだろ。童貞だけは早く捨てようと思っていた。最初の相手は、合コンで出合って付き合った人。たしか1ヶ月くらいは付き合ったかな。


 三河安城を通過した。もうすぐ名古屋か。


 眠たくなってきたな。ビール飲んだからな。


 俺、酒飲むとすぐ眠たくなるんだよな。あれ、昔、誰か同じこと言ってなかったか?


「兄貴、久しぶり」

「誰だ?」

「紗季だよ。覚えてないの?」

「ああ、妹の紗季。久しぶり。てか、ここどこだ。テントの中か?」

「そ。テント。へへー。狭いから密着だね、兄貴。でね、これ、兄貴の夢の中なんだよ」

「夢?」

「覚えてない? 昔こうやって、兄貴の夢に出てきてたじゃない」

「だっけ?」

「もう、忘れたの? いろいろえっちなことしたくせに!」

「……ごめん」

「あのさ、今、私と兄貴、近くにいるみたいなんだよ」

「そうなのか?」

「うん。だから、兄貴の夢に出てこれた」

「は? 意味分からんが?」

「サキュバスだよ」

「サキュバス?」

「今日は、えっちなことしないよ」

「そっか。よくわからんが、せっかくの夢なのにな。それは残念だ」

「ふふ、それはどーかなー」


 夢はそこで終わった。


 気がつくと、もとの新幹線の指定席だった。

 寝てしまったらしい。


「名古屋か……新大阪まであと1時間くらいか」


 車窓からリニア中央新幹線名古屋駅が見えた。

 2037年にリニア中央新幹線は東京・新大阪間全区間開通した。


「……リニアで出張できる身分になりてーな」

「えー、リニアだと、新大阪まで20分だよ、短いよ、兄貴。兄貴とお話しできないよ」

「確かにそれは短い……って紗季?」

「じゃーん! お久しぶり! 兄貴!」


 隣の指定席に紗季がいた。


「紗季、どうしてお前ここに?」

「仕事で名古屋から大阪に行くから新幹線の指定席とったら、なんと、兄貴の隣だったの」

「すごい偶然だな……」

「ううん、偶然じゃないの。多分、歴史が変わったからなの」

「歴史が変わった?」

「……兄貴、何も覚えてないんだ。私、タイムリープしたんだよ! 昨日まで、高校生の兄貴に会ってたの! あ、あと雪とも! 」

 紗季の目に涙が光る。

「戻ってきて、で、新幹線乗ったら、いきなり兄貴いるなんて……」

「タイムリープ? 雪? あ、雪か。思い出した、あの巨乳のね。いたいた。懐かしいな……」

「え! もしかして! 兄貴、左手の薬指見せて!」

 紗季の目が輝く。

「なんだ、手相か何かか?」

 紗季は何度も俺の左手薬指をさすった。

「……独身なんだ……独身なんだ」


 それから新幹線が新大阪に着くまでの間、俺はとても不思議な話を紗季から聞いた。


 話の感想?


 そうだな。


 振り返れば……夜の公園で、雪とかいう巨乳の女子高生と、あの時ヤれたかも、って感じだ。


 すまんな。俺、おっさんなんだ。37歳の。

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振り返ればあの時ヤれたかも 上城ダンケ @kamizyodanke

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