第27話 兄貴のえっち

「あの、すみません。未来が複数って、どういう意味なんですか?」

 俺はFさんに聞いた。


「説明しよう。P君だけでなく、中年になった紗季と、ぴちぴちJKの雪ちゃんも聞くように」

「だれが中年よ」

 タイムリープ紗季が怒る。

「まあまあ……聞きましょうよ、紗季さん」

 俺がなだめる。


 Fさんが話を続けた。

「本来、未来は一つのはずだ。ところが、何かの弾みで未来が複数発生した。おそらく、何者かが歴史に介入しようと時空を超えた結果、歪みが発生し、未来が分裂した」


 歴史に介入しようとしたのって、Fさんじゃ……。


「そうして発生したもう一つの未来では、俺は魔法使いにならず、紗季が魔法使いになるんだ。紗季はサキュバスがどーのこーの言ってたが、たぶん30歳まで処女だったから魔法使いになっただけだ」

「はっきり言わないでよ、兄貴のバカ!」


「……B級ラノベみたいですね」

「毎日部屋でラノベかアニメだからな。SF、ファンタジーの知識はチョモランマ級だ」


 そんな37歳やだ。


「どうやったら解決できるんですか?」

 雪が聞いた。

「たぶん、P君……すなわち高校生の俺が童貞を捨て、かつ、紗季が処女を捨てれば、すべてが解決し、俺も紗季も、もとの時間軸に帰還するだろう。あれ? ということは……。おい、P君、結局俺が最初に言ってた通り、君が紗季とヤってれば、丸く収まったんじゃねーか! どーしてくれる!」

 Fさんが俺に向かって言った。

「どーしてくれる、とか言われても……。どっちかといえば、全ての元凶はFさんがタイムリープしたせいのような気がしますけど」

「ええい、屁理屈を言うな! とにかく、無理矢理でも紗季とセックスしてれば、こうはならなかったんだ!」


「それは違うわよ、おっさんの兄貴」

 タイムリープ紗季が言った。

「……さすがに、無理矢理はダメ。いくら相手が兄貴でも、高校1年の私は傷つくわ。あ、そっちの雪は平気どころか興奮するだろうけどね」と、紗季が雪を指さす。

「ひ、ひどい! 私そんな子じゃないです」

「どうかしらね」

 冷たく紗季が言った。

 子供相手に大人げないぞ、タイムリープ紗季。


「じゃあ、結局どうしたらいいんですか?」

 俺は言った。

「……まあ、自然な感じで紗季と付き合い、紗季とえっちする、これしかないだろうな」

 とFさん。

「なんですかそれ? だから、さっきも俺が言ったように、もともとFさんがタイムリープという余計な……」

 Fさんが「ちっちっち」と言って、俺の発言を制した。

「余計かどうかは、歴史が判断する」

「名言ぽいこと言ってごまかさないでください」


「あの」

 再び、雪が俺にしがみついて来た。

「……私には、可能性がないんですか?」

 雪が小声で言った。

「可能性?」

「しっ……おばさんの紗季さんに聞こえちゃいます」

 唇に人さし指を当てて雪が言った。

「健太さんが……童貞捨てればいいんでしょ、だったら……私と、そういうことするって選択肢だって……」

「いや、それだと、紗季と俺の関係がだな、その……」

「いいな。紗季ちゃん。本当に健太さんから好かれているんですね。でも、言葉にしないと思いは伝わらないんです。言葉にしない紗季ちゃんが悪いと思うんです……」

 雪がクスッと笑う。 

「……身体だけの関係でもいいんです、私。そこから始まる恋だってあると思うから。……ね、私は、ちゃんと言葉にするんですよ?」

 雪が上目遣いに俺を見た。


「何こそこそ喋っているのよ、雪。聞こえているのよ、全部」

「あら、そうなんですか?」

 雪が意地悪く笑った。

「ふん、女子高生といえど、腹黒いわね、雪。根っからのサキュバス。私のママみたい。私はそういうサキュバスにはならないわ」

「紗季ちゃんは、大人になっても清純ぶるんですね」

「高校生のくせに、分かったようなこと言わないでくれる? 淫乱雪ちゃん? ていうか、いつまで兄貴にしがみついているのよ、離れなさいよ!」


 紗季と雪がガンを飛ばしあう。


「まあまあ、喧嘩はやめようぜ」

 と、全ての元凶のFさんが言った。

「どうも、未来が変更されたようだ。紗季、足下を見てみろ」

 タイムリープ紗季の足下がだんだんと消えていく。

「なにこれ! どういうこと?」

「おそらく、俺、紗季、雪の3人の関係が、正常に戻ったということだろう」


 だから、この3人の関係をめちゃくちゃにしたのはFさん、つまり未来の俺だと思うんですけど。

「俺の足下も同じだ。たぶん、元の時間に戻る。タイムパラドックスが解決したんだ。これから先の未来が、正しい未来ってことさ」

 Fさんが言った。

「P君。お前の信じる未来をいけ。雪ちゃんでも、紗季でも、両方でもいい。ヤれ」

「はあ……」

「迷わずヤれ。ヤればわかるさ!」

 ビシッと空を指さし、堂々とした声でFさんが言った。

「名言ぽく言わないで下さい」


 いよいよ、Fさんとタイムリープ紗季の身体が消え出した。

「それじゃーな! P君! えっちしろよ!」

「高校生の兄貴! 雪とは絶対えっちしちゃ駄目だからね! 絶対絶対、ダメ!」


 それがFさんとタイムリープ紗季の最後の言葉だった。


「……2人とも消えましたね」と雪。

「ああ」

 雪がじっと俺を見た。

 う。やばい。またフェロモン攻撃? えっち続行?

「あの、私、そろそろ帰ります。こっそり催淫したりして、すみませんでした。おばさんの紗季ちゃんが言ってたように、私、淫乱で腹黒いのかも。そんな女の子、健太さん、嫌いですよね。ごめんなさい」

 雪はぺこりと頭を下げ、帰ろうとする。

「待てよ。……雪ちゃん。俺は君のこと、未来の紗季が言ってたような悪い女の子だと思っていない」

「……ほ、本当ですか」

「ああ。Fさん、つまり未来の俺だが、Fさんが言ってたように、君と付き合う未来だってあるのかも知れない」

 雪の顔が明るくなる。


「だから、一つだけ、約束して欲しいんだ、雪」

「何ですか?」

「俺を催淫しないでくれ。フェロモンを出さないでくれ。俺は……恋愛するなら、フェロモンの効果無しで恋愛したい」

 俺は言った。

「真面目なんですね、健太さん。……私が淫夢を見せた他の男性とは大違いです。いいなあ、紗季ちゃん。こんなお兄さんがいて」

 雪の目に涙が光った。

「わかりました。もう……催淫はしません。私も、私の魅力で……勝負します。あ、でもサキュバスだから、どうしても、少しはフェロモン出るんです……どうしよう」

「多少のフェロモンなら大丈夫だ。紗季のフェロモンで耐性できているからな」

 と言ったものの、自信ない。耐性あるのかな。むしろ弱くなっているような気がするが。

 ま、ここは雪ちゃんのためにカッコつけよう。


「ということで、これからもよろしくな、雪ちゃん」

「……あ、ありがとうございます。それじゃ……」

 雪はそう言って、公園の出口の方へ向かった。


「おい、夜遅いんだ、女子の一人歩きは危険だぞ。家まで送る」

「やさしいなあ。本当、やさしいなあ」

 雪が手で涙を拭った。

「あの、健太さん……手、繋いでも……いいですか」

「あ、ああ」

 迷ったが、オッケーした。雪の涙で濡れた手を繋いだまま、俺は無言で雪を家まで送った。


 自宅に戻った時には12時を過ぎていた。


「兄貴? どこに行ってたの?」

 紗季が部屋にやってきた。

「ああ、コンビニ」

「早く寝よーよ。ね?」

 パジャマ姿の紗季が俺に抱きついてきた。

「おいおい、そんなことしたら、襲うぞ」

「やだー兄貴のえっち。でも、兄貴はそんなことしないもん。あ、でも、夢の中ならしてもいいかも。今日、そんな夢にしようか!」

「おいおい、あんまりドキッとすること言うなよ」

「へへ」

「さ、俺も寝るから。紗季も寝な」

「うん! また後でね! 続きは夢の中で!」

「おう」


 紗季が部屋に戻っていった。


 続きは夢の中でか。


 夢のような話だったな。未来から来た俺であるFさん。タイムリープしてきた紗季。


「期末考査が終わったら、すぐ夏休みだな」

 夏休みには俺、紗季、雪で海に行くみたいだ。また一波乱あるのだろう。


 こうして、高校2年の1学期は過ぎ去ろうとしていた。

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