第22話 下村雪のふともも

 夜の公園は誰もいなかった。

「あそこに座りませんか」

 人気のない公園の中でもさらに端っこ、電灯から離れた場所のベンチを雪は指さした。


「……なんか暗いな」

「新月ですからね。でも、暗いほうがよくないですか?」

 俺たちはベンチに並んで腰掛けた。

「あの、雪ちゃん、話って、何の話?」


 昼のこと……ベッドで抱き合った件があるので本当はかなり気まずい。

 だが、雪はまるで今日の昼間俺と何事もなかったかのように喋っている。女子ってそういうものなんだろうか。


「あの、健太さんて、彼女いるんですか?」

 暗い中でも、雪の顔が赤くなったのが分かる。

「いや、いない」

「……紗季ちゃんとは、どういう関係ですか?」

「え? そりゃ、兄妹だけど? あ、もしかして、俺と紗季の関係疑ってる? 変な噂あるから。血が繋がってないとか。あれ、嘘だから」


 一瞬冷や汗が出たが、平静を装って俺は返事した。


「……嘘。紗季ちゃん、健太さんと実の兄妹じゃないです。私……見たの」

「見たって、何を? ああ、今日の朝のあれか。いやー、紗季な、高校生にもなってあれは確かに無いよな。あれは小学生からの癖なんだよ。ほら、小学生の時って女子もまだ胸が小さくて……」


 内心の動揺を抑えつつ、俺はなんとかごまかそうと適当なことを言った。


「ううん、それじゃないの。あれはあれで、ちょっとびっくりだったけど……。私が見たのは、ファイルなんです。先生のクラス情報ファイルを見たんです」

「クラス情報ファイル?」

「はい。家族構成とか住所とか、指導歴とか書いてある……」


 それって、普通見れないだろ? なんで雪が見てるんだ?


「……少し前なんですけど、ある日職員室に行ったら、担任の先生のパソコンにクラス情報ファイルが開いてあって、ちょうど紗季ちゃんの情報が表示されてて……いけないと思いながら、見たんです。そしたら、特記事項に……」

「特記事項に?」

「『両親は再婚。父親および兄(本校2年4組在籍)とは血縁関係なし』って書いてあったんです」


 くそ、バカ教師め。ありえんだろ? 何を見ていたのか知らんが、それって、いわゆる機密情報だろ? 職員室のPCから見たりするなよ! せめて、見たらファイル閉じとけ! 一般企業ならクビだぜ?

 これだから教師ってのはさー!


 と憤っても今はしょうがない。バレたのなら正直に話すしかないだろう。


「……うーん、見ちゃったのか。なら仕方ないか、正直に言おう。そのとーり。今まで隠してきたけど、俺と紗季は本当の兄妹じゃない」

「やっぱり、そうなんですね」

「お願いだ、雪ちゃん。このことは紗季には知らない振りをしてあげてくれ」

 俺は雪に頼み込む。


「それは大丈夫なんです。私が大丈夫じゃないのは、健太さんと紗季さんの関係なんです。本当のことを教えてください。……付き合ってませんか?」

「絶対付き合ってない。兄妹以上の関係はないよ。変な噂あるけど、信じて欲しくないな、雪ちゃんには」


「……まだ嘘ついてますよね、健太さん」


 また、どこからともなく、甘い匂いがしてきた。


「え? 嘘はついてないぞ。本当に、俺と紗季は付き合ってないって。これはマジだって」

「そこじゃないです」

「じゃ、どこ?」

「兄妹以上の関係はない……のところです。健太さん、紗季ちゃんと……紗季ちゃんと……男女の関係ですよね?」

「おいおい、何を言ってるの、雪ちゃん。さすがにそれは失礼だよ。怒るよ?」

「……淫夢の中で、の話です」

 雪が意地悪く笑った。


 何?

 淫夢だと?


「紗季ちゃん、サキュバスでしょ? 毎晩、健太さんにえっちな夢を見せてくるでしょ? ……その夢の中で、2人は……えっち、してますよね?」


 なんで紗季がサキュバスって、雪が知っているんだ?


「ちゃんと答えてください。紗季ちゃんと、夢の中で、どういう関係ですか?」

「雪ちゃん、何? サキュバス? 淫夢? 全く意味が分からないんだけど」

 俺は笑ってごまかす。

「……これでも?」


 雪が立ち上がる。俺の前に立ち、ゆっくり、ワンピースの裾をふとももの付け根までまくり上げる。

 紗季よりややふくよかな、そしてやわらかそうな太股があらわになる。

「あの、雪ちゃん? 何をしてるの?」

「……催淫です。私のフェロモンはふとももから出るの。私もサキュバスなんですよ」

 もわん、と甘い匂いが俺を襲った。次の瞬間、堪え難い性衝動が沸き起こって来た。目の前のふとももに抱きつきたい。股間にむしゃぶりつきたい。パンツ脱がせたい。そして……。


 先ほどから漂っていた甘い匂いの正体は雪の催淫フェロモンだったのだ。

 

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