第12話 ドウテイ・フレンズ

 Fさんは怒っていた。そして、立ったまま、鼻息荒くマシンガンのごとくしゃべり出した。


「いいか! 青臭い童貞高校生には分からんだろうがな、女の子ってのは耳年増なんだよ! エッチなお勉強してるものなんだ、ネットで毎日な! 誰よりも早くえっちしたいと思っているくせにキスより先に進めない、それが年頃の女の子だ! 心の底では、好きな男に女の子の一番大切なモノをあげたい、いや、奪って欲しい、と思っているのが女の子なんだ、わかったか!」

「……わかりません」


 今時そんな昭和の歌謡曲のような女の子はいないんじゃないのか?


「わからない? だから童貞だって言われるんだ!」

「だから、Fさんだって童貞じゃないですか!」

「童貞は童貞でも、俺はエターナル童貞だ! 君のような素人童貞とは違う!」

 Fさんが言った。


「素人童貞の意味、違くないですか?」

「屁理屈こねるな!」

 いや、屁理屈じゃないだろ?

「とにかく、女ってのは征服されたい、支配されたい、乱暴にされたい、って思っているんだよ。わかるか、素人童貞くん? 男に強引に迫ってもらいたがっているんだ。嫌よ嫌よも好きのうち、って言うだろ? あれだ。口では嫌って言ってても、身体は正直なんだ、女ってのは!」


 この人、どうして童貞なのにこんなに自信たっぷり女性心理について、間違いだらけのことを語ることが出来るんだろ。


 今時、こんなセクハラ思考ありえないだろ? こういう男がストーカーになって犯罪を起こして逮捕されるんだよ。


 ……Fさん、本当に未来の俺なのか? 童貞をこじらせエターナル童貞になるとこんなに醜くなってしまうのか?


 俺は時計を見た。1時だ。Fさんは飯なんかいらないと言ってたが、俺は腹が減った。ここは適当に話を合わせ、お帰り願おう。


「わかりました。嫌よ嫌よも好きのうち、ですね。努力してみます」

「努力してみます? ダメダメだ! 絶対ヤるんだ! なあ、頼むP君。俺がかわいそうだと思わないか? 君が紗季とえっちしてくれないと、俺はこっちの世界でホームレス生活を続けなきゃいけないんだよ。結構しんどいんだ、ホームレス。これでいいのか、君の未来?」


 過去にタイムリープしてホームレス。確かに悲惨だ、そんな未来。

 かといって、無理矢理紗季にそういうことをするのは嫌だ。


「わかった。P君。そうだな。君は童貞だ。初めてのえっち、戸惑いも恐れもあることだろう。思い切った行動に出れないのも仕方ない。俺も童貞だからよく分かる」

「はあ……」

「同じ童貞仲間すなわちドウテイ・フレンズだ。フレンズどうし、仲良くしないとな」


 そんなフレンズお断りです、と俺は心の中で絶叫した。

「あ、俺たち同一人物だった。フレンズじゃないな。ハハハ」

 本気で殺したくなってきた、未来の俺。この場合でも自殺願望って言うのかね?


「……フレンズとかどうでもいいです。でも、俺の気持ちを理解してくれたのだったら、少しだけ、待って下さい。時間を下さい。紗季が……紗季がすこしでもその気があるようだったら、……紗季がそういうそぶり見せたら……多少……強引でも……ヤりますから。紗季と……えっち」


 紗季とえっち、と声に出していうだけで、顔が赤くなるのが分かった。


 俺だって紗季とはえっちしたい。だけど、この気持ちが恋愛なのか、性欲なのか、俺にも分からないんだ。

 そういう中途半端な気持ちで、紗季とえっちしたくない。童貞くさいと言われれば童貞くさいだろう。


 仕方ないじゃないか。俺は童貞なんだ。


「わかった。もう少しだけまとう」

 Fさんが言った。

「ありがとうございます」

「ただし、あと2日だ」

「え?」

 俺は聞き返す。


「確か今日は期末考査2日目だな」

「はい。そうですが。それが何か?」

「俺の記憶が正しければ、期末考査は4日間。一学期期末考査が終わるまでに、決着を付けろ。つまりあと2回の淫夢でだ。そう……これが俺とお前の、人生の期末考査だ!」


 何が「人生の期末考査」だ。期末考査が終わるまでって、あと2日、2夜しかないじゃないか。Fさんは俺の話、本当に理解しているのか? 俺は時間が欲しいと言ったのだ。その時間とは数日という意味ではない。1ヶ月、いや、もしかすれば1年位はかかかるかもしれない。そういう意味で時間が欲しかったのだ。


「無理ですよ。そんな、たった2日間じゃないですか! 紗季の気持ちを確認するのに、それだけの時間では足りません」

「俺だって、これ以上ホームレス生活は嫌だ。そんな何ヶ月も何年も待てるか。期末考査最終日の朝、俺がまだこの世界にいるようなことがあったら……あったら……俺が高校生の紗季とヤってやる! 犯してやる! うっ! 想像だけで勃起した!」

「はああああ? 何言ってるんですか! 俺の大事な妹を陵辱しようだなんて! 絶対させませんよ! 紗季に指一本でも触れたら、ただじゃすみませんからね!」


 さすがに俺は腹が立った。紗季を……紗季を、犯すだと! 絶対許さないぞ、そんなこと!


「自分の妹に何しようと、兄の勝手だろ! 俺は未来のお前だ。過去の妹とえっちなことして、何が悪い!」

「悪いに決まっているでしょう! 妹であっても犯した時点で犯罪です! ありえません! だいたい、Fさんが紗季となんかしたところで、歴史は変わらないでしょうが! 俺は童貞のままなんだから」

「だったら、君は風俗に行けば? 商売女相手に童貞捨てたらいい」

 Fさんが吐き捨てるように言った。


「童貞捨てればいいんだったら、こんな金のない高校生ところなんか来ないで、20代の俺のところへタイムリープして風俗に誘えばいいじゃないですか。今からそうしてくださいよ!」と俺は言い返す。


「タイムリープのやり直しなんてする気は無いね。だいたい、もう魔法力ゼロだからタイムリープできないし。俺、やっとわかったよ。俺は紗季とえっちしたかったんだ、それもJKの紗季と。ていうか、JKとえっちしたいだけかもしれん。とにかく、それが俺の真の願いだったんだ。過去に戻って、やっとわかった。魔法使いでも童貞でも構わなかったんだよ、俺は。ただ、俺は、JKの紗季とヤりたかったんだ! 成熟途中の恥じらいボディ! いかん、想像だけでカチンコチンになってしまった」

 と言って、Fさんは股間を抑えた。

 俺は絶望した。これが……これが、未来の俺なのか?


「ということで、君が紗季とセックスしなかったら、替わりに俺が紗季の処女を頂く」

「……ふざけないでください」

「ふざけてない」


 ……だめだこりゃ。完全に童貞をこじらせている。こんな大人にだけはなりたくない。


「とにかく、紗季に何かあったら、俺はあなたを殺す!」

 俺は言った。

「自分殺しか。それって殺人罪になるのかな? 自殺?」

 さすが未来の俺。思考パターンが同じだ。

「冗談でごまかしてもダメですよ。俺は本気です」

「本気なんだな?」

「ええ……できれば、自分を殺りたくはないですけどね」

 Fさんは「ふーん」とだけ言った。


「ま、いずれにしろ、P君が今晩紗季と夢の中でえっちすれば丸く収まるんだ。期待して待っておくよ。もちろん、現実の紗季とリアルなセックスしてもいいんだからな。どっちかだ。やれよ」


 それだけ言うと、Fさんは家から出て行ってしまった。

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