第10話 紗季のふともも

 そんなわけで、始業式以来久しぶりに紗季と一緒に学校へ行った。


 思えば紗季が妹になったのが4月の頭。まだ一緒に暮らして3ヶ月ちょっとしか経っていない。


 出会った初めから可愛い女の子だなと思っていた。制服のミニスカートから見える真っ白なふともも、エロいなあ……と思っていた。触りたかった。


 紗季の部屋着はゆるいトレーナー。入浴後はなぜかいきなりパジャマ。どちらも、とてもかわいい。


 紗季は最初のころ、ほとんど話しかけてこなかった。むしろ、俺を避けていたと思う。きっと、えっちな目で紗季を見ていたことがバレたから、嫌悪されたのだろうと俺は思っていた。


 だが、別に俺はそれでよかった。こんな美人と一緒に暮らしているんだ。


 嫌われてたっていい。見ているだけで目の保養になる。それに一緒に生活していれば、ラッキーかつスケベなことが自然発生するってもんだろ?


 実際には、前に紗季に言ったように毎日えっちな夢――それも相手が紗季――を見るようになった。


 俺はもう、それだけで大満足だった。男子高校生なんて、そんなもんだろ?


 一番最初にみた夢のことはよく覚えている。


 リビングで制服のまま、片膝立てて紗季がテレビを見ているだけの日常の一コマな夢だった。


 だが、大事なのは紗季のパンツが丸見えだったことだ。


 紗季……もっと足を開いて…… そう、そういう角度で……そう念じただけで、まるで魔法のようにすーっと紗季の足が淫美に開いていった。


 白いふとももの、さらに白い内側の肉。くしゃとなった白いパンツ。全てがエロかった。


 これって、将来旦那になる男しか見ることの出来ない場所だよな、と思うと俺は興奮した。


 紗季には「俺のウチに来たその日にサキュバスだと気がついた」と言ったが、あれはやや話を盛りすぎだ。そんなにいきなり気がつくわけがない。


 気がついたのは、一週間くらいしてからだ。


 当時、ネットの噂で「サキュバスが実在する」という話が盛り上がっていた。


 まことしやかな体験談がSNSその他に投稿され、健全な高校2年生男子だった俺とその友人たちは、どうやったらサキュバスに会えるか、日々ネットで情報を集めていた。


 そんな俺だったので、さすがに毎晩紗季を相手に淫夢を見ることに疑問を感じた。


 ――サキュバスは淫夢を見せる。決して、精を吸うだけではない。首から血を吸うこともある。その場合、首には傷跡が残る。


 そんなことがネットには書いてあった。俺はもしやと思い、ある日、鏡でじっくりと自分の首筋を見たのだ。


 果たして、小さな穴が2つあった。


 夢の内容、傷、すべてネットの噂と同じだ。間違いない。俺の妹はサキュバスだ。確信した。


 俺が紗季はサキュバスと勘付いてからも、俺達の関係は大きな変化はなかった。


 ただ、紗季は俺と次第に喋るようにはなっていったし、紗季が本当はさびしがり屋で、母親の咲江さんとはうまくいってなくて、俺に愚痴を聞いてもらいたがっていることも、分かってきた。


 紗季の愚痴を何度か聞いているうちに、紗季は笑うようになった。俺とバカ話をするようにもなった。


 とはいえ、一緒に学校に行くことほど仲の良い兄妹ではなかった。


「兄貴、何考えているの?」

 回想シーンに突入していた俺を紗季が現実に引き戻す。


「俺達、そんなに仲よい兄妹じゃなかったなって。むしろ、距離感あったよなって」

「そうだね。……毎晩、えっちな夢見せて血を吸ってたわけでさ。やはり、悪いと思ってたからね。あと、あんまり近づいて、うっかり催淫したらやだな、て思ってたし」


「それ、昨日も言ってたな」

「だっけ?」


 そう。紗季がサキュバスであることを告白してから、まだ1日しか経っていないのだ。なのに、俺と紗季の関係は大きく変わった。


 ――普通の告白と同じだな。


 好きな人に告白する。その日からいきなり「カップル」「恋人」だ。それまでお互い遠慮して会話していたのに、まるで何かにとり憑かれたように、毎日何時間でも電話して、LINEして、休みの日は手をつないで過ごす。


 普通の告白だって、その瞬間から男女の関係を変えてしまう。


 昨日の紗季の告白、あれが俺と紗季の関係を変えてしまったわけだ。


「もう、兄貴、また何か考えている。何考えているの?」

 紗季が大きな目で俺をのぞき込む。


「ん? お前との関係」

「ひゃ!?」

 なんて声出すんだ。


「わ、私と兄貴の関係? き、兄妹でしょ?」

「ああ。そうだ。昨日の告白で、だいぶギクシャク感が取れたなって思ったんだ。やはり秘密は良くないな」


 紗季がはーとため息をついた。


「なんだ、そゆことね」

 とつぶやく。


「そゆことって?」

「んー、こっちの話」


 学校に着いた。下駄箱で上履きに履き替える。紗季と別れて自分の教室へ行った。


 期末考査2日目の出来は散々だった。前日全く勉強していないのだから仕方ないか。


「あれ、帰りはどうするんだっけ?」

 紗季と一緒に帰るとも帰らないとも約束してなかったな。


 とりあえず校舎の正面玄関まで行ってみた。自分の靴箱を開ける。すると、ノートをちぎって作った手紙があった。


 紗季からだ。


「シスコンの兄貴へ。今日、雪ちゃんとこで勉強してくるから、先に帰っててね。かわいい妹より」


 ……下駄箱に女子からの手紙。ますますもって、俺たち、カップルみたいになってきた。悪くない。


 俺は家に帰ることにした。昨日徹夜したせいで、すごく眠たい。紗季が帰ってくる前に、寝ておこう。


 紗季は、俺のことどう思っているのだろう。俺を男性として好きなのか、兄として好きなのか。サキュバスだから、夢の中では誰に対してもあんな感じなんだろうか。


 どうやったら確かめられるのだろう。


 その時、おっさんが俺の前に立ちはだかった。


「P君! なんでヤってないんだ!」


 Fさん、すなわち未来の俺だ。鬼の様な形相で俺を睨みつけていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る