第8話 紗季のフェロモン

 紗季が部屋に戻った後、俺は風呂に入ることにした。

 さっきまで紗季が使っていた風呂だ。


 ガラス戸を開ける。

 もわん、と甘い匂いがした。


「あれ、紗季、シャンプー変えたのかな?」


 あ、これ、紗季の部屋の匂いと同じだ。

 シャンプーの匂いじゃない。

 紗季の匂いなんだ。Fさんはフェロモンとか言ってたっけ。


 と、その時だった。


「ぐはう! ぬあああ! なんじゃこりゃー!」

 いきなり、殴られたかのような衝撃が俺を襲った。何が起こったのか最初はわからなかった。


 あまりにも急激かつ激しい衝動だ。

 今の俺の頭の中は「ヤりたい」の四文字しか存在しない。


「まさか、フェロモンが俺の煩悩を……!」


 俺にサキュバスと告白したことで抑制がなくなり、思いっきりリラックスしたのだろう。大量のフェロモンが湯船に放出されたのだ。


 紗季のフェロモン風呂。


 強烈な性衝動が俺を襲ってくるわけだ。


 いや、「わけだ」じゃねぇ! いろいろヤバい! いろんな場所が爆発寸前だ! どーにかしろ、俺!


 俺は急いで湯船から這い出て、風呂の栓を抜いた。シャワーの蛇口をひねり、フェロモンの混じっていない水道水で全身を洗う。

 ガラス戸を開け、換気扇のスイッチを入れる。

 フェロモンを洗い流し、風呂場からフェロモンのにおいを排出することで、やっと俺は正気に戻った。


 が、それでも過去最大級に性欲が高まっている。


 ……今までも紗季の後に風呂に入ったことはある。


 いつもはシャンプーの匂いしかしなかった。時々、かすかに甘い匂いがしたことがあったが、俺に何の変化も起こさなかった。紗季が自分を抑えていたから、フェロモンもそんなに出ていなかったのか。


 ああ、だめだ! すんごく、「ヤりたい」!


 紗季に血を抜いてもらおうか。いや、ダメだ、今の俺は紗季を見たら襲ってしまう。それはダメだ。


 自分の部屋で……処理しよう……。


 いや。


 ……確か今日の夜、紗季が大胆サービスしてくれるはずだ。


 そこまで我慢すれば……。


 風呂から上がって、自分の部屋に行く頃には、だいぶ落ち着いていた。


 部屋のベッドに横になって、今日の夜のことを考える。

 大胆なサービスか。紗季はどんなことをしてくれるのだろう。大胆というくらいだからなあ。やっぱり……してくれるのだろうか?


 あ、でも、さっきの話ぶりでは一線は超えないような感じだったな。


 だめだ。そんなこと考えていると、全然寝つけない。

 どうやったら眠くなるだろうか。


「明日のテスト勉強をしよう」


 そうだ。勉強ほど眠くなる行為はない。退屈な教師の授業がセットなら完璧だ。


「……だめだ」


 紗季の大胆サービスのことが気になって、全然勉強に集中できない。


 どうしても、紗季のいろんなポーズや行為を妄想してしまう。眠くなるどころかギンギンだ。


「うーん、興奮して眠れんぞ」


 気がつくと朝だった。結局、徹夜してしまった。


 せっかくの大胆サービス。俺はそれを受けることが出来なかったのだ。

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