第7話 妹は裸になる

「先にお風呂に入るね」

 食事の後、紗季が風呂に入った。


(今、紗季は裸なのか)


 いつもなら気にならないのだが、今日は妙に意識してしてしまう。

 俺は風呂場の方へ行った。

 警戒心ゼロの紗季は、バスルーム入り口の木製扉を開けたままだった。

 磨りガラス越しに、紗季の裸体が見える。

 身体を洗っているようだ。横を向いた。形の良い、適度な大きさの乳房と……乳首のシルエットが、スリガラスに映った。


 ――今日、俺は、あの身体に欲望をぶちまけるんだ……。


 そう思うと、もう、理性が吹き飛びそうだ。


「兄貴? いるの?」

 風呂場の中から紗季の声がした。ヤバい。覗きが見つかってしまう。

「あ、ああ、紗季、まだ風呂入ってたのか。ごめん、てっきり上がったと思った」

 我ながら全然駄目な言い訳だと思った。

 なぜなら、紗季が風呂に入ったのは5分前だ。5分で女子が風呂から上がるわけないじゃないか。


「もー、そんなこといって。兄貴、本当はさー……」

 俺はつばを飲み込んだ。どんな罵倒の言葉でも受ける覚悟を決めた。

「一緒に入りたいんじゃないの?」

 きゃはは、と紗季の笑い声が聞こえた。

 想定外の紗季の反応に、俺はどうしたらいいのか、わからない。

「あ? そんなわけないだろ! いくら兄妹だって言っても、ほら血は繋がってないし」

「血が繋がっていても、高校生の兄妹は一緒にお風呂入らないんですけど―」

 紗季がからかうように俺に言った。


 風呂場のガラス扉がカチャリ、と少しだけ開いた。

 髪をアップにし、メイクを落とした紗季が顔を出す。

「……やらしーなー、兄貴。そんなに覗きたいんだったらさぁ……こんど、一緒にお風呂はいろーね!」

 そう言って、紗季は扉を閉めた。


 混乱と興奮で返事をすることが出来なかった俺は、とりあえずリビングに行き、ソファに座った。

 テレビを点ける。低俗なバラエティ番組にチャンネルを合わせる。ひな壇芸人がネットの投稿動画に適当なコメントを付け合っている。


 だが、俺の頭脳はその画像も音声も全く認識できていなかった。

 俺の眼には風呂場のガラス扉から覗いた紗季の顔と身体の一部、耳には「こんど一緒にお風呂はいろ」と言った紗季の声が無限ループで再生されていた。


 やはり、紗季は俺のことが好きなのか? 今まで、一度も、一緒に風呂に入ろうなんて言わなかった。

 一緒に風呂。湯船は高校生の男女が2人一緒に入るのには狭い。かなり身体が密着するはずだ。そういうことを許す関係……それは恋人。


「あー気持ちよかった!」

 紗季が風呂から上がってきた。いつもと同じようにパジャマを着ている。

 ふと、胸を見る。ノーブラだ。

「おい、紗季、お前、ノーブラじゃないか。い、いくら兄妹とは言えだな……」

「え? 今頃気がついたの? 毎日風呂上がりはノーブラだけど?」


 ……そうだったのか。


「もう、兄貴、今日変だよ。あ、わかった、今日の夜のサービスのことが気になってんだ!」

 意地悪く紗季が笑う。

 普段の紗季はこんなに笑わない。

 というか、そもそも、俺とあまり喋らないし、俺に近づいて来ない。

「そ、そういうお前も、今日は少し……その、なんというか……はしゃぎすぎじゃないか?」

 紗季がソファの所へ着た。俺の隣に座る。


「うーん。それはサキュバスってこと、告白できたからかな」

「どういうことだ?」

「……サキュバスって、どうしても自然体で男の人を誘っちゃうんだよね。だから、兄貴だって、今まで私に、その、えーとね、誘われてたって、思うんだ」

 俺はドキッとした。

「そ、そうか? 気がつかなかったけどな」

「うそ。絶対、気がついてた」

 紗季が大きな目で俺を見つめる。

「兄貴ね、絶対、自分がえっちだから、血の繋がらない妹に欲情しているんだ、どうしよう、って悩んでいたと思うの」

「……そんなことないけどな」

 すまん。その通りだ。図星だ。


「兄貴は悪くないよ。欲情するの、私のせいだから。でさ、今日、私はサキュバスだって告白できたじゃん?」

「ああ」

「凄く嬉しいの。もう、自分を隠さなくていいって。毎日辛かったんだよ。兄貴に接近しすぎると、兄貴を刺激するし、かといって、私……その、えっちな気分の人の血を吸わないと死ぬし。だから、夢の中でちょっとだけ、えっちなことして、兄貴に興奮してもらって、そろーっと夢の中でちゅーって、血を吸ってた」


 そうなのか。それは知らなかった。サキュバスは性的に興奮した血、もしくは精そのものを摂取しないと死ぬのか。


「だから、もう……もう、私に対して普通に、えっちな気持ちになってもいいんだよ、って言いたいの」


 ダメだ、心臓のバクバクが止まらない。この展開、寝るのを待つまでもなく、ソファで一戦交えることになるのではないのか?

「そ、そうなのか?」

「そ。今だって、すごく、えっちな気分でしょ? お風呂覗きに来たくらいだから……」


 ばれてた。


「……ごめんな。その通りだ。すまん。お前に対して、その、そういう気持ちを抱いているのは事実だ」

「だから、それでいいの……」

 紗季が俺に抱きついてきた。

「え?」

「あ、兄貴すごく興奮してる……頂くね」


 かぷ。


 紗季が俺の首筋にかぶりついた。ノーブラの胸が俺の二の腕にあたっている。

「あん、今日の兄貴、凄く美味しい! どろっどろっ。エキスが濃い!」

 すーっと意識が遠のく感覚がする。

 そう、いつも夢で見ている感覚だ。


 と同時に、性的興奮が静まっていく。紗季が吸いとったからだ。


「……ね? もう大丈夫でしょ」

「ああ。そう……だな」

 いわゆる賢者タイムと同様の感覚。

 軽い後悔と、満足の入り乱れた感覚。

「兄貴さ、私に対してえっちな気持ちになったら、教えてね。こうやって、夢でなくても、ちゅーって吸いとってあげる!」

 紗季が口をすぼめて、ちゅぱちゅぱ、と音を鳴らした。

 再び、俺の中で何かが疼いた。

「あ、また興奮してきた?」

「……あんまり兄をからかうな」

「ごめん、そういうつもりじゃないの」

 紗季がしゅん、となる。


「あ、いや、その……なんだ。俺もなんというか、妹に性的に興奮するというのはずーっと後ろめたかったんだ。それが、お前の命のためだとわかってすっきりしたよ」

「ほんと?」

「ああ」

「やった! じゃあ、今日の夜は、うーんとえっちなことしてあげるね! お昼間約束したでしょ。大胆サービスって。で、すっごく、兄貴がえっちな気持ちになったところで、血を吸わせてね!」

「ああ……いいぞ」


 それじゃあとでね、と言って、紗季は自分の部屋に戻っていった。


 Fさん、話が微妙に違っているんですけど。

 紗季は俺の最高に性的に興奮した状態の血を吸いたいだけのようなんですけど。


 ――Fさん、本当に紗季は俺のことが好きなんですか?

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