第6話 エターナル童貞

「おっと、もう4時だ。そろそろ公園に戻るとしよう」

「ちょ、ちょっと待ってください。結局、俺はどうしたらいいんですか?」

 Fさんはニカと笑って、俺の肩を叩いた。

「決まってるじゃないか! 紗季とヤるんだ! ちゃんと中に出すんだぞ! 大丈夫、妊娠しない。夢だし」

「そ、それでいいんですか?」

「いい。それでいい。それで歴史が変わるんだ。淫夢におけるサキュバスとの性行為は本当の性行為と同じ意味を持つんだ、悪魔的には。さらに夢の中で紗季と結ばれることで、現実の紗季とも結ばれる。ということで、俺は17歳で現実世界でも童貞喪失。めでたく魔法使い回避、それどころか紗季と結婚。毎朝ベッドの隣に裸の紗季が寝ている……そんな未来のはずなんだぜ?」

「……俺が今日夢の中で紗季とエッチしたからって、そのまま紗季と結婚できるものなんですか?」

 Fさんはニヒルに笑った。

「それが愛ってもんだろ?」

 Fさんは玄関を出て行った。


 その数秒後、紗季が帰って来た。

「ただいまー。今の誰?」

「ああ、新聞の勧誘だ」

「へー。なんか浮浪者みたいだったね」

 ローファーを脱いで、紗季がリビングに向かう。

 紗季が足を組んでソファに座った。短いスカートのせいで、太ももは丸見えだ。

「今日ね、雪んとこで勉強してたんだけどさー、雪、兄貴のこと色々聞いて来たよ」


 下村雪。紗季のクラスメイトだ。

 何度かうちに遊びに来たことがある。

「雪、兄貴のこと好きなのかな? やたら誕生日知りたがっていたし。あとね、どこで聞いたのか知らないけど、私と兄貴が実の兄妹じゃないって噂があるよ、だって」

「それは聞き捨てならないな」

 俺と紗季に血の繋がりがないことは、学校当局以外には秘密にしてある。もちろん、学校当局には個人情報の保護を徹底してもらっている。


 なお、紗季がサキュバスというのも秘密だが、これはあまりに奇想天外な秘密なので教師に言ってないし、そもそも言う必要もない。


「でしょ。で、『紗季ちゃん、健太さん、本当のお兄ちゃんじゃないってホント? もしかして付き合ってたりする?』とかうるさいからさ、かるーく催淫してみたの」

「催淫? 雪ちゃんをか?」

「うん」


 紗季の特殊技能のひとつ、催淫。

 サキュバスの基本は淫夢を見せて血ないしは精を吸うことだ。しかし、これ以外にも、サキュバスには催淫という技能がある。強烈なフェロモンを出して、周囲の人間の性的興奮を高める技能だ。

「で、雪ちゃん、どうなったんだ?」

「健太さん、健太さん、って言いながら、顔真っ赤にして、股間抑えてトイレに行っちゃた! しばらく出てこなかったよ」


 それって……。ちょっとやりすぎじゃないのか?

 紗季はウブで恥ずかしがり屋だが、同時にいたずら好きだ。とくに催淫はお気に入りだ。


「……雪、兄貴のこと考えながらトイレだよ。えっちぃね。もうウチには呼べないな。兄貴に何するかわからないもん」

「呼べよ。大丈夫だろ、催淫しなければ」

「よくないの。とにかく、兄貴に色目使う女はおウチに入れない。たとえ雪でもね」

 えへーと紗季が笑う。

 俺はFさんのセリフを思い出していた。

 ――紗季は、他に好きな人などいない。俺のことを愛していた。

 雪への仕打ちは嫉妬なんだろうか。だとすれば、紗季は俺のことが好き……ってことなんだろうか。


「あーあと6時間くで寝る時間だー。兄貴、期待して待っててね! 私、けっこう大胆になるけど、びっくりしないでね?」

「おう。楽しみにしとくよ」


 紗季の大胆サービス開始まで、あと6時間か――。

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