第5話 それぞれの淫夢

 俺とFさんは紗季の部屋に入った。

 紗季の部屋は甘い香りに満ちていた。


 俺は下半身が熱くなるのがわかった。


「うう、さすがサキュバス、強烈なフェロモンだ。これはきつい」


 Fさんがたじろぐ。


「若い頃の俺はこんなのに耐えていたのか。そりゃ魔法使いにもなるってもんだ。すまんが、君が探してくれ。このフェロモンには抗いがたい。すでにかなり欲情している」

「え? 紗季にですか?」

 いくら自分とはいえ、なんかムカつく。

 若い頃の自分の妹(血は繋がっていないが)をそういう目で見ないで欲しい。


「いや、そうじゃない。P君、君にだ……。どうしよう。若い自分に惚れそうだ……過去の自分にえっちなことしたら、それって広い意味のオナニーかな?」


 ちょっとまて。未来の自分とそういう関係になるのはごめんだ。


 妙な目で俺を見つめ出したFさんを部屋の外に追い出し、俺は一人で紗季の部屋を探した。


 目的の名簿はすぐに見つかった。花田という男子生徒は在籍していなかった。

 花田の不在を確認した俺は、元どおりに名簿をしまい、紗季の部屋から出て来た。


 廊下ではFさんが頬をほんのりピンクに染めて待っていた。


 なんかやだ。


「どうだった?」

「ええ、Fさんの言う通り、花田という男はクラスにいませんでした」

「だろ? 紗季は冗談でも好きではない男を好きとはいえない性格だ。恋愛に関して実在する人物を使った嘘はつけないんだ」


 なるほど。俺より紗季との付き合いが長いだけあって、紗季のことをよくわかっている。


「ところで……紗季は、その、どんな風に大胆に誘惑してきたんですか?」


 Fさんとリビングに戻りつつ、俺は聞いてみた。


「俺の夢の中で紗季は……俺に抱きつき、俺の下半身をぎゅっと握って兄貴の子供が欲しい、って言ったんだ。それに対して俺は、バカなこと言うな、兄貴ってのは妹を孕ませたりしないもんなんだ、って言ったんだ」


「で……どうなったんですか?」


「……二度と、俺の夢に出てこなくなった。二度とな」Fさんが言った。


「そうなんですか……」

「あ、でも大丈夫だぞ。かわりに、咲江さんが毎晩出て来るようになるから」


「咲江さんて……あの、咲江さん?」

「そう、あの咲江さんだ。お前の義理の母」

「なんで咲江さんが俺の夢に出てくるんですか? ……親父はどうなったんですか?」


 俺はFさんに聞いた。


「お前の親父、というか俺の親父だが、あいつ、糖尿病だろ?」

「ええ」

「それが原因で、EDになる。俺の記憶ではあと数ヶ月で完全にインポだ。それで欲求不満になった咲江さんがお前の夢に出て来るようになる。そりゃすごいぞ。まさにバキューム。気持ちいいぞ。あ、ちゃんとお前の希望に合わせて、いろんなエロいことしてくれるから安心しろ。ハハハ」


 妙である。夢に咲江さんが出て来るのなら、なんで30歳まで童貞なんだ? 


 36歳の咲江さん、俺的には射程範囲内だ。あの人の身体、すんごい、えっちなんだぜ?


 夢の中だけ、口だけで我慢できるとは思えない。父の不在の時を狙って、その……やっちゃうだろ?


「……失礼なことを聞きますけど」

 自分相手だから、失礼も何もないか。


「ああ、なんだ?」

「あの、夢の中で咲江さんと……いや、夢の中だけでなく、現実でもいいんですけど……その、ヤらなかったんですか?」

「何を?」

「ですから、ナニです」

「ああ、ナニね」

「はい、ナニです」


 Fさんは遠い目をした。


「言ったろ? 俺は一生えっちしないという罰を自分に与えたって。だから、咲江さんには口でしかしてもらってないんだ」


「口、ですか。あの、それは『えっち』には入らないんですか?」


「ああ、入らない。セックスではないからな」


「そういうもんですか」


「そういうもん。だから常に咲江さんのお口の中に全力発射してた。咲江さんの口は絶品だからな。あ、P君も一度出したことあったけ。あれ、凄いよな? 全部飲んでくれるし、残った最後の一滴までちゅーって吸い出してくれる。正直、あれがあれば一生えっちなんかしなくても大丈夫なんだよな、ハハハ」


 ハハハじゃねえ。俺、こんな最低な男に育つのか?


 なんか絶望しかないんだが。

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