第4話 未来からの警告

 俺の家は一軒家。地方都市のベッドタウンにある。


 家に着くなりFさんは風呂に入った。勝手に洗濯機まで使い出す。幸い、紗季は帰って来ていない。咲江さんも親父も仕事だ。


 風呂から上がると、Fさんは服を着替えていた。


「その服、どうしたんですか?」

「これか? 親父のだよ。俺が昔住んでた場所と違うところに建っているのに、間取りと家具はほとんど一緒だな。面白いもんだ」

 勝手に親父の服を探し出して着たらしい。

「ちょっと、困りますよ!」

「大丈夫。大丈夫」


 何が大丈夫なんだか。


「紗季はまだ帰ってないな?」

「ええ。おそらく、友達の家で勉強しているかと」

「咲江さんも親父も絶対6時以前には帰ってこない。紗季は5時ごろには帰ってくるだろ。今2時だから、3時間程度あるってことだ」


 ヒゲは剃っていないものの、こざっぱりしたFさんが扇風機で涼みながら言った。

「しかし、間に合ってよかった。一学期の期末考査が終わった後だったら、全てパーだった。全魔法力を使ってタイムリープしたのが無駄になるところだったよ」

「タイムリープ?」

「そう。タイムリープ。俺は過去を変えて現在を――ってP君から見たら未来だな――を変えるために、タイムリープしたんだ」

「魔法なんですか?」

 Fさんはふふん、と笑った。


「そう魔法。俺は魔法使いだからね。ただし、タイムリープの魔法は途方も無い魔法力が必要だ。そう何回もできるものではない。ていうか、今現在、俺は魔法が使えない。魔法力が枯渇した」

「魔法使い?」

「俺がなぜ魔法使いになったかは、あとで話そう」

 いや、だいたい想像が付いた。あれだろ、30歳まで童貞だとどーのこーのていう、ありきたりな設定だろ?


 Fさんは勝手に冷蔵庫を開けて、ジュースをコップに入れた。一気に飲む。

「さっき、スタバで見てたんだが、P君よ、今日、紗季がお前に好きな人がいるって告白したよな?」

「ええ」

「で、お前、本当は紗季が好きなくせに、もじもじしちゃってるもんだから、それはよかったとかなんとか言って、適当に話を合わせたよな?」

「……ええ、まあ、たぶん」


 痛いところを突いてくる男だ。といっても未来の俺なんだが。


「その結果、紗季は喜び、今日はスペシャルエロチックセクシーサービスしてあげるって言ったな?」

「……そういう言い方はしてませんけど、『ちょっと大胆にサービス』してくれるとは言ってました」

 Fさんはフッ、と小さく息を吐き「大胆ねぇ」と呟いた。


「いいか、P君。今日、紗季は、信じられないくらいお前にセクシーかつ大胆に迫ってくる。視覚的にも触覚的にもだ。お母さんの咲江さん譲りの超セクシーダイナマイツだ」

 俺はゴクリと喉を鳴らした。


「だが、理性を失わないお前は、絶対に紗季と一線を超えない! 紗季があの手この手で迫って来ても、お前は断固として、拒否する! どうしてだと思う?」

 Fさんがビシッと俺を指差した。

「えっと……紗季には好きな人がいるから、だから、その、好きでもない俺とそういうことするのはよくない、いくらサキュバスでも……とそういうことですか?」

 Fさんが大きく頷いた。


「そう! さすがP君、過去の俺! まさにその通りだ! 紗季、だめだ、俺とこんなことしちゃだめだ、お前はサキュバスだからサービスのつもりだろうが、これは、愛がなければヤっちゃいけないんだ、そう俺は思ってしまい、断固拒否したんだ」

「純愛っすね」

「ああ。純愛だ。だが、それは誤解だった。紗季に恥をかかせたお前は、一生、童貞を守るという罰を自らに下してしまう」


 ええええ!


「紗季は……紗季は、他に好きな人などいない。俺のことを愛していた。だから、俺を本気で誘った。なのに、俺は、それを全力で拒否してしまったんだ……」


 え? 紗季に好きな人がいない? 俺のことを愛している?

「あの、Fさん、全然意味がわからないんですが」

「意味なんてわからなくていい。いいか? 紗季の今日の告白、あれは、お前の気持ちを確かめるため、嫉妬させるための嘘だ」

「え?」

「俺の時は山本とかいう男が好きだと言ったが、そんな男は紗季のクラスにはいなかった。そうやって、他に好きな人がいるって言って、お前に嫉妬させたかったんだよ! 紗季の計算では、俺だってお前が好きだ! となって、二人は結ばれる予定だったんだ。なのに、俺は……俺は……紗季の気持ちを踏みにじってしまった。だから俺は、罰として一生誰ともえっちしないと誓ったんだ」


 ちょっと待ってくれ。

 俺……一生童貞なの? 童貞のまま死ぬの?


「まあ、そのおかげで30歳まで童貞だったから、魔法使いになることができて、タイムリープできたんだけどな」

 Fさんはいきなり上着を脱ぎ、シャツを脱いだ。そして俺に背中を見せた。


 そこには、大きな焼印……五芒星に不可思議な文字が刻まれた、不思議な文様が焼印として押されていた。

「これは……魔法使いの印だ。30歳の誕生日、悪魔が俺に押してくれた。言い伝えは本当だったんだよ、P君」


 やっぱそうか。ありきたりなんだよ、設定が。


「ということで、P君。魔法使いの俺はタイムリープして歴史を変えようと過去に来たところ、何者かが先にきて、歴史を改変しているらしい。よって俺の家の所在地も違っているんだが、どうせ似たような状況だろ? 同じだろ?」

「え、あ、そうです。えーと確か、クラスメイトの花田とか言う男が好きだって」


 難しい。女心は難しい。


 ということは、今回紗季が好きだと言った花田という男も存在しないってことか?


「おい、P君。紗季が帰宅する前に、紗季の部屋に行くぞ」

「何しにですか?」

「入学式で配られたクラス名簿が紗季の部屋にある。それを見れば山本じゃなかった、花田なんて男がいないことがはっきりする!」

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