第3話 未来から来た男

 紗季がスタバを出たあとしばらくしてから、俺も店を出た。


「今日はサービス、か」


 紗季のセリフを反芻しながら、俺は公園併設の市立図書館へと向かう。


 閲覧室で適当に席を取り、明日の英語の試験勉強を始めた。が、紗季の言葉が気になり、全然集中できない。


 紗季はどんな「大胆サービス」をしてくれるんだろう。もしかして、咲江さんと同じようなことだろうか?


 だめだ。手につかない。


 気がつくと、俺の目の前に中年男性が座っていた。

 中途半端に伸びた髪、数週間、いや数ヶ月は剃ってないだろうヒゲ。

 不潔感漂う体臭。


 きっとホームレスだ。なぜかじっと俺を見ている。


 もしかして、この場所は彼の定番席だったのか? きっとそうだ。

 無用なトラブルはごめんだ。席を譲るとしよう。

 

「青木健太だな?」

 俺が席を立とうとした瞬間、そのホームレスは俺に声をかけて来た。

 なんで俺の名前を知っているんだ?


 あ、そうか。


 俺は英語のテキストを見た。高校で教科書泥棒が多発しているため、自衛手段として、教師が教材に名前を書くことを奨励しているのだ。俺のクラスでも数人被害にあっていたので、俺は全教材にクラス名と氏名を記入している。それを見たんだろう。無視するに限る。


「話がある」

 ホームレスがはっきりとした口調で、言った。

 俺は無視してその場を立ち去ろうとした。


「サキュバスの紗季のことだ。なんのことかわかっているな?」

 俺の動きが止まる。

 こいつ、なんで紗季のこと、知っているんだ?


 呆けに取られている俺に、もう一度ホームレスが言った。

「お前の妹のサキュバスのことで話がある。驚くのも無理はない。俺はお前だ。20年後のお前だ」


 ホームレスの男は平然と、ありえないことを俺に言ってのけた。


「とりあえず、外に出よう」

 やや異臭を漂わせる男に促され、俺は図書館の外に出た。


 俺とホームレス改め未来から来た俺は、図書館併設の公園へ行き、適当なベンチに座った。


「こんなホームレスみたいな格好ですまない。色々あってね」


 ホームレスっぽいという自覚はあるんだ。


「本来であれば、君、というか俺が紗季と出会う4月より前に会いたかったんだが、色々邪魔が入ってね」

「はあ」

「すでに歴史が何者かによって改変されていて、本来、高校生の俺がいたはずの街には俺はいなかった。それで、君というか俺……ああ、ややこしいな」


 そう言って、男は考え込んだ。

「こうしよう、俺は未来から来た青木健太だから青木健太F、フューチャーのFだ。君は過去の青木健太だから青木健太P。パストのPだ。ということでP君」

「P君?」

「そうだ。青木健太P、青木健太Fとお互いを呼ぶのは変だろう? 俺のことはFさん、と呼んでくれ」


 確かに、青木健太P、青木健太Fではまるで藤子不二雄だ。


「とにかく、歴史が改変されていてP君が住んでいる場所を探すのに時間がかかったというわけだ」

「はあ」

「……信じてないな。俺が未来から来た証拠を見せよう。これだ」


 そう言って、自称20年後の俺は見たこともない1万円札を見せてくれた。肖像は手塚治虫だ。手塚治虫?

「……これ、手塚治虫ですよね?」

「ああ、元祖クールジャパン、てことで、10年前、つまり今から10年後、異例の採用だ」

「発行年が平成50年って書いてありますが……」

「ああ、これな。そうか、まだ浩宮様は皇太子なんだな。2年後だっけ? いや来年か? 浩宮様が天皇になられるの。ま、とにかく、新元号に伴うシステム変更が追いつかないってんで、土壇場で結局平成を使い続けるってことになったんだよ」


 いかにもありそうな話だ。


「どうだ、これで信じてくれたか? じゃ、とりあえずP君の家に連れていってくれないか。もう3ヶ月以上風呂に入ってないんだよ」

 やはりホームレスじゃないか! 

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