第2話 今日の夜ちょっと大胆になるから

 俺は目の前の紗季を見た。栗毛のロングヘア。薄い唇はほんのり桜色。大きな瞳。長い睫毛。


 ブレザーの上からでもわかる、綺麗なボディライン。チェックのスカートから伸びる細くて白い脚。特に太ももはうっすら筋肉の筋が見えて、それが動くたびにぴくっとなって、俺の心を刺激する。


 正直に言おう。俺は紗季が好きだ。毎晩、えっちな姿で俺の夢に出て来て触らせてくれるから「だけ」ではない。


 彼女の性格、言動、外見、全てが、俺の好みだ。


 そう、俺は紗季に恋をしているんだ。

 

 妹のことが好きだ。


 愛してる。


 血の繋がっていない兄妹は結婚できるそうじゃないか。ラノベで見たぞ。


 えっちな夢の最中、本当は俺は紗季を押し倒し、思いを遂げたい。だが、そうすることで、紗季に嫌われるんじゃないか、いや、それどころか実はこれは夢ではなく現実で、そういうことをすると両親が部屋に飛んで来て、俺を怒鳴りつけ、下手すると離婚するんじゃないか、と考えて、俺は手を出せないのだ。


「……で、お前がサキュバスなのは分かったが、なんでいきなり、それを俺に告白したんだ?」

 俺は心臓をバクバクさせながら聞いた。自分の正体をバラす紗季。秘密を打ち明けるのは、当然好意を寄せているからであろう。


 もしかして、紗季も俺が好きなのか? 


 いや、そうでなくては、毎晩俺と淫夢をプレイなどできないだろう。


 それだけではない。夢の中とはいえ俺の首に食らいついているのだ。


 それって……キスだろ?


 嫌いな男の首筋にキスなど、できるはずない。紗季が俺を好きだからキスしてるんじゃないのか?


 だが、俺の淡い期待は裏切られた。


「あ、あのね、兄貴。私ね、好きな人できたの。同じクラスのね、花田君……」


 あっけなく訪れた失恋。


「……普通の男の人って、サキュバスのことどう思っているのかな? 兄貴は、私のことどう思っている? 毎晩えっちな夢に出てくる変な子だ、えっちな女の子だって、軽蔑してる?」


「そうだな……」


 そのあと、俺は何を紗季と話したのか覚えていない。紗季は楽しそうにいろいろ喋っていたが、何も頭に入らなかった。


「ねー、兄貴、話聞いてる?」


 紗季がつんつんと俺を突きながら言った。


「もちろん」

「ほんとかなぁ」

「ホント」

「ま、いいや。じゃーね、兄貴。私、雪ちゃんちで勉強してから家に帰る」

「雪? ああ、下村雪ちゃんか。何回かウチに遊びに来てたな」

「そ。あの子」

「そっか。じゃあ、おれは図書館で勉強していくわ」

「わかった」


 紗季が立ち上がった。スクールバッグを持ってスタバを出ようとしたが、途中で立ち止まり、タタタと俺のところに戻ってきた。


「忘れ物か?」

「そ。お礼言うの忘れてた」

「お礼?」

「うん。ありがとね、兄貴。サキュバスって告白できて、だいぶ楽になった。そっか。兄貴は気にしてないんだ。……じゃ、今日はちょっと大胆にサービスしてみるねっ! えへ!」


 紗季が俺の耳元に口を寄せて小声でささやいた。そしてバイバーイと手を振って去って行った。

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