第23話 首輪

「まいどっ」


 断腸の思いで、ギルドの道具屋に言われた金を差し出した。

 サナトの資金が一気に目減りする。

 武器よりも防具よりも遥かに値が張るアイテムは予想以上に懐に痛い。


(だが、これがなければ……必須アイテムだ)


 ようやく目的を終えたサナトはリリスを連れてギルドへやってきている。相変わらず活況で、冒険者が多い。

 アイテムや武具の売買も盛んに行われている。

 リリスに合う装備も物色し、すぐに購入する。動きやすさを重視した薄い金属製の軽鎧の上下セットだ。もちろんアイテムボックスも忘れてはいない。

 サナトはギルドの隅へと移動し、為されるがままのリリスにそれらをすべて渡す。

 リリスが目を丸くした。


「このアイテムボックスに登録しろ。それと、さっき買った服も渡しておくから入れておけ」

「……ご主人様が持つのではないのですか? 持ち主は私ではないですが」

「その服はリリスに与えたものだ。好きに使っていい。俺は一緒に買った予備武器だけ貰う」


 サナトは半ば有無を言わせず服を押し付ける。

 自分の物の管理を教える意味もある。

 最低限の物しか与えられない生活から変わるのだ。いつまでもサナトが管理するわけにはいかない。


「そういえば、これでパーティ編成ができるのか」


 リリスが嬉しそうに服を分けて入れていくのを待つ間、ギルド内をぐるりと見回した。

 感慨深い想いで、他の冒険者がしている動作を眺める。

 どこかに冒険に行くのだろうか。4人から6人を一塊として、チームリーダーらしき人物が「パーティ編成」という言葉を放っている。

 淡い白い光に一瞬包まれたことが完了の結果らしい。


(二年以上もこの世界にいて、パーティ編成は初めてだな)


 低レベルのサナトは誰ともパーティを組んだことがない。相手に何のメリットも無いからだ。そもそも組んでもらえたことがない。

 今のサナトならば《ファイヤーボール》を目の前で使って見せれば、その威力に誰かは興味を持つかもしれないが、そこまでする理由も無い。


「パーティ編成」


 リリスを思い浮かべて他の冒険者の見よう見まねで一言だけ言い放つ。

 作業中のリリスの体とサナトの体が一瞬光った。これだけで完了らしい。リリスが反応しなかったところを見ると天の声も何もないようだ。

 自分のステータス情報を確認してみると、確かにパーティ情報というページが増えていた。


(俺はパーティ情報で確認できるが、普通の冒険者はどうやってメンバーを確認するのだろうか)


『あっ……』

「どうしたルーティア?」

『なんか、一気に情報が増えた』

「情報が?」

『うん。ちょっと、潜ってくるね』

「潜る?」

『調べるってこと。何か分かったらまた言うねー』


 通信のような感覚が一方的にぷつりと切れた。

 相変わらずルーティアの行動は早い。リリスと違って思いついたらやってみるタイプだ。


(どんな情報が増えたのだろうか。だがパーティ編成後すぐにということなら、十中八九……リリスの情報だろうな)


 サナトはぼんやりと思いを巡らせる。


(もしも、ルーティアが以前に言っていた通りだとすれば……予定がかなり早まるかもしれないな)


 そうこう考えているうちにリリスの作業が終わったようだ。

 サナトはリリスを連れて外に出た。




 ***




「ご主人様、私の首輪はよろしいのですか?」

「首輪だと? ……そんなものは必要ない」


 迷宮がある街の門へ向かって歩いている時に、リリスがサナトに質問を投げかけた。

 それは、ちょうど奴隷商が建てたドーム型のテントの前を通りかかった時だった。

 このテントの中には様々な種類の奴隷がいる。


「ですが……私はご主人様の奴隷です」

「以前も首輪はつけていなかっただろ?」

「あれは……あの男が私を店に出すのに邪魔になるからという理由です」

「……なるほど。だが別にしないといけない決まりはないはずだ」


 リリスがサナトの顔を横から見上げる。


「こんなに高い服まで買っていただいて、ご主人様に大切にされていることは嬉しいです。けれど、きちんと奴隷だと示していただけないと、私が困ります」

「なぜ困る? ステータスカードを見れば一目で分かるはずだ」

「……それは……」


 珍しく少し必死な様子のリリスは、どう言うべきか言葉を選んでいる。

 サナトはなぜリリスがこんなことを言い出すのか見当がつかなかった。


「首輪とはあの金属製の魔法道具だろ? 何度か見たことがある。奴隷が逃亡した場合に居場所が分かるのだったか?」

「はい……」

「ステータスカードの効力で所有者への危害は不可能。首輪は居場所探知の機能のみ……その程度ならまったく必要は無い」

「ですが……私がご主人様の元から逃げるかもしれません」


 リリスは引き下がる気はないようだ。

 サナトは小さく苦笑する。


「本気で逃げようと考えるなら、俺にそんなことを言うはずがない」

「そ、そうですけど……」

「…………よく分からないが、首輪が欲しいのか?」

「……はい」


 サナトはどうしたものかと首をひねる。

 リリスが言いだしたことだ。

 できれば尊重したいが、これについては賛成しかねた。


(首輪をした奴隷を見たことがないわけではないが、あれは重いらしい。ついでに金属である以上、熱しやすく冷めやすいだろう。一度つければ簡単に外せないと聞くし、リリスの細い首にあんなものを……いや、待てよ……)


 サナトは通りをUターンする。

 リリスが慌てたように後を小走りで付いて来た。


「ご主人様、どちらに?」

「リリスに首輪を買おうかと思ってな」

「……ですが、奴隷商のテントはあちらですよ? もしかしてギルドですか?」


 ギルドでもステータスカードを見せれば首輪は買える。リリスはそう言いたいのだろう。

 だが、サナトは首を振る。


「いや、目的地はここだ」

「ここは……アクセサリーのお店……ですか?」

「そうだ」


 サナトはリリスに返答せず店内へ入る。

 そして、店の奥まで迷いなく進むと、いくつかの品の中から目的の物を選び出す。

 さらに別の場所に足を運び、そこでももう二、三の品を手に取った。


「ご、ご主人様?」

「まあ、少し待っておけ」


 サナトはそれだけ言って、さっさと会計を済ませてしまう。

 愛想の良い店員が頭を下げて二人を見送る。


「説明せず悪かったな。首輪が欲しいということだったが、それは却下だ。あれは生活に支障が出る。だが、その代わりとしてこれを使ってくれ」


 大通りに戻ったサナトが、リリスに小さな布袋の中身を取り出して見せた。

 それは黒いチョーカーだった。

 背後のフックで止めるタイプで、正面に小さなアクセントの金属が輝くもの。


「首輪の代わりにこれを?」

「ああ。居場所の探知はできないが、それならよく似合うはずだ…………俺から与えられる首輪はそれだけだ」


 リリスが片手に乗ったチョーカーをじっと見つめた。

 ゆっくりと少女の白い頬が緩んでいく。


「あ、ありがとうございます!」


 満面の笑みにサナトも内心で胸を撫で下ろす。


(何の目的があって首輪が欲しかったのやら。だが、妥協案のチョーカーで納得してくれて良かった。あの分厚い金属首輪はどう見ても痛々しいからな)


「あっ、言い忘れたがこっちも使ってくれ」


 もう一つ購入したものを喜んでいるリリスに渡す。


「これは……?」

「髪留めだ。リリスの髪は長いからな。戦う前には留めておいた方がいいだろう」

「……ありがとうございます」

「着けてやろうか?」

「い、いえ……自分でできます」


 リリスが慌てたようにまずチョーカーを付けた。首に当てて、後ろに手を回してフックをかける。

 白く細い首に黒いチョーカーがよく映える。続いて、長い薄紫色の髪を両手で束ね、髪留めでくくる。

 少し高い位置で留めた見事なポニーテールの完成だ。


「意外と手慣れているな」

「あっ、こういうのは皆に教えてもらったので……いつもやってもらっていましたけど」

「そうか…………では、改めて、出発するとしようか」

「はいっ!」


 サナトは再び歩き出した。

 笑顔の少女が軽快な足取りで隣に続いた。



 サナト 25歳

 レベル8 人間

 ジョブ:村人

 <ステータス>

 HP:57 MP:19

 力:26 防御:26 素早さ:33 魔攻:15 魔防15

 <スキル>

 浄化         護壁:初級(改)

 火魔法:初級(改)

 水魔法:初級(改)  

 HP微回復(改)   

 捕縛術:初級(改)  

 <ユニークスキル>

 神格眼

 ダンジョンコア

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