第11話 ぶっ壊れスキル

「ルーティア、《ファイヤーボール》の攻撃力を40まで落とせ」

『どうして?』

「弱らせるからに決まってるだろ。今の攻撃力では一撃で殺してしまう」

『あっ、そっか』



 ファイヤーボール

 《源泉》 ???

 《属性・形状・攻撃力》 火・球体・40

 《必要MP》 1

 《範囲》 単体

 《呪文》 炎よ 我が手に宿れ

 《精製速度》 8

 《その他》 10%火傷



 ――スキルが一部更新されました。上書きしますか? YES or NO?



「更新のたびに聞かれるのか……面倒だな。ルーティア、俺の代わりにウインドウのコマンドを選択できるか?」

『え? できるけど……私がやるの!?』

「そうだ。戦闘中にウインドウを見ている暇が無い可能性も考えられる。だから今後はルーティアがやれ」

『でも、変な風に変えちゃったりしたら?』

「……俺はルーティアを信頼している」

『――っ、うん! 私がんばる!』



 ――上書きに成功しました。



 単純なやつだ、と苦笑いしたサナトは気持ちを切り替えて呪文を唱えた。

《ファイヤーボール》が音を立ててウォーキングウッドを襲う。

 HPバーの減りは絶妙。

 生かさず殺さずの位置だ。


「よし」


 サナトは銀剣を片手に走り出す。

 一階層よりも生温かい風が体にまとわりつく。

 《神格眼》で見える敵の視野の外から手を伸ばす。


(これだけ近付いたというのに、こいつは音にも鈍感なのだな)


 迷宮に入った時はあれだけ絶望的な状況に追い込まれた敵も今では余裕を持って対処できる。

 ウォーキングウッドの背中側に手が触れた。

 途端に枝のなぎ払い攻撃が背後のサナトを襲う。

 だが、それを後ろに跳ぶことで軽く距離を取る。視野の移動も攻撃の方向も事前に見えている。十分にかわせる。


(接触一度目が完了か)


 敵の視野を示す範囲がオレンジ色に変化した。サナトを視認したらしい。

 足代わりの根を使って近付いてくるウォーキングウッドの左手を切り落とし、間髪入れずにそちらから背後に回って手を伸ばす――


(二度目の接触だ。ん? 《複写》が反応しない)


 背後から前蹴りをくらわせて動きの鈍い敵と再び距離を取った。


「ルーティア、どうなってる? モンスター相手はダメなのか?」

『たぶんだけど……時間が足りないんだと思う』

「時間だと?」

『今までは二回で合計二秒以上接触してる。でも今のは二回とも一秒以下だった』

「…………面倒だな。なるほど、それだと確かに握手の方が早いな。だが、これではモンスターに《複写》が効くか分からない。仕方ない……押さえつけるか」


 サナトは片腕を落とされたウォーキングウッドに再び切りかかり、反対の腕も落とす。

 そして視野の外に回って体当たりで転ばせた。

 これで土魔法も放てなくなった。



 ――《解析》が完了しました。《複写》を行いますか? YES or NO?



「三回接触で条件を満たす場合もあると。ルーティアの予想が正解か……YESだ」

『どれを複写するの?』

「《HP微回復》に決まってるだろ。すぐに《解析》しろ」

『あっ、回復量を増やすんだね?』

「当然だろ。ついでに《ファイヤーボール》の威力も500に戻してくれ」


 サナトはルーティアに指示を出すと銀剣を胴体の木に突き刺した。ウォーキングウッドのHPバーが完全に灰色に変化し、のしかかっていた敵が光の粉と消える。

 その場に木炭が残った。



 HP微回復

《源泉》 ???

《種類》 HP回復

《正負》 正

《必要MP》 1

《数値》 5

《間隔》 30秒毎

《対象》 本人

《その他》 なし



「こ、これは……MPを消費するのか。HPが減ると30秒に一度MPが自動で無くなっていくだと? なんてことだ……燃費の悪いゴミスキルだ。《解析》が必須だな……」

『マスター、回復量を5から500へ上げるね。ついでに回復間隔も縮めとく?』

「ああ。できるなら是非やってくれ。これではまったく使えない…………分かってはいたが、ゲームバランスは無茶苦茶だな」

『終わったよ!』

「って早いな」

『一度やってるから慣れちゃったのかな? 軽い軽い。《ファイヤーボール》の威力も修正完了であります!』



 HP微回復

《源泉》 ???

《種類》 HP回復

《正負》 正

《必要MP》 1

《数値》 500

《間隔》 1秒毎

《対象》 本人

《その他》 なし



 素晴らしいスキルに変わった。だが、サナトは頭を抱えたくなるような結果に呆れる。

 彼のHPは57。

 これがルーティアのひと手間でHPが毎秒500回復することになった。元は30秒ごとに5回復だったのだ。

 とても迷宮一階層のモンスターが持つスキルではなくなった。


(どんなオーバースペックだ。最初にこんなスキルを持つモンスターに会ったらそのゲームは叩き壊しているだろうな)


「《複写》からの《解析》のコンボは凄まじいな。だがいまだに見えない《源泉》とは何だ?」

『分かりません!』

「……いい加減に、たまにするその変なテンションでのしゃべり方はやめろ。スキル無効にしてやるぞ」

『ごめんなさい……』

「……まあいいか。そのうちわかるだろ」


 サナトは棚上げを決めた。

 そもそも考えても分からない奇跡のような話ばかりなのだ。

 今さらである。


『あっ、マスター、また聞いてきてるよ』


 ルーティアのそんな一言と同時に、サナトの頭に天の声が響く。



 ――スキルが一部更新されました。上書きしますか? YES or NO?



「YESだ」


 サナトは即答する。迷うことはない。

 だが、質問はそれで終わらなかった。



 ――上書きに成功しました。上書きによりスキルの一部が規定スキルに該当しました。《HP微回復》を《HP超回復》に名称を変更しますか? YES or NO?



「なにっ?」

『規定スキルってなんだろ?』


 サナトは思わぬ問いに首をかしげる。初めてのパターンだ。

 ルーティアも悩んでいる。


「規定スキルに該当……つまり、今回解析で上書きしてできたスキルは実際にこの世界に存在するってことか?」

『そうなの? えぇ……こんなスキル持ってるモンスターがいるの? 倒せないじゃん』

「設定としてあるだけで持っているとは限らないし、モンスターとも限らないだろ。もしかすると人間だって持っているかもしれない…………現にここにいるしな」

『そ、そうだよね』

「たまたま《HP超回復》のスキルと合致したわけだ……確かにぶっ壊れスキルだ。俺が言うのもおかしいが」


 二人の間に微妙な空気が流れる。

 外から見たらどう見えるかを改めて考えてみて、ことの重大さを実感したのだ。

 ルーティアがおずおずと声をあげた。


『も、もう少し、控えめにしとく? 回復量を100ぐらいにするとか』

「それでも俺のHPは1秒で満タンだぞ。やるなら20ぐらいまで下げないと意味が無い気がする。1秒ごとを10秒ごとに変えるとか…………」

『それってよく分からないよね?』

「ああ。わざわざ強いスキルを弱体化させてどうするのだ。《解析》の意味がまったくない。俺だって強い方がいい。もうこのままで行こう。それと、名称の変更は……」


 サナトは腕組みをした。

 今考えられる範囲では、名称を《HP超回復》に変えてしまうのはデメリットの方が大きい気がするのだ。

 メリットと言えばステータスカードを見せた時に注目を集めることぐらいだろうか。もしくは、とあるジョブの条件になっているとか。

 誰が持っているのか分からないスキルだ。

 サナトが知らないだけで、伝説のドラゴンや、英雄ジョブを持つ人間だけが持てるスキルだった場合には大いにまずいことになる。

 持っている人間はレベル8の村人なのだ。

 スキルの詐称などありえないが、疑われることは間違いない。


「やはりありえないな。名称変更は拒否だな。NOだ」


 サナトは再びステータスを確認した。



 サナト 25歳

 レベル8 人間

 ジョブ:村人

 <ステータス>

 HP:57 MP:19

 力:26 防御:26 素早さ:33 魔攻:15 魔防15

 <スキル>

 浄化

 火魔法:初級(改)

 水魔法:初級

 HP微回復(改)

 <ユニークスキル>

 神格眼

 ダンジョンコア

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