君の代わりに - アンチ廃人（木亥）

結

　RiOの復活から半年。彼は、あの十年ぶりの配信を一回したきり、配信をしていない。彼はおそらく、ジャンのアンチで忙しいのだろう。だが、真実を今更確かめるつもりはない。

　元サラリーマンの俺、鷹谷優斗はというと、今はコンビニのバイトをやっている。経済的に余裕が出来たと言われたら、そうとは言えない。だけど、サラリーマンやっていた時よりはずっと楽しい。仕事で疲れる事は少ない。上司も悩み事や相談に乗ってくれるし、失敗を酷く責める事もなく、いい人だ。十数年働いて、こんないい上司にあった事があっただろうか。今まで、上司は皆同じだと思っていた。でも、それは違ったんだ。俺は初めて、仕事に対して前向きなイメージを持てた。

　それに、俺にも新しい趣味が出来た。それは、ギターを弾く事だ。ギターは貯金で安いものを買った。

　RiO信者に住所を特定された件も、今は大丈夫だ。今から一ヶ月前になんとか安いマンションに引っ越す事が出来た。マンションのため、昼にしかギターを弾く事が出来ない。けれど、余裕が持てる休日があるから仕事も頑張れる。

　俺はいつか、ギターの弾き語りの動画配信をしたいと思っている。それが何年後になるかは分からない。そのための練習は真面目に楽しんで取り組んでいる。ジャンのように動画を叩くアンチもいつかは出て来る。だけど、そんな奴を相手にしちゃ駄目だ。それでは、RiOのように特定の人物に執着する廃人になってしまう。RiOのこの先の真実を確かめないのもそのためだ。そんなアンチがいても俺は、このギターの音を遠くに届けたい。

　あの人の代わりに...

アンチ廃人　完