廃人王の復活
いったいなんでこうなったんだ... 最近俺と一緒に、喋る玩具で遊んで来た仲間が声を掛けて来なくなった。代わりに、俺に復活してほしいと言う奴がめちゃくちゃ出て来た。
「O:RiOさん、アンチ活動で一日を潰すなら、戻って来てください。十年以上待ち続けているんですよ。」
そんな感じのリプが山ほど来ている。誰が復活すると言ったんだよ。イライラする。だからアンチは止められねえ。
...とは言っても、そろそろ貯金が底をつき始めている。数十億円も持っていたが、流石に十年以上ニートを続ける事は無理か。はぁ...分かってはいたよ。いつかはアンチ活動以外の事をすべきだって事を。アンチ活動は中断すらしたくねえが、アンチ活動を続ける為には金が必要だ。
十年ぶりにギターを触る事になるんだな... ギターはどこだ?どこに置いたかも完全に忘れていて見つけるのに15分かかっちまった。長い間使って無かったから、そのギターは鉾まみれで出て来た。錆もついていた。幸い、使っていた時はお手入れを欠かさず錆止めもしていたため、そこまで錆は酷くなかった。
次は、撮影部屋の掃除か。掃除なんて十年以上していない。家の中は、捨てていないゴミで溢れかえっている。本当は掃除なんてせず、元から綺麗な部屋で撮りたいところだが、そんな場所がないほどゴミが散らかっている。今日はゴミ捨ての日だが、ゴミ捨て場にゴミを出すのも面倒くさいからせめて撮影部屋のゴミを全部他の部屋に置いておこう。後は掃除機で適当にすればいいだろう。
動画撮影の準備開始から一時間後、アンチの効果が切れた。心がもう持たない。早くアンチしてぇ。苦しい。だが金が無くなったら、アンチ活動が出来なくなっちまう。アンチ活動のためだ。あとは鈍った腕の調子を取り戻したら、撮影開始だ。
随分弾いて無かったから調子を取り戻した頃には、夜の2時を過ぎていた。やっぱり我慢出来ねえ。今日はアンチして明日やるか。だが、その明日は近いうちに消えてしまう。永久に。だから、「明日から本気出す」と言ったニートの寝言は言っていられない。今眠りについて次に目が覚めた瞬間から、俺の明日が始まる。その明日があるうちにしなくてはならない。
昼の12時、俺は目を覚ました。17時に十年ぶりの配信を始める予定だ。その間、俺は気持ちを落ち着かせるために、アンチ活動で時間を潰した。今日こそは配信をやると決めていたので、17時にアラームをセットした。
アラームが鳴った後、俺はSNSで十年間放置していたアカウントで、配信を十年ぶりにする事を伝えた。リスナーを放置してアンチ活動をしていた事は知られているから、炎上はするだろう。しかし、そんな事はどうだっていい。金が手に入ればそれでいいのだから。どうせ金が手に入ったらアンチ活動を再開するつもりだし、謝罪する意味も無い。2時間後、SNSの書き込みが注目されているのを確認し、スマホのカメラを立ち上げ、撮影を始めた。
ついに、3時間に渡る配信が始まった。この時間は俺にとって地獄だった。早く終わらせてアンチをしたかった。後何曲弾かなければいけないかで頭がいっぱいだった。それでも、感情を抑えて配信が終わるまで弾き続けた。配信が終わった頃には、視聴者は5000万人に達していた。
その後、俺は配信した動画のチャットを読み返した。当然、俺の復活を喜んだファンは沢山いた。しかし中には、「腕落ちたな」とか「あの頃のRiOはもういない。彼もオワコンだな」と言った厳しい評価も書かれていた。確かに腕は落ちたかもしれない。早くアンチをやりたいと言う気持ちでいい加減な演奏になったのもあるけどな。それに俺はもうオワコンなんだよ。復活したのも、アンチ活動を続けるための金が必要だったからだ。むしろ、「腕落ちた」とか「オワコン」とか、そう言ってくれたほうが助かる。配信を続けて欲しいと思うファンなんて俺には邪魔なだけだ。他のアンチもどうでもいい。奴のアンチ以外、する気もないし。
翌月、動画の月収が振り込まれた。これだけあれば、最低一年はアンチ活動できるだろう。
さて、また奴を叩こうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます