第66話 思い出

「俺が勇者!?」

「うん」


 そんなはずはない。

 確かにいまだに勇者は見つかってはいない。

 だけど俺というのはおかしい。


「勇者は生まれながらわかるんじゃないの?」

「誰が言ったかはわからないけど、私が言うんだから間違いない」

「そんまさか……」

「むぅ、なかなか信用してくれない」


 そりゃあ勇者ではないと思っていたからね。

 そんなすぐ信用はできない。


「私の目を見て」

「目?」


 見てみると綺麗な青い瞳をしている。

 が、徐々に白へと変わっていった。


「これは『選別の目』と呼ばれる目」

「選別?人の?」

「うん。勇者以外にも一応分かるけど、使われるのは勇者の時ぐらい」

「でもそれだけじゃまだ……」

「……普通だと嬉しいものだけど用心深い」


 いきなり言われてもなあ。


「ちなみにこの水晶は?」

「これはこの目を真似てつくった水晶。確認用にいい」

「うーん……」


「しょうがない。無理やりだけど我慢して」

「えっ?」

思い出メモリー


 メンディちゃんの目を見ていたらあたり一面が白くなった。

 どこかへ飛ばされたのか?

 でもさっきは思い出って言っていたし。


 やがて白かった周りはどこかの草原に変わった。

 俺はその草原の上で浮いている。


「皆の者!ここからは敵の住処がある!気を引き締めろ!!」


 草原にはたくさんの人がいる。

 その最前線にいる1人が叫んでいた。


「あの人はリビアル」

「メンディちゃん!?」


 うしろを振り向くとメンディちゃんがいた。


「ここは君の記憶から呼び出したのを見せている」

「記憶?俺はこんなの見たことないよ」

「君のではない。言い伝えだと勇者はリビアルの記憶を引き継ぐみたい」


 ということは本当に俺が勇者?

 でもなんでこんな記憶を。


「とりあえず見てみよ。私も見てみたい」

「そうだね」


 とりあえず、この勇者の記憶とやらを見てみるか。


「戦況は?」

「先に言った部隊からの報告によるとやはり厳しい状況かと」

「んー……」


 リビアルは向かう先を見ながら渋い顔をした。


「向こうも進んできているかと」

「そうだろうね。だがこれ以上やつらに進まれたら困る」

「ええ。これ以上攻められると我々の拠点が潰されてしまいます」


 遠くを見ても何も見えない。

 何か魔法で隠したりしているのだろう。


「ここで待つと、もし後ろに行かれた時に危ない」

「では計画通りに?」

「ああ。俺が前で戦うから雑魚は頼んだ」

「わかりました」


 リビアルとほかの人達は前へと進んでいった。

 俺たちも後を追うようについていった。


 歩くこと数分、進む方向が騒がしくなってきた。


「奴らがやってきました」

「ああ、みんな準備をしろ」


「ねえ、あれって」

「悪魔。昔はこんなにたくさんいたんだ」


 数はおよそ100体以上。

 こんなのが一気に襲い掛かったら絶望的だ。


「余ったやつは頼んだぞ」

「「「「「はっ!」」」」」


 俺とメンディちゃんは驚嘆した。

 あんなにたくさんいた悪魔がリビアルの手によって倒れていく。

 しかも剣たった一本で。


「おっ、リーダーの登場か」

「貴様、人間ごときが悪魔に逆らうのか!!」

「悪魔だってドラゴンに戦おうとしているじゃん。それと同じ」

「そんなこと知るかあぁ!!」


 リーダーと思われる悪魔は岩を覆っているような見た目になった。


「これなら剣は使えまい」

「それはどうかな?守護神ブレイブ


 リビアルは魔法を使ったようだけど、何が変わったのか全然分からない。


「今の魔法はリビアルがつくった魔法」

「どんな魔法なの?」

「勇者だけが使える魔法。それと守りたいものがあるときに使える」

「効果は?」

「自分の全能力向上、武器にまでその影響を受ける」


 それなんていうチート?

 発動条件は厳しいものだけど、それ相応以上の強さ。


「おらぁ!!」

「なっ!剣でこの身にキズを」

「じゃあな、俺と会ったのが運の尽きだ」


 あっけなくリーダー格の悪魔を倒した。

 すげぇ……。


「勇者ならあの魔法を使えるようになる」

「それって……」

「うん。ジルも使えるようになる」


 この能力を?俺が?

 こんなの使えたら修行とはいったい……。


 リーダー格の悪魔が死んだことにより、他の悪魔は引いていった。


「ふう、とりあえず拠点と厄介そうなやつを倒せたな」

「こちら負傷者ゼロでございます!」

「そりゃそうだろ、俺が倒したんだからな」


 周りは笑い始めた。

 リビアルも笑い始めた。


「「……えっ?」」


 リビアルはこちらを見るとニヤリと笑い、俺たちは記憶から戻ってきた。


「今のは一体」

「分からない。でもこれで信じてくれた?」

「……うん。全然実感はわかないけど」


 いまだに疑っているぐらいだ。


「と言ってもすぐに勇者になるのは無理」

「じゃあどうすればいいの?」

「がんばって目覚めさせるしかない」


 結局また修行?

 でも師匠となる人がいないけど。


「目覚めさせるためにはこの目が必要になる」

「なんで?」

「成長したかどうかまでわかる。だからこの目を持ったものは全員勇者と一緒にいた」

「へぇー……ん?」

「だから私はジルと一緒にいることにする」

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