第33話 魔法はどこへ...

「おはようでありんす」

「おはよー」

「朝から仲がいいねー」

「特訓してたでありんすからね」


 だからラウくんがボロボロなのか。

 朝から大変そうだなあ。


「そんなにハードにしなくても…」

「そんなんではいつまでたっても弱いままでありんすから!」

「あー、そうですか…」


 午後大丈夫なのか?

 あのラウくんが目が据わって見えるけど。


「ラウくん…無理はしないようにね」

「うん…ありがとう…」


 これはもうそっとしといたほうが一番見たい。

 席に着くと寝る体制に入ってた。


「それよりそのちっこいのは犬でありんすか?」

「そうよ!」


 リーシュちゃんが抱えていたペイルをフウちゃんに渡した。

 物じゃないんだからさ…。


「へぇ、始めてみた種類でありんす」

「どういう種類がいたの?」

「何か描くものをほしいでありんす」


 急にそんなこと言われてもなぁ。

 荷物になるから持ってきてはいない。


「はい!」

「おいおい!」

「どうしたのー?」

「いつの間に持ってきたんだ!?」


 それは昨日のじゃないか!

 正確に言えば今日かもしれないけど…。

 そんなことじゃなくてなんで持ってきたんだよ!

 どおりで荷物が多いなぁと思ったわ。


「こんな感じでありんす!」

「全然違うー!!」

「これって…」

「そうよね…」


 柴犬だ。

 懐かしいなぁ。

 それにしてもまんまだな。

 しかも絵が上手いし。


「よくこんなに上手く描けてるね…」

「ふっふっふっ。わっちみたいなものにはこういう趣味がお似合いでありんすからね!」

「ジルと同じだー!」

「なっ!?」


 残念!かぶっております!

 おそらくだけど俺のほうが長いし。

 でもこれぐらい上手いって相当がんばっているな…。


「ちょっと見せるでありんす!…うぐっ!!」

「どれどれ…おおぉ!!」

「これ本当にジルが描いたの…?」

「そうだよ。変だった?」

「上手すぎるのよ…」


 それはうれしいな。

 褒められるとついついにやけちゃう。


「ほかにもあるね。どれどれ?」

「これもあるよー!」

「これは…うん、シロのだね?」

「うん!」


 急に雰囲気が変わってすこし顔が引きつってる。

 俺もわからない部分があるし。


「それにしても本当に上手いわね」

「ありがとう」

「ねぇねぇ!私たちも描いてもらおうよ!」

「いいわね!」


 唐突だな。

 先生もまだ来ないしまあいっか。


「いいよ。じゃあそこに座って」

「「はーい!」」

「シロもー!ペイルもおいでー!」

「キャウッ!」


*


「みんなーおはよー!おくれてごめんねー!ってあれ?」

「何をしているのかしら?」

「ジルに絵を描いてもらってるのー!」

「あっ!シロ!勝手に動かないで!」


 動いちゃうとどうなってたのかわからなくなるじゃないか!

 そこまで記憶力がいいわけじゃないんだから。


「あら?本当に上手だわ。私たちもいいかしら?」

「じゅ、授業…」


 先生たちもかい!

 自由だなここは。


「んー、あれ?もう始まってた?」

「おはよう。先生たちは今来たよ」

「おはよーラウくん!疲れているの?」

「ちょっと朝激しい運動をしてたので…」

「へ、へぇ!大変だったわね!」


 言い方よ!

 誤解を招く言い方をしてたけどさすがにないだろうと思って聞き流したな。

 あったらあったで問題かもしれないけど。


「そういえばガウくんは?いないようだけど」

「あっ!起こすの忘れてた!」

「じゃあ呼んできてもらえる?」

「はーい!」


 先生は行かないのかな?

 てっきり先生が行くかと思ったんだけど。


「じゃあジルくん、お願いね」

「あ、はい。そういうことですか」


 描いてもらいたくて頼んだのか。

 そんなに興味津々だったのか。

 まあいいけど。


*


「戻りましたー!」

「寝坊した!って何してるの?」

「絵を描いてる」

「今日の授業ってそれなの?」

「いいわね!それ!」

「そうね。そうしましょうか」


 あれ?魔法は?

 てっきり魔法をやるつもりだったんだけど。


「そんなに自由でいいんですか?」

「大丈夫!きみたちは特に優秀だからね!」

「むしろ余ってるぐらい。このままだと半分ぐらい暇になっちゃいそうだからね」


 まあ面子があれだからね。

 むしろ3年分ぐらい行けちゃうんじゃね?

 …いや、クロは迷子になったしな。

 無理かもしれないや。


「せっかくだし外に行こうか!」

「「「「「さんせー!!」」」」」

「そういえばシャルちゃんとネルちゃんは?」

「「ここにいるよー!」」


 いつの間に!

 なんというステルス力。

 存在が薄いのかと思うぐらいだ。


「ずっとこれをみていたの!」

「いい作品だったよ!」

「あっ!」


 しまった!

 それまで持ってきたのか。


「大丈夫大丈夫!」

「中身は私たちしか見てないから!」

「絶対に言わないでよ…!」


 自分でもわかるぐらい顔が真っ赤になってる。

 親にあの本を読まれた感じみたい。

 ちなみに内容は違うけど。


「ジルー大丈夫?」

「酔っぱらってるの?」

「違う違う。大丈夫だから」


 心配してくれるのはうれしいけど今は見ないでほしいです。

 本当に勘弁してください。


「そろそろ行こうと思うけど、大丈夫?」

「大丈夫!早く行きましょう!」

「ええ。でも荷物はまとめてからにしましょうね」

「じゃあ30分後にもう一度ここに集合ね」

「また戻るのか…」


 よし!この間に閉まってこないと!

 何か施錠する魔法を覚えたいところだけど。

 それはそれで解除するとき忘れちゃいそうだし。

 指紋とかで出来たりしないかな?

 これは聞くより自分で研究しないと。

 何に使うのか聞かれそうだし。


*


「それじゃあ行きましょうか!」

「「「「「はーい!!」」」」」

「荷物はこれでいいんだよね?」

「はい。というより時間もないんでこれぐらいがちょうどいいかと」

「そうね!時間がないから近くの野原にしましょうか!」


 というわけで午前中はお絵かきの時間。

 そこまで長くはいないから軽くデッサンまで。

 時間内に終わるのかな?


「おわったー!」

「「「「「はやっ!?」」」」」

「みてみてー!」

「…シロちゃん。ジルくんと一緒にがんばって描きましょう」


 うーん、よくわからない曲線ばっかり!

 せめて空とか太陽とかさ。


「シロ、教えるからがんばってもう1回描こうか」

「わかった!」


 大丈夫かなー?

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