第19話 誰かが戦うよ

「なぜ俺!?」


 指をさされたのはなんと俺!

 外れくじを引いたわ。


「ふっふっ、隠しているようじゃが甘いでありんす!」

「甘い!?」

「そちが一番強かろう!」


 残念!

 俺以上に強い人(?)が2人います!

 甘いのはどっちだったのだろう…。


「ジルくん、ここは受けてくれないかな?」

「えぇ…」

「この子はすごくプライドが高いんだ。自分より弱いものと一緒に戦うのを嫌う。足を引っ張らないかを気にしているのよ」

「こらっ!頭をなでるでない!」


 そのプライドが高い子をウリウリしている先生も先生だよ。

 あまり反抗しないのは最初の時に負けたからなのかな?

 めんどくさい子だなぁ…。


「じゃあ外に行きましょうか!」

「ちょっ!まだ何も――」

「がんばれジルー!」

「負けるなよジル!」

「がんばってねー!」


 ……。

 もう逃げられない!


*


「ルールはどっちかが倒れるか降参するか。危険が及ぶ場合は私が全力で止めるからね」

「ジルくん!やっちゃっていいよ!」


 いやいやいや。

 確かに神様とドラゴンの加護をもらっているけどさ。

 危険どころじゃなくなるかもしれない…。


「では、はじめ!」

「先手必勝!いくでありんすよ!」

「うげっ!?」


 何か今通ったぞ!

 しかも熱かった。


「くっ!やっぱり詠唱なしだと操りにくいでありんす!」

「急にやるなよ!死んじまうぞ!」

「大丈夫でありんすよ。火力は抑えている…と思う」

「と思うじゃだめじゃないか!」

「うるさいでありんす!」


「命の灯よ!今わっちの声に応えよ!鬼火!」


 鬼火というか人魂みたい。

 青い炎できれいだなあ。

 こっちに向かってきたけど。


「あぶなっ!」

「ちっ、すばしっこいでありんすね…もう一発!鬼火!」


「新たなる空へ羽ばたけ!飛行ノングラヴィティ!」

「なっ!」


 ラグドラーグさんから教えてもらった魔法だ。

 空まで逃げれば大丈夫でしょ。


「少し寝ててもらうよ!麻痺パラライシス!」

「キャーー!!」


 あれ?今回はしっかり使えたな。

 なんでだろう?


「すごいわジルくん!さっきまで出来てなかったけど、手を抜いていたのかしら?」

「いえ、そういうわけじゃないんだけど…」


 たぶん本調子に戻ったんだと思う。


*


「それよりその羽は何かしら?ドラゴンの羽にそっくりだけど」

「これ?これはラグドラーグさんから教えてもらった魔法だよ」

「ラグドラーグ…ラグドラーグ…どこかで聞いたことあるわね」


 ドラゴンだから有名なのかな。

 すげえ長生きしていたし。


「もしかして五老竜じゃないかな?」

「そうよ!五老竜よ!」


 シルヴィ先生が一人で盛り上がっている。

 こういう表情をしたりもするんだね。


「五老竜って?おじいちゃんドラゴン?」

「まあ、たしかにそういう感じよ。ただドラゴンの中でも長く生きているってことは実力はそれ相応にあるわよ。なにせ敵が多いからね」


 敵が多い、か。

 話している間は全然危険な雰囲気はなかったのに。

 やっぱ見た目が怖いからかな?


「ジル―」

「どうした?」

「シロ以外のドラゴンってどういう感じだったー?」


 シロもドラゴン。

 それだけど他のドラゴンを見たことが無い。

 気になるものなのか。


「シロより大きかったよ!」

「会ってみたかったなぁ…」


 ごめんね、シロ。

 俺もシロと合わせたかったよ。


「シルヴィ、試合の方忘れていない?」

「あっ!忘れていたわ…」


 おいおい…。


「勝者!ジークシル!」

「よっしゃ!」


 勝ちは勝ち!

 相手からケンカをふっかけられてからの勝利!

 けっこううれしい。


*


「くやしいでありんす…」

「フウちゃん、これ…」

「…ありがとう」


 ラウくんはやっぱやさしいなあ。

 どんなときも優しい。


「あの子…ふふっ。これから楽しみね」

「どうしたの?」

「なんでもないわ」


 リーシュちゃんが自分で納得している。

 なんだろう?気になる。


「聞いても教えないわよ。ジルくんに話しても意味がないからね」

「意味がない…?」


 どういうことなんだろう?

 ますますわからなくなってきた。


「あなたを認めるでありんす…」

「どうも。これからもよろしくね!フウちゃん!」

「次は負けないでありんすよ!」


「じゃあ今日は仲直り?記念に早めに食堂に行こうかしら!」

「「「「「やったー!!」」」」」


 魔法を使うとけっこうお腹がすくもんだ。

 使ったらその分カロリーが減るような感覚。

 多用しまくったら痩せそうだけど。


「フウちゃん、行こ?」

「わかったでありんす」


 俺たちの後ろでラウくんとフウちゃんが話してる。

 ラウくんの顔が少し赤い。


 ほっほー。なるほどなるほど。

 リーシュちゃんが言っていたことはこういうことか。

 でもなんで俺には意味がないんだろう?

 手を出さなくてもいいってことかな?


*


「「「「「いただきまーす!!!」」」」」


 いつもの食堂。

 違う点としては人数が倍いる。

 賑やかなところで食べるごはんも好きだからうれしい。


「ところでフウちゃんって魔法を使い慣れているけど、練習していたの?」

「そうでありんすよ。家の事情?で今よりもっと小さいころから練習をしていたでありんす。そちらとは違い、努力をしているんでありんすよ!」


 わざわざ最後に挑発みたいなことを言わなくても…。

 黙っていればめちゃくちゃかわいい子なのに。

 残念女子か…。


「詠唱なしでも使えることはすごいわ」

「僕たちの班が2位なのもフウちゃんのおかげかもね」

「「ねー!」」


 シャルちゃんとネルちゃんのシンクロ率がすごい。

 左右反転してシンメトリー。


「ちょっとシロ、ここに座って」

「座ったよー?」

「3人ともこれ食べてみて」

「「「?」」」


「「「いただきまーす!!……おいしぃ~!!!」」」


 …笑っちゃダメだ。

 シロが3人いるように見えて仕方がない。

 動きやら発言やら同じで面白い。


「「「???」」」

「…いいっからっ。シロ戻って、来ていいっよ?」

「変なジル―」

「「ねー」」

「ぶふっ!」


 もうだめだった。

 耐えられねぇよ。

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