第15話 ドラゴンってかっこいいよね!

「そう怯えるでない。」

「ジルくん!何しているの!早く逃げるのよ!」

「リーシュちゃんちょっと待って!」


 どういう理由ワケかは説明できない。

 なぜか逃げなくても大丈夫。

 そう思わせる雰囲気を出している。


「そっちの慌てている方。別に食ったりはせぬ。ただ話をしたいだけだ」

「…ほんとうよね?」

「儂は嘘はつかぬ。」

「なら、あっちの方にいる子たちにも手を出さないでくれる?」

「約束しよう。」


 ほらやっぱり。

 でもなんでわかったんだろう?

 リーシュちゃんでも危ないと思ってたし。

 女の勘ならぬ男の勘か?

 対象はドラゴンだけど。


汝等うぬらに聞きたいことは、なぜここにおる?」

「俺たち人間がいたらおかしいの?」

「いや、質問が悪かったな。人間なら時折ここまでくる。聞きたいのはなぜ子供たちだけでこんな森の中におる。親はいないのか?」

「いや、ここにいる理由だけど――」


 とりあえず理由を話した。

 ただここでスライムを倒していたからなあ。

 食料を減らして怒ったりはしないよね?


「なるほど。スライムで訓練を、か。人間も大変なようだな」


 まさかの同情。

 歩いてここまで来たんだから、まあ大変だったわけだけど。


「じゃあこっちからも質問していい?」

「よかろう。なんでも聞くがよい」

「なんでこんなところにいるの?」


 安直にこんな質問。

 そりゃあ気になるでしょ?


「ただ休んでいただけだ。静かゆえ、寝ていたところに声がしてな。」

「それは、ごめんなさい。うるさかったかな?」

「くっくっくっ。ほんとうにうぬは面白い。人間はドラゴンを見た途端逃げる。それに対し汝は逃げもしないうえ、素直に謝った。本当に面白い子だ」


 そこまで笑っちゃう?

 褒められているのか褒められていないのか。

 なんか体がむず痒い。


「ドラゴンに慣れている、あったことがあるのか?いや、もしくはドラゴンを倒せるほどの実力があるという線も無くはないか」

「なにボソボソ言っているの?」

「いや、ただの独り言だ。汝等はドラゴンをどう思う?」

「危ない…」

「かっこいい!」

「ふむ、こっちが普通でこっちが異人と」


 …偉人ではなさそう。

 異のほうみたいだった。


「儂は人の世代が変わるときを幾度も見てきた。そして会ってきた。汝みたいなことをいう人間は初めてだ…。」


 どこか少しうれしそうな表情に見えた。


「まあよい。魔法は使えるのか?」

「少しなら」

「そっちの怯えている少女は?」

「怯えていないわよ!使えるわ!」


 強気で言っているけど現在俺の後ろに身を潜めている。

 もう、そんなに怖がらなくてもいいのに。


「汝を失うのはもったいない。どれ、一つ魔法を教えよう」

「いいの!?」

「もちろん。そっちの怯えた少女も覚えるがいい」

「怯えた少女じゃない!リーシュよ!」


 そういえば名前を聞いていなかったな。


「そういえば名前はなんていうの?」

「む?儂は青碧の竜、ラグドラーグだ。汝は?」

「俺はジークシル・アウラティア!ジルでいいよ!」

「ジル、か。忘れはしないだろう」


「教える魔法は浮遊魔法、飛行ノングラヴィティだ」

「それって羽がないとできない魔法じゃない」

「よく知っているな。これは儂等ドラゴンを真似して作られた魔法だ」

「真似して作った魔法なのにしっているの?」

「長く生きているからな。ある程度知っているわい」


 自分に必要ない魔法でも覚えているのか。

 もしかして暇だったの?


「問題は汝等には羽がないことだ」

「意味ないじゃん…」

「心配するな。解決方法はある。二人とも、もう少し近づいてくれ」


 言われた通りラグドラーグさんの近くに寄った。

 何をするのかわからないけど何かワクワクする。


「汝等にこれを与えよう。青碧ノ加護ラグドラーグ


 何をしたんだろう?

 魔力が増えた感覚がある。

 それに加護ってなんだろう?


「それは儂の加護だ。儂の魔力を少し渡したからな」

「渡すとどうなるの?」

「やってみるのが早い。儂の羽を自分の背中に生えることを想像してみろ」


 もしやもしや?

 その言い方だと期待しちゃったいいんですかい?


「すげぇ!羽が生えた!」

「私も生えたは!」

「正確に言うと生えたのではなく魔法でつくった。だから人の前にいるときとかにすぐ消せる」


 ほんとだ!

 消えろ!って思ったらすぐ消えた。


「俺もとうとうドラゴンに…」

「ドラゴンにはなれぬぞ。それは儂の加護があるうちだ」

「なくなるときとかあるの?」

「儂から加護を消すか、もしくは死ぬかだな」


 これは…聞かないほうがよかった。

 少し空気が重く感じる。


「何、気にすることはない。次に魔法だが儂が言うのに続いて言うのだ」

「「はい!」」


「新たなる空へ羽ばたけ、飛行ノングラヴィティ

「「新たなる空へ羽ばたけ!飛行ノングラヴィティ!!」」

「うわっ!ちょちょっ!」

「きゃー!」


 飛ぶのって結構難しい。

 少しでも横に傾くと倒れちゃう。


「いてて…」

「全然うまく動かないわ…」

「あとは練習あるのみ。儂から教えられるのはここまでだ」


 後は頑張るしかないか。

 まさかの羽を手に入れたんだ。

 喜んで練習するぜ!


「っと、時間を取りすぎてしまったな」

「そういえば…」

「そうだったわ…」

「だいぶ警戒心を解いてくれてうれしいがそろそろ行った方がいいだろう」


 お別れは悲しいこと。

 たとえ1時間もない時間の中であった人、ドラゴンでもだ。


「何かあったらこれに魔力を込めてくれ」


 きれいな石が付いたペンダントをもらった。

 めちゃくちゃ高そう…。


「ではまたな。また会う日まで…」


 風が吹くと目の前にいたラグドラーグさんが消えた。

 神隠しか!?

 俺の隣に神様がいるけど。


「まさかだけど『神隠しだー!』なんて思っていないよね?」

「…思っていないよ?」

「……」


 ……。

 俺が悪かったです。


「いたー!」

「シロ!?」


 シロが吹っ飛んできた。

 ぶつかる直前に気づいてよかった。

 気づけなかったら今頃俺のみぞおちは悲しいことになってたよ。


「大丈夫だった?ジルくん、リーシュちゃん」

「大丈夫だったよ」

「ええ。けがもないわ」


 心配かけちゃったな。

 一声かける前に見つかっちゃったからね。

 悪いことをした。


「まさかシロじゃなくてジルが迷子になるとはな」

「そうね。まだシロのほうが賢いかも!」

「えっへん!」


 くっそー!

 今回に関しては言い返せねえ。


*


「それで見つかったかしら?」

「まだ見つかってないです」

「そっか。この辺にもいないのかー」


 おそらくだけどラグドラーグさんがいたせいじゃないかな?

 人間にでさえ軽く倒されちゃうんだから隠れるでしょ。


「続きは午後からにしましょうか!さっきの草原に戻ってお昼を食べましょう!」

「「「「「やったー!」」」」」


 結構腹が減っている。

 長く歩いているうえに緊張したことがあったんだ。


「じゃあ戻りましょうか!」

「「「「「はーい!」」」」」


「ジルー。それなーに?」

「これ?これは貰ったものだよ」

「……」

「私じゃないわよ?」


 なんでリーシュちゃんの方を見るんだよ。


「じゃあ誰に?」

「ひみつ。珍しい出会いだったよ」

「ふーん、そう」


 楽しくなさそうに返事をするなあ。

 聞いてきたのに。


「ジルのばーか!いこ、クロ!」

「ちょっ!シロったら!」

「あーあ。ジルがいけねーんだぞ?」

「なんでだよ!?」

「リーシュちゃん、こんなのほっといていこうぜ」

「ふふっ、そうね。じゃあねジルくん」

「お、おい!みんなったら!」


 ひでぇ!

 普通においてこうとしているぞ、こいつら!

 子供の皮をかぶった鬼だろ!



◆~ ラグドラーグ ~◆


 いやはや楽しかった。

 ドラゴンを怖がらない人間がいるとはなあ。

 時代も変わっていくのかもしれぬ。


 そろそろここを離れなければな。

 ここの生態系を乱してはいけぬ。

 次はどこへ行こうかのう。


 わざわざ儂が出向かなくてもよかったみたいだな。

 安心してよいぞ、アロイトよ。

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