ある日の小田桐
政行視点です。
『Night Stalker』『Iron Man』のその後のお話です。
*******
「拉致監禁と婦女暴行の現行犯で逮捕します」
脇腹の痛みに耐えながら、やっと手に入れた彼女が穂積専務に連れ去られて行くのを呆然と見ていると、二人の男が自分たちは刑事だと身分証を示し、俺に手錠をかけた。
どうして?
なぜ自分が手錠をかけられる?
思い続けた彼女に持ち歩いていた液体を嗅がせて眠らせ、彼女を連れて自分の部屋に招待し、彼女が俺から逃げないように手を縛っただけなのに。
「世間では、それを『拉致監禁』と言い、逃げないように縛って女性に無理強いすることも『婦女暴行』と言うんだよ!」
ましてや彼女は人妻なんだからな、と俺を蔑むように見た刑事の言葉に呆然とする。 暴力を振るうのが暴行じゃないのか。漠然とそう思っていたのに、あれすらも暴行に入るというのだ。
ただ、彼女がほしかった。俺が彼女を愛したように、彼女に愛されたかった。あの時、彼女と気持ちが繋がった気がしていたのに、なぜ、今彼女の隣にいるのは俺じゃないんだろう……?
***
彼女と初めてあったのは、中学一年の時だった。母の病気療養のためにあの町へ引っ越し、新学期と同時に転校して来て、半年くらいたったころだったと思う。
彼女とはクラスが違っていたために、それまで彼女とは一度も会うことはなかった。なぜなら一学年七クラスもあり、尚且つ彼女と俺は両端のクラスだったからだ。
読書感想文を書くために学校の図書室へと行き、目当ての本を探すとすぐに見つかった。だが、詰め込み過ぎていたからなのか本がなかなか抜けず、力任せに目当ての本を引っ張ったら周りの本まで一緒に抜けてしまい、バサバサと音を立てながら一緒に飛び出してしまったのだ。何人か人がいたが迷惑そうに俺を見るだけで、結局は見てみぬふりをされてしまった。
溜息をついて本を拾い始めると、抑揚のない声で
「はい」
と言葉が降って来て、本が目の前に差し出された。その声に上を向くと、座っている俺とあまり変わらない身長の彼女がいた。少し遠くに飛んでしまった本を数冊持って手渡してくれたのが彼女だった。
小学生かと思ったくらい、びっくりするくらい小さい身長と無表情に呆然としながらも本を受け取ると、彼女は待っていた女生徒のほうへ歩いて行き、何か言われたのか、俺に見せた無表情ではなく、笑顔を見せていた。
そのギャップに呆然と見惚れ、しばらく彼女を見ていたのを覚えている。
あの時は結局、彼女と話すことすらできなかった。そして学のせいで事故にあい、彼女はどこかへ消えてしまった。
ずっと好きだった。恋焦がれた。だから、彼女が見つかった時のために、彼女を自分の手でよがらせ、喜ばせるために、何人もの女を抱いた。好きでもない女を。その日が来るのを願いながら。
だが、結局彼女は見つからず、諦めかけた時に父の会社に入って彼女を見つけた時は本当に嬉しかった。相変わらず身長は小さくて無表情だったが、俺が育てようと思っていた胸が大きくなっているのには驚いた。
歩くたびに微かに揺れる、柔らかそうな胸。あの胸に手や唇、舌を這わせ、喘がせ、啼かせ、揺さぶりたい。
……そう思って、頑張って口説いた。口説いているつもりだった。
「……精神鑑定を頼む」
「わかりました」
遠くで男の声がするが、既に俺の耳には入ってはこなかった。
***
「政行……なんで……なんで圭にあんなことしたの? 無理強いなんて……!」
「ああ、圭、俺に会いに来たんだね……嬉しいよ」
「……政行……?」
いとおしげに微笑みながら僕を見る政行の目は、僕どころか、僕以外の部屋の様子や側にいる人物すら映していなかった。
「ねえ、政行…そんなになるほど圭が好きだったの? 壊れてしまうほど……」
側にいた病院の職員を仰ぎ見るが、その職員は小さく首を横に振るだけだった。
一緒に仕事をしている時は、そんなふうに見えなかった。ごく普通に話したり、時には笑ったりしていた。仕事もきちんとこなし、部下にも仕事を教えていたのに。
「……ねえ、政行……君は今、幸せかい……?」
そう呟いた僕の声は、もう政行には届かない。別の職員に連れて行かれながら、クスクス笑う政行は幸せそうで……でも、それがどこか哀しかった。
――そして彼は夢の住人となり、夢の住人から戻ることなく、その生涯を終えたという。
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※短いので、二話同時更新です。
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