Love Love Shake
圭を愛撫した翌日。
漂って来たコーヒーの香りで目を覚ますと、圭は隣にいなかった。ベッドを抜け出してそっとキッチンを覗くと、朝食の用意をしていた。
「おはよう」と声をかけると相好を崩し、返事を返してくれる。俺だけに向けられた、初の無表情ではない笑顔に嬉しくなる。
朝食後、昨日佐藤から聞いた話を姉と前嶋に報告し、ついでに圭の家族にも会い、「本人よりも先に結婚の承諾を得た」と言うと、『いくらなんでも早すぎる気もするけど』『確実に外堀埋めてるな』と二人に苦笑されてしまった。
生憎の雨だったので、先日買った洗濯乾燥機能付の空気清浄機をフル回転して午前中は洗濯したり、録り溜めておいたDVDを圭と一緒に見たりお昼ご飯を作ったりした。午後はデパートやスーパーを一緒に回って、カクテルの材料を聞いたり聞かれたりしながら買い込んでいった。
店でも簡単に作れるカクテルの講習会を開いてと頼むと、快く頷いてくれた。
そのまま外で、夕食と呼ぶには早い時間に食事を取り、レンタル屋に寄って帰った。そして帰宅後。
それぞれ風呂に入ってソファーに並んで座り、借りてきたDVDを見ながら、圭は小野からもらったゼリーを美味しそうに食べていた。そんな圭を横目で見ながら可愛いと思う俺は馬鹿だと思う。
ちょうど終わったDVDをしまいつつ、そろそろいい時間なのでいろいろな意味を込めて「味見したい」と圭にキスをし、最後の一口だったゼリーの味見をしながらそっと抱き上げ、また圭に愛撫を施した週明け。
作業をしながら、ぼんやりと考え込んでは我に返ってまた作業に戻る。そんなことを繰り返す圭はある意味見物で、笑いを堪えるのが大変だった。
それでもきちんと作業をこなしていたのはさすがとしか言いようがない。
そして週末は俺の道楽のオカマバーに行き、例の講習会を開いてもらった。店に行くと、店の前でアキが待っていた。
「アキちゃんさん、こんにちは」
「あら~、いらっしゃい! この間はありがとね~♪」
圭の言葉にそう返したアキは、俺の顔を見てニヤリと笑い、こともあろうに圭に抱き付いただけではなく、頬にキスまでしやがった。
なんとか怒りを押さえるが、言葉がきつくなるのは仕方がない。
「ちょっと、アキちゃん! お圭ちゃんはアタシのよ! 気安く触んないでちょうだい!」
「『アタシの』、って……。男を好いてナンボのオカマにあるまじきセリフね、泪ちゃん」
「はあ? 何言ってんのよ、アキちゃん! アンタと一緒にしないでちょうだい! アタシは至ってノーマルなの!」
「あー、はいはい。泪ちゃんはどうでもいいわ。今は恩人優先! それに、ハグくらいいいじゃないの! ねー?」
「『ねー』、と言われてましても……」
俺を軽くあしらったことにも腹がたつが、真性のオカマのアキと同類にされたのにはもっと腹が立った。
未だに離さないアキを訝しげに見上げる圭は、苦しいのか
いい加減、我慢の限界だと動くことにする。
「アキちゃんさん、そろそろ苦しいんで離して……」
いいタイミングで圭がその言葉を発したのを、これ幸いとばかりに後ろから手を伸ばして奪うように引き寄せ、腕に絡めとるようにそのままぐっと抱き寄せる。見上げた圭の目は不安げに揺れていたが、俺とわかるとほっとした顔になり、そのまま力を抜いて寄りかかってくれた。
信用されているのがわかった瞬間だった。それが嬉しかった。
「あら、残念。柔らかくて気持ちよかったのに……」
その言葉に怒鳴るとアキは「冗談よ!」と笑ってシナを作り、「さあ入って。皆揃ってるから」と店の中へ入っていった。
店内にはジャズが流れており、ほとんどの従業員がいることに驚いた。やはり先日のあのカクテルを作っていたのを見ていたのか、そのことを話していた。
アキが「何か作って」と言うのが聞こえ、従業員が圭に注目する。「『Admiral』にしましょうか」と言うと道具と材料を用意し、アキにカクテルの説明をしながらもシェイカーを振る圭に、皆が感嘆していた。
音も立てずにアキの前にスッとグラスを滑らせる姿は、まるでカクテルバーにいる気分にさせる。
「鮮やか……」
「お褒めに与り、光栄でございます」
鮮やかな手つきでカクテルを作り、おどけた口調で時代がかった言い回しをした圭に、正直ここまで鮮やかとは思っていなかった俺はぽかん、としてしまった。
「これほどとは思ってなかったわ……家に道具あったわよね? 今度家で作ってね」
「いいですよ。リクエストしてください」
本当は今すぐ作ってもらいたいカクテルがあるが、ここではまずいと思い
「……その言葉、忘れないでね?」
と絞り出すように言葉を紡ぐと、きょとんとしつつも「わかりました」と言ってくれた。
その後はお店の従業員に道具の振り方や何かを教えているのを聞いて、リクエストしたカクテルを圭が作ってくれなかった場合に備え、こっそり練習しておく。最後は店にあるお酒で作れて、尚且つシェイカーが無くても簡単に作れる『おうちレシピ』があるからと、それをたくさん教えていた。
その日はそのままとんぼ返りで自宅に帰り、着いたころには既に深夜近かった。
近隣に迷惑はかからないものの、「別々に入ろう」と言う圭に「遅い時間だから一緒に入ったほうが経済的」とごり押しし、一緒にお風呂に入って眠った。
そして、翌朝は起き抜けにゆっくりと緩やかに、教え込むように愛撫を施すと同時に、俺も圭の胸の柔らかさを楽しんだ。
週明けは圭と一緒に穂積本社での仕事をこなしたり、一緒に出張に行ったりした。事務所の棚整理も思いの外早く終わり、俺の事務所の棚整理を頼んだり。
「汚すぎ! どうやったらこんなにもぐちゃぐちゃになるんですか?!」
腰に手を当ててそう怒られたりもした。
週末にはいつもの激しい愛撫を施して俺は満足しつつ一緒に商店街へ買い物に行ったり、圭がお風呂に入っている間にシェイカーの振り方を練習したりを繰り返していた。
事務所の皆にも慣れつつあった圭の無表情がほぐれ始め、なんだかんだとあと二週間でクリスマスというある日。
(クリスマス、か……。そろそろアタシも限界なのよね……)
愛撫を施しているとはいえ、我慢の限界も近い。そろそろあのカクテルをリクエストしようか……そう考えている時だった。
「泪! 会いたかった……!」
いきなり抱き付いて来た女に困惑すると同時に、嫌悪感が広がる。顔を見ると、二度と会わずに済むと思っていた、腐れ縁の女がそこにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます