2001年8月17日(金)
父からあの男の名前を聞いた。
ここで私は気が付いた。岡部。オカベ。
21年前の殺人事件の被害者の名前は、岡部愛子。やっぱり、オカベ……。
これはただの偶然かしら? それとも……。
「そういえば、その岡部義太郎のことだがな」
と、父は言った。
「警察の方から聞いたんだが、岡部はどうも若いころ、なにか強烈なショックを受けて引きこもるようになり、その後、海外へ逃げるように引っ越していき、そちらでしばらく生活していた時期があるそうだ。1982年から88年までの間、一度も日本に戻らず、ずっと外国で暮らしていたそうだから、相当長いな。なんのショックを受けたのか知らんが、それがみなもを襲ったことに繋がるのかもしれんな」
「ショック……。若いころに受けたショック、ね……」
私はそのことで、岡部義太郎に同情する気にはなれなかった。
実際に襲われた私は、ただ純粋に彼のことが怖かったのだ。
「ああ、そうだ。それとな――」
父は、さらに話を続ける。
「自殺する直前、岡部は――『あいつになにもかもやられた』『あいつが怖かった』『あいつさえボクの前に現れなければ』と、そんなことを口走ったそうだぞ」
「……『あいつ』?」
私は片眉を上げた。
「そうだ。みなも、お前、なにか心当たりはないか?」
「あるわけないでしょ。私は通りがかったときに襲われただけなんだから」
「そうだよな。いや、すまん。忘れてくれ。……忘れるのが一番だ、こんな事件はな」
父はそう言った。
話はそこで終わりだ。
しかし私は気になっていた。
あいつにやられた?
あいつが怖かった?
あいつさえ現れなければ?
あいつ、とは誰だろう。
工藤桃花の言っていた『あのひと』と関係はあるのだろうか。
そもそも岡部義太郎は、岡部愛子と関係があるの?
これは明日、もう一度M高校の図書室に行って、岡部愛子について調べてみるべきね。
こうなると、天ヶ瀬くんも呼びたい。彼に頼りたい。けれど、彼の精神状態がとても心配。ここはやっぱり安愚楽くんだけ呼ぼう。
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