2001年7月26日(木)
午前11時、父が帰ってきたので玄関まで出迎える。
すると見計らったかのように、木戸女史が登場した。
ずっと我が家の入り口を見張っていたらしい。記者魂を見せつけられた。
そして私と父に、あれこれ尋ねてきたので、こうなったらもういっそ、知っていることは全部話そうと思った。
私は知っていることを全部、木戸女史に告げた。天ヶ瀬くん、長谷川くん、キキラ、私、安愚楽くんの5人が若菜を発見したこと。だけど犯人にはまったく心当たりがないこと。身分を隠して情報を聞き出したのは悪かった、ということ……。
父も、木戸女史に向けて答えた。
「袴田工務店は確かに7年前、工事を請け負った。M高校の近隣に住む住民の方々に工事日程の告知まで出したんだ。しかし例の殺人事件が起き、現場の職人たちが『これは祟りだ』と騒ぎ、仕事をするなら会社を辞めると騒いだため、工事は中止。袴田工務店は手を引いたのです」
「それだけですか。事件について、なにか他にご存知なことは――」
「ないない、なにもない。今回もたまたま、娘が被害者の友人であったに過ぎない。だいたい工務店が殺人事件に関わって、なんの得があるというんだね。神に誓って、袴田工務店は事件に無関係だ!」
父の剣幕に、木戸女史はさすがに気圧されたのか、黙りこんだ。
私は父と共に、家に入った。窓から外を見ると、木戸女史はいなくなっていた。
あきらめたのか。それとも、他の誰か――例えば天ヶ瀬くんとかキキラの家にでも行ったのかもしれない。
仲間のことを教えたのは、さすがに軽率だったと反省した。なにも起きなければいいけれど。
そして父に、過去の事件のことを尋ねる。
7年前に起きた事件について、我が家は本当に無関係なのか、と。
すると父は、呆れたような顔をして「お前まで、そういうことを言うのか」と言った。
「なぜうちが、女子高生を殺したりしなければならんのだ。あれは本当にただの偶然だ。連続殺人事件が起き、さらに埋め立て工事をしようとすると工事関係者が病死する、M高校の地下室。なるほど確かに不気味だが、なにもかも偶然だよ。呪いや祟りなどあるものか。
……しかしね、ただの偶然でも数回続けば、それに意味があるのだと思うようになってくる。それが人間だ。7年前だって、そうだ。殺人事件が起きたせいで、現場の職人たちはやはり呪いだ祟りだと騒いだせいで工事ができなくなってしまったが、そんなもの、おれに言わせればやっぱりただの偶然なんだ。
――みなも。少なくともふたつのことについては、本当に断言しておく。袴田工務店は事件に無関係だし、穴を埋めようとした業者が連続して病死するのも偶然なのだ。それだけは本当だ」
その目は嘘をついているようには見えなかった。
父の会社は、本当に無関係なのだろう。業者の連続した病死も、偶然に違いない。
偶然……。
なにもかも偶然……。
父の言葉が、何度もリフレインする。
――ただの偶然でも数回続けば、それに意味があるのだと思うようになってくる。それが人間だ。
そこでふと、思った。
21年前、7年ごとに起こる指風鈴殺人事件。
規則性があるかに思えるこのすべての事件は、しかし連続ではないのでは?
すべてが、すべてが、孤立した殺人事件なのではないか。……そうだとしたら……?
私の思考は、まだまとまらない。
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