第512話 flight distance…逃走距離

flight distance…逃走距離 御茶ノ水駅とか目白駅とかのホームで、まあ渋谷や池袋でもいいんだけど、女子高生同士が会話してるところに、秋葉原や御徒町や上野以外ではめったに見かけないファッションとルックスのおっさんが、スマホ見ながら近づく。と、ある距離以内になると、女子高生は会話やめて、ささっとおっさんの通り道になりそうなコースを空ける。この距離が逃走距離。ライオンが近くをうろちょろしていても平気なシマウマの群れが、ある距離以内になるとささっと逃げるのと同じです。今回は引用元を明記しておきます。垂水雄二『厄介な翻訳語』(八坂書房、2010年)。面倒くさい理系の翻訳語を紹介してる本なんで、翻訳・誤訳に興味がそんなにない人にもおすすめ。


元はスイスの動物学者であるH・ヘディガーの著作『文明に囚われた動物たち----動物園のエソロジー』(翻訳は1983年、思索社。 今泉吉晴・今泉みね子)の中で使われた語、とのこと。以下『厄介な翻訳語』P152-153より。


『ヘディガーは動物園の動物が攻撃的になったり、ストレス状態になったりするのは、この逃走距離がうまくとれないことが原因であることを見抜いた。けれども、動物園の檻を無限に広くすることはできないので、動物を馴れさせることによって、「逃走距離」を縮めることが重要だと説く。コッピンジャーという研究者は、オオカミが家畜化されてイエイヌになる過程で、この逃走距離の縮小が大きな役割を果たしたのではないかと推測している。人間の集落の近くで残飯漁りをしていたオオカミのうちで、短い「逃走距離」をもつ変異個体の数が自然(プラス人為)淘汰によってしだいに増えていき、やがて人間を怖れずに手づから餌を採るようになって、家畜化したという筋書きである。』

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