181:友達を手伝うのは、当然だよなって話


「揃ったな」


 俺は冒険者ギルド近くの酒場に来ている。

 湿地帯の魔物調査のメンバーと、ここで待ち合わせていたからだ。


 連れて行くのは毎度おなじみ、レイドック、ソラル、エヴァ、カミーユ、マリリンの最強パーティー。

 それとジタロー。無視するとうるさいので、誘ってみたら、当然のように参加することになった。フットワークが軽いのは、狩人だからだろうな。


 ここまではいつもと同じだが、いつもと違うメンバーが二人。


「マスター。皆さまの荷物を集め終わりました」

「お、おう」


 手際良く、全員の荷物を仕分けし、俺が空間収納に仕舞いやすいようにまとめてくれたのは、使い魔で人造魔物でゴーレムで竜牙兵のメイド、リュウコである。

 今回はリーファンを連れて行かないので、代りに料理係として連れて行くことにしたのだ。


 もちろん、元冒険者である俺も、現役であるレイドックたちも最低限の料理は出来るが、男組の料理など、焼くか煮るかそのまま食べるの選択肢しかない。エヴァとソラルはそこそこ作れるらしいが、やはりリーファンの料理に口が慣れていると物足りない。

 そこでリュウコの登場である。

 メイドを野外で連れ歩くのには少々不安はあるが、小国家群を抜ける旅に同伴して、そつなくこなしていたのだ、大丈夫だと判断する。


 ジタローやエヴァにそのことを話したとき「なんの問題があるの?」といった不思議顔で賛同してくれた。

 みんなで守ればいいっていうことなんだろうな。


 カイル用に作った馬車を借りたので、俺の愛馬、ブラックドラゴン号に繋いでやる。

 本来は四頭引きの馬車だが、前回の旅と違い、道なき道を進むわけじゃないから、ブラックドラゴン号だけで十分だ。


 レイドックとソラル、ジタローとカミーユがペアになって、交代で馬車を併走して走る。御者はリュウコだ。

 残りの普通体力組は馬車に乗車。

 この馬車の速度と併走でき、かつ持久力のあるメンバーが四人だけなので、このような配置になった。


 こうして俺たちは出立。

 ゴールデンドーンを出て、街道を爆走するのであった。


 ◆


 数日で俺たちは、ザイード村改めリーファン町に到着する。


 町を見渡すと、ザイードが治めていた頃の何十倍も発達していた。

 ゴールデンドーンとの間に、整備された街道が出来たことで、大半の商品がここで買えるようになったことが大きいだろう。

 宿の施設が整っていたのも、商人たちにとって気安いポイントでもあるようだ。

 なにより、王国の都市部が圧倒的に近い。


 急ピッチで作られた、錬金硬化岩の壁が町を守っていることもあり、訪れる商人は日増しに増えているらしい。

 リーファン町になってから、加速度的に大きくなっているのは知っていたが、想像以上に発展していた。


「すごい人っすねー」

「ああ。もはや地方中核都市の規模だな」


 ひっきりなしに行き交う馬車と、商人。

 今までゴールデンドーンを目指していた移民希望者も、リーファン町を見ると迷うようで、この町に永住を決める者も多いという。


「ゴールデンドーンまで来たら、また違うんだろうけどなぁ」

「これだけ発展してるのを見たら、普通はもっと発展してる都市があるなんて想像つきませんからね」


 俺の呟きに、エヴァが肩をすくめて答えた。


「そりゃそうか」

「こちらもカイル様のおかげで、治安はいいですからね」

「いくら街道が整備されたとはいえ、ゴールデンドーンは遠いからなぁ」

「はい。よほど情報を持っていなければ、国の一番端まで冒険する気にはならないと思いますよ」


 ゴールデンドーンの噂は国中に広がっているはずだが、ほとんどの奴は実際の発展度を正確に想像しきれていないだろう。

 むしろ、リーファン町のレベルで、驚愕を追い越すほどだろうな。


 そこにレイドックが口を挟む。


「俺だったら迷わず進むけどな」

「お前らはな!」


 冒険大好きで、武力に自信があるんだから、そりゃ迷わないだろうよ!


「レイドックしゃまぁ~」


 エヴァが壊れるから、やめておあげなさい。


「まったく……、休憩は十分だろ? 行くぞ!」


 漫才をやっててもしょうがないしな!


 ◆


 まず、俺たちが向かったのは、湿地帯の外周沿いに建設中の開拓村だ。

 完成したら、そこは開墾の拠点であり、リザードマン村と橋渡しとしての役目も持つ。


 リーファン町から大量の資材が運ばれているのだろう、開拓村までは、舗装はされていないが、踏み固められた道が延びていたおかげで、とくに苦労もなく到着する。


 先行していたジタローが、手で額にひさしを作った。


「お。見えてきやしたぜ」


 それまで爆走させていた馬車の速度を落とし、ゆっくりと村に近づいていくと、丸太で作られた柵に囲われた小さめの村が見えて来たので、全員馬車から降りて歩いていく。


 俺たちの姿に気づいたのだろう、村を守っていた冒険者だろう数人と、リザードマンがこちらに警戒を向けてきた。

 だが、顔が判別出来る距離になると、冒険者たちも、リザードマンも一気に緊張を解く。


「なんだ、レイドックたちか。応援に来てくれたのか?」

「クラフトにレイドック! 俺たちを救ってくれた戦士たちじゃないか!」


 冒険者たちはレイドックたちに手を振り、リザードマンは笑みを浮かべた。

 村に近づいてわかったが、規模の割に人が多い。それも開拓民ではなく冒険者ばかりだ。

 さらにリザードマンも結構な数がいる。

 もっと湿地帯の奥にリザードマン村があるはずなので、本来であれば、この開拓村にここまでのリザードマンはいないはずだった。


 レイドックが辺りを一瞥して、冒険者に話しかける。


「……そんなに魔物が増えたのか?」

「ああ。湿地帯のヌシを倒してから、ヒュドラの数は減ったんだが、しばらくしたら別の魔物が増えだしてな」


 どうやらカイルの情報通りらしい。


「俺たちは割と初期からこの開拓村の護衛をやってたんだが、日に日に増える魔物に対処しきれなくなって、ギルドに応援要請を出したんだ」


 村をざっと見渡すだけでも、かなり連続で戦闘が続いていたのだろうと判別できる程度には、周囲は荒れていた。


「すぐにカイル様が予算を出してくれたらしく、大量の冒険者が来てくれたおかげで、死者を出さずにすんだんだ。ほんとカイル様に感謝だぜ!」


 俺たちを派遣する前に、かなり大規模な冒険者の増援をやっていたのか。さすがカイルだな。


「なるほど、それで開拓民より冒険者の方が多いのか」

「ああ。それまではリザードマンの戦士たちが来てくれたから耐えられたんだ」


 原液のスタミナポーションをがぶ飲みして、身体を鍛え直したリザードマンの戦士たちが、艶のあるうろこで太陽光を反射させながら、胸を張っていた。

 俺は近くのリザードマンに顔を向ける。


「あんたたちが来てくれたのは心強いが、リザードマン村の方は大丈夫なのか?」

「ああ。問題ない」

「ならいいんだけど、無理してないか?」

「ふ。相変わらず優しい男だな。安心しろ、最低限の戦士は残してある」

「そうか」


 決意に満ちた瞳を見せられたら、信じるしかないな。

 ……たぶん、そういう眼だ。


 リザード戦士と、男っぽい視線を交わし合っていると、奥から甲高い声が聞こえてくる。


「クーラーフートー様ぁぁぁああああ!」


 声の方に振り向いたと同時に、どーんと身体全体を衝撃が襲う。


 体当たりされて、押し倒されたのだと理解出来るまで、数秒掛かった。

 そして、美少女のどアップ。


「クラフト様! クラフト様! クラフト様! クラフト様!」


 身体が軋むほど抱きしめられ、なんか妙に柔らかいものを押しつけられる。


「ちょっ!?」

「はぁ! はぁ! いいですよね!? いいですよね!?」


 爬虫類なのに、猛禽類の視線で俺を見下ろす謎の美少女。

 いや、謎でもなんでもねぇ!


「シュルルぅ! 降りて、離して、解放してぇぇぇぇ!」


 俺の間抜けな懇願が、湿地帯に響き渡るのであった。とほー。


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