37:信用されているってのは、なかなか気づけないって話
開拓村に戻った俺達は、まず、住人や冒険者達に事情を説明することから始めた。
「そんな! ここはカイル様やクラフトさんが懸命に育てた場所だというのに!」
「ちくしょう! いくら貴族とはいえ許せねぇよ!」
「み! 皆さん落ち着いてください! 決してザイード兄様の提案は間違ったものでは無いのです。それで、移住希望なのですが——」
カイルが最後まで言い終わる前に、村人全員と、冒険者達が立ち上がった。
「もちろん付いていきます!」
「ああ! 残るわけないでしょう!?」
「ギルド長! 冒険者は全員一緒に移動するが、まさか護衛代なんてアホな事言わないだろうな!?」
「この村より立派な村を作って、連中の度肝を抜いてやりましょう!」
「「「おおおおー!!!」」」
俺は、少し唖然としてその様子を眺めていた。
ザイードが約束したのは、開拓者に渡す微々たる準備金より遙かに高額だ。何割かは残ると思っていたのだ。
「ふふ、クラフト兄様は自分の事になると、過小評価が過ぎますよね」
「どういう事だ?」
「この村の開拓を進めた立役者はクラフト兄様ですよ。みんなそれを理解しています。クラフト兄様が行くとなれば、絶対についてくるに決まってるじゃ無いですか!」
それは、どうなのだろう?
今よりも危険があるだろう土地に移動するのだ。残る選択肢を取る奴だって、普通に出てくると思っていた。
それと、人望を集めているのはカイルだろう?
「まぁ、カイルが思っていたよりしたたかだったのはわかった。とにかく先の話をしよう」
「はい」
それから、村の資産と、個人資産の選別に入る。
「スタミナポーションは半分近くを置いていくことになりますね」
「ああ、半分をシールラさんが商店用に購入していて助かったぜ」
「それを開拓費用から買い戻して、いつものように皆に配りましょう」
「ああ」
「ヒールポーションとキュアポーションは、ほとんどが冒険者ギルドが購入済み、どちらも一樽ずつ残ってるだけですね」
「この土地に来るなら、このくらい残ってないと不安だろう。ザイードはむかつく奴だが、死んで欲しいとは思ってないからな」
「はい。錬金用や鍛冶用の薬や道具はどうなっていますか?」
「それは、生産ギルドか個人の資産だな」
「なら問題ありませんね。木材は全て置いていくことになりますが」
「それは仕方ないな。なに、新しい開拓地にも森は続いてる。いくらでも確保出来る」
「そうですね」
木材は長期間乾燥させなければならないが、魔法か錬金術でなんとか出来る感じなのだ。
最初だけなので、そこは頑張ろう。
カイルの何がしたたかだと言えば、
正直、素材があれば、スタミナポーションでもなんでも、いくらでも作れる。
足りない素材のほとんどは、冒険者に依頼すれば現地調達出来るのも強みだ。
「先ほど、冒険者ギルド長さんが、自分はギルドの契約上、場所を移動できないので、残ってくださると」
「そうか……貧乏くじを引かせることになるな」
「そうですね。落ち着いたら、新しい村に移動できるよう、冒険者ギルドの本部に連絡しておきましょう」
「それが良いな」
こうして、準備は猛烈な勢いで進んでいった。
普通に考えたら一〇〇〇人を越える移動など、面倒この上ないのだが、俺達にはあまり問題にならなかった。
まず、護衛。
これは一緒に冒険者が移動するので、彼らが「身を守る」だけで全て解決だ。しかも半数がドラゴン退治の猛者なのだ。頼もしい。
途中、冒険者殺しと呼ばれる、一つ目の巨人サイクロプスが突如現れたときも、レイドックが鎧袖一触。強力な技の連撃であっというまに細切れである。
なんか滅茶苦茶強くなってるな。
次に、移動速度。
この村の住人はスタミナポーションとキュアポーションのおかげで、全員が元気なのだ。しかも疲労しない。
ピクニック気分で移動できるというものだ。
最後に、荷物。
これは俺が全て空間収納で運ぶのだから、まさにピクニックだ。
幸い、テントは必要量が揃っていた。
……それにしても、俺の収納はどんだけ物が収まるというのだろうか?
まるで上限を感じないが、便利だから深く考えないことにしよう。時間が出来たらジャビール先生に相談しても良いかもしれないな。
冒険者ギルド長に後を託して、俺達は新天地へと移り住むことになった。
びっくりするほどトラブルも無く。
移動の途中、アズールがボソリと言った。
「レイドックさんって格好いいですねぇ」
「はぐわぁあ!」
まぁ、トラブルの内には入らんよな?
◆
先行で現地に移動していたリーファンと冒険者パーティーが俺達を出迎えてくれた。
「お待ちしておりました! カイル様、クラフト君!」
「よう、なにか問題は?」
「周辺の魔物は間引きしておいたから、大丈夫だよ。あと、カイル様からいただいた、都市設計を元に、建物の配置も決めておいたから」
「流石だなリーファン」
「えへへ」
「よーし、それじゃあみんな! まずは仮設の生活空間から設置していくぞ! リーファン頼む」
「うん!」
ずらりと並ぶテントは、一件軍隊の宿営地にも見えた。
「リーファン、最近気付いたんだが」
「なに?」
「村人、特に初期からいるやつらなんだが、あいつら全員妙に力が強くなってないか?」
「あ、やっぱりそうだよね」
「リーファンも気付いてたか」
「そりゃあね。木こりの人が、一人で一本丸太を担いでくるようになってるんだもん。でも何でなんだろう?」
「これは仮説だが、スタミナポーションが影響してるんじゃないかと思ってる」
「え? あれは凄い効き目の栄養ドリンクみたいなものだって」
「ああ、だが考えて見ろ、身体を鍛えるってのは、基本的に疲労するまで動いて、休んで、また動いてを繰り返すだろう?」
「あ」
どうやらリーファンも気付いたらしい。
「そう、一日ずっと全力で働いて、夜ぐっすり眠る。それを繰り返し続けてるんだ。肉体労働系の奴らを中心に凄い力持ちになってるんだよ」
「もしかして、冒険者も?」
「まず、間違い無い。この短期間でドラゴンにダメージを入れられる奴らが量産された最大の原因だと思ってる。こないだのレイドックを見ただろ? この短い間に、単騎でサイクロプス倒せるようになってるんだぞ」
「じゃあ、スタミナポーションはもう配るのをやめる?」
「それなんだが、カイルと相談して、村人に配る分は、少しずつ効果を弱めていく事になった。一年くらいで、配布その物を止める」
「そっか、元々、初期の炊き出しだものね」
「そういう事だ。みんなに上手いこと伝えておいてくれ」
「うん。わかった。冒険者用の販売分はどうするの?」
「それはこれまでどおりだ」
「わかった」
冒険者はいくら強くても問題無いしな。
村人用のスタミナポーションは、効果時間はそのままで、効果は市販品くらいにまで落としていく事にカイルと決めていた。
もちろん住民が強くなるのは嬉しいことなのだが、少し極端すぎて、軍事利用されかねないとカイルが結論づけたからだ。
まぁ、初期メンバーはどうしようもないが。
実際、木こり連中が多いので、新たなゴールデンドーン村の開拓には、とてもありがたい存在だったのだ。
こうして、並みの冒険者を力だけで蹴散らせそうな愉快な仲間のおかげで、新生ゴールデンドーン村は、凄い勢いで発達していくのだ。
そりゃもう、びっくりするほど。
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