34:期待されているってのは、ちょっと恥ずかしいよなって話


(ジャビールの設定を大幅変更いたしました。28話以降、特に28,32,33話を大幅に変更いたしました。よろしくお願いします)


 ガンダールの街は、相変わらず賑やかだった。

 ベイルロード辺境伯の政治が上手くいっている証拠だろう。ただ、大きな都市特有の、亞人の少なさは相変わらずだった。

 今でこそ減ったが、亞人への差別は根深く残る。特に大きな都市であれば、亞人の居場所はないと言っても良いだろう。


「やっぱり亞人は少ないな」

「なんだクラフト、亞人に知り合いでもいるのか?」

「ああ、俺は地方の孤児院育ちで、そこには亞人の子供も沢山いたんだ。それとリーファンもハーフだろうに」

「そう言えばそうだな。リーファンは見た目が普通だから、つい忘れてしまう。それ以外では亞人と接点が無い生活だったからな」

「やはり、軍人になると、差別意識もあるのか?」

「私は無い……と思う。ただ、同僚で毛嫌いしている奴は何人かいたな。時代錯誤だとは思うのだが」

「仕方ない……と言ってしまえばおしまいなんだろう。亞人に生まれたと言うだけで差別されている側からしたら、たまったもんじゃない」

「そうだな。せめて私はそのように考えないよう努めている」

「私は亞人の知り合い一杯いるよ!」

「そりゃリーファンはハーフだしな」

「だよね」


 それ以前に、屈託無い性格してるからな。そういう差別無く、友達が多そうだ。

 それに生産ギルドなら、色んな人間と出会う機会も多かろうて。


「ま、それ以前にリーファンって誰とでも仲良くなりそう。ほら、マスコット的な」

「微妙に馬鹿にされてる気がするんですけど!?」

「お、あの串焼き美味そうだな。二人に奢ってやろう」

「なんかあからさまに誤魔化された気がするんだけど!」

「気のせい、気のせい。食べないのか?」

「食べるよ!」


 幸い金はかなり持っている。

 今の俺は生産ギルド所属だが、実質ギルド職員扱いになっている。

 なので、基本は固定給なのだが、それも結構な額をもらっているし、それ以外にも、開拓村に貢献する度に特別給の様なものが支給されているので、結構な小金持ちになっている。


 もともと冒険者ギルドから生産ギルドに移り、開拓村に行くという冒険者ギルド最後の仕事料もかなりものだ。

 そのあたりの関係で、今の俺はかなり金を持っている上に、開拓に必要なほとんどの素材も経費なので、減らないのだ。


 使っている金といえば、自分の所有物として購入しているジャビール先生の本や、錬金機器くらいだ。もちろん単価は高いが、消耗するものでもないので、今の収入だと、さほど財布に影響は無い。


 もちろん、金なんていくら持ってても困る物では無いのだが、契約上当面独立する事も出来ないので、完全に死に金だ。

 なので少しくらいの無駄遣いは何てことが無いのだ。


 現在審査待ちだが、秘薬を辺境伯に献上した件も、ギルドへの貢献として特別給が支給される予定だった。

 買う予定の本も手に入れてしまったので、手持ちもかなり浮いている。


「うーん。まさか貧乏冒険者から、小金持ちになるとはなぁ」

「クラフト君、それだけの成果をだしてるもん」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 人の役にたって、金までもらえるのだから、ありがたい事だ。

 あとはカイルが幸せになれば最高なのだが、一つ気がかりがある。


 今から向かうのが商業ギルドなのだから、ちょうどその相談も出来るという物だ。


「おっちゃん、この串焼き四本くれ」

「毎度!」


 俺は香ばしい香りを漂わせる串焼きを受け取り、ペルシアに一本、リーファンに二本渡した。


「「……」」


 あれ? なんで二人無言? ここはありがとうの場面では?


「クラフト君。一つ聞いて良いかな?」

「ああ」

「なんで私だけ二本なの?」

「いや、二本喰うだろ?」

「「……」」


 え? なんで?


「クラフト、一つ忠告しておく」

「あ、はい」

「女性にだな『お前食いしん坊だろ?』という態度はいかがなものかと思うぞ?」

「え!?」


 え? え!?

 だってリーファンって腹ぺこキャラだろ!?


「クラフト君は一体どんな目で人を見てるの!?」

「いや……いつも小さい身体のくせに良く食べるなーって」


 なぜかペルシアが額をおさえた。


「クラフト君……君モテないでしょ……」

「うぐっ!?」


 な! なぜ俺の秘密を知っているんだ!? 魔術か!?


「クラフト。お前とは一度ゆっくり話し合った方が良さそうだな」

「え!? 俺が悪いの!?」


 なぜかリーファンとペルシアが顔を見合わせてから、首を横に振った。

 あれー!? マジで俺なのー!?


 道中二人に、女性に対する気遣いというものを説教されてしまった。

 解せぬ。


 そんな俺を助けてくれたのは、生産ギルドだった。


 ◆


「よお! リーファン! クラフト! 元気そうだな、がはははは!」

「ギルド長!?」


 辺境伯がお膝元、ガンダール街の生産ギルドへ向かうと、すぐに奥の部屋に通され、ギルド長と面会することになったのだが、やってきたのは、なぜか俺が冒険者として活動していた別の街でギルド長をしていた男だった。


 ……そういや名前しらねーや。


「おうよ! お前達が活躍しまくったおかげでな! 俺も出世してこの街のギルド長に出世したのよ!」

「凄いじゃ無いですか! ガンダールのギルドって、地区本部扱いですよね?」

「おう! 今じゃギルド地区本部長様よ! がははははは!」

「なんか良くわからないが、おめでとう」

「おうよ! それでそっちのべっぴんさんは、たしかカイル様のお付き騎士様だったか?」

「ペルシア・フォーマルハウトだ。親衛騎士団に所属していたが、現在はカイル様直属の護衛となっているので、騎士では無い」

「細かいこたぁ良いんだよ! 美人で強い! そりゃもう女騎士ってなもんだ! がははははは!」

「意味がわからん……」


 言葉のわりに、照れた様子を見せるペルシア。褒められ慣れてないのだろうか?

 もっともギルド長の言葉が褒めに当たるかどうかは微妙なところだが。


(リーファン、俺、ギルド本部長の名前知らねーんだよ)

(そうだっけ? そう言えば自己紹介も無かったような……。グリムさん大ざっぱだから)


 そうか、グリムって言うのか。


「それじゃあ早速報告と手続きと行こうか!」

「元気な人なのだな……」

「おっさん、呆れられてるぞ」

「クラフト君、名前で呼んであげようよ」


 ぐだぐだであった。


 ◆


「じゃあ、報告通り、ベイルロード辺境伯に、秘薬は全部献上したんだな?」

「はい。私もその方がいいと思って」

「ああ、良い判断だと思うぞ。流石に効果が絶大過ぎる。下手に手元に残したらトラブルの種になりかねんからな」


 ドラゴン退治を含めた近況を報告すると、今までの空気が一変。グリム本部長が真剣な表情で腕を組んだ。


「元々錬金術師自体が少ないからな。生産ギルドに所属してくれる数少ない錬金術師も、大半は……様々の理由から、あまり凄腕というのが少ない」


 ハッキリ言わないが、腕の良い錬金術師は貴族や国に持って行かれてしまうのだろう。

 そりゃ、普通に考えたら職に困る事はないからな。

 俺の場合、紋章の切り替えや、その経緯など、他が介入する余裕もなかったし、実質拘束契約だからな。


「そんな関係で、クラフトには期待してるぞ。がはははははは!」

「まぁ、頑張りますよ」


 頼られるのは素直に嬉しいのだ。


「今回の特別報酬を渡しておこう、これがリーファン、こっちがクラフトだ」


 渡された小袋を覗き込むと、ミスリル貨が一〇枚も入っていた。

 一般人なら年収に近く、今の俺だと四ヶ月分くらいの給料になるので、一財産だった。


「こんなに良いんですか?」

「むしろクラフトには申し訳ないくらい少ないんだがなぁ」

「冒険者ギルドからの報酬もありますからね」

「それは別件だ。あくまで生産ギルドの職員としての査定だからな。むしろ不満を言っても良いんだぞ?」

「素材なんかを優先して回してもらってるだけで充分ですよ。ありがたくいただきます」

「そう言ってもらえると助かるな。俺がまた偉くなったらなんぞ精神的にお返ししよう。がははははは!」

「楽しみにしてますよ」


 正直貧乏冒険者の時と比べるともらいすぎてて怖いくらいなのだ。

 貧乏性というやつだろう。

 それに、本部長に恩を売れるなら、金よりそっちのほうがよほど価値があるだろう。


 必要な話は全て終わったので、俺は本題を切り出すことにした。


「おっさん。代わりと言ってはなんだが、頼みが一つある」

「なんだ?」

「無茶な事は承知なんだが、俺の契約を一部変更させて欲しい」

「なんだって?」


 この話が通らないなら、莫大な借金を背負ってでも、契約破棄するしか無いな。

 俺は決意を持って、ギルド本部長に懇願した。


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