30:親子の再会って、こんな感じだっけって話
「久しぶりだな、カイル」
「はい、お父様」
ベイルロード辺境伯の屋敷に到着した俺達は、細々とした手続きを終え、注意事項など聞いた後、大広間へと案内されていた。
広間にいるのは俺、カイル、マイナ、リーファン、ペルシア、アルファード。冒険者達は屋敷に到着した時点で宿に行っている。
それに対するは、オルトロス・ガンダール・フォン・ベイルロード辺境伯その人。
すこし白髪の交じった厳ついおっさんだった。
並ぶのは、長男フラッテン。なんか俺より少し年上くらいにしか見えない若々しい姿だ。
さらに並ぶ次男ザイードの方がはるかに年上に見える。謎だ。
長男フラッテンは涼しげな笑みをたたえたまま、無言でオルトロスとカイルの会話に聞き入っていた。
「報告は読んだ。随分と勇ましい事が書かれていたが、今日はその説明をしてくれるのだろうね?」
「はい。いくつか相談したい事もあり、直接お伺いさせていただきました」
ハキハキと胸を張って喋るカイルの姿を見て、ペルシアが涙ぐんでいる。
おかんか!
「聞きたい事はいくつもあるのだが、まずはあの秘薬の詳細と、直接渡したいという物を見せてもらうか」
「はい、父上。クラフトおに……クラフトさん。秘薬を全て、出していただけますか?」
「ああ……いや、はい。ここに並べいただいて構わないそうろう?」
やべぇ!
緊張で言葉がががが!
「はい。ここに並べて構いませんよね? 父上」
「うむ」
どうやら俺の口調は無視してくれるらしい。助かる!
内心安堵の息をつきながら、テーブルの上に、薬を並べていく。
カイルの病気を完治させた、万能霊薬エリクサーが四四個。
全能力を一時的に大幅に引き上げるスラー酒が一二九個。
一瓶で約一年若返るアムリタが七三個。
うん。改めて並べてみると壮観だわー。
あー、容姿端麗のフラッテン兄ちゃんも笑顔が引き攣ってるわ。なんかアムリタをガン見してるな。
ザイードにいたっては、ポカーン状態。
オルトロス父ちゃんは、なんか難しい顔してるな。
「こちらがあらゆる病魔を治癒するエリクサーです。これは僕自身で効果を確認しましたので、先に二つほど送らせていただきました」
ああ、なんでエリクサーだけ送ったのかと思ったら、そういう事だったのか。
「こちらが、強化薬のスラー酒。こちらが若返り薬のアムリタです。どちらも鑑定では問題ありませんが、実際に試した訳では無いので、説明が必要だと思い、直接お持ちしました。作成者はそこのクラフトさんです。作製にあたって、ドラゴンの素材の一部と、その周辺にしか生息出来ない希少薬草を使用しました。いくつかの材料が、どうしても日持ちしないため、僕の判断でクラフトさんに最良と思われる秘薬を作製していただきました。勝手な判断お許しください」
おいおい、そんな事一言も無かっただろ。万一の時は責任を一人で被るつもりか?
絶対させねぇよ?
「良い。……それにしてもまた、とんでもないシロモノを、とんでもない数持ってきた物だな」
「はい。すでに僕の権限で処理出来る物では無く、父上にご判断いただくしかありません」
「確かに。勝手に売りさばいたりしなかったこと、評価しよう」
その言葉に、小さく舌打ちが重なった。もちろんザイードだったが、誰もそこに突っ込みを入れなかった。
「処理に困るのは確かだが、カイルよ、もっと胸を張りなさい。素晴らしい成果だ」
「……! あ、ありがとうございます! 父上!」
「ふむ。さて、これはやはり陛下に献上するのが得策だろうな。こんなものが市場に出回ったら、経済が破綻しかねん」
「父上! 献上するのは、エリクサーとスラー酒だけで良いのではないでしょうか!?」
「む? フラッテン。その意図は?」
「はい! その秘薬の中で、アムリタだけは市場に出回る物です! つまり処理に困る物ではありません! ですので、アムリタだけは私達が所持、または販売するべきかと!!」
「ふむ……確かに。もっとも市場に出して誰が買うのだろうね?」
「そ、それは……」
「良い。アムリタに関しては保留だ。さてカイルよ。次はドラゴン討伐の話を。この秘薬が間接的にそれを証明しているが、直接証明できるものはあるか?」
「はい! 実はドラゴンの頭をお持ちしております!」
「なんだと? 荷馬車は無かったようだが?」
「クラフトさんの空間収納で持ってきましたから」
「ふむ?」
その時、それまであからさまに敵意の籠もった表情でカイルを睨み付けていたザイードだったが、急に嫌らしい笑みに変わった。
「なるほどなるほど。ドラゴンなどと言っているが、少し珍しいトカゲか何かということだろう? カイルも貴族らしい物言いを覚えたということか」
え?
なんで急にトカゲ判断?
……あ! そりゃそうか! 空間収納なんて、普通はそんな大きな物は収納できんもんな!
うん。どうやって説明しよ?
「父上、どこか広い場所に首を出してお見せしたいのですが?」
「ふむ。では屋敷裏の庭に」
「あの……父上。あそこでは広さが足りません」
「なんだと?」
「はっ! こりゃまた大きく出たな!」
ザイードが楽しそうに両手を広げた。
「良いでは無いですか父上! 広い場所が必要と言うのであれば、正門の敷地側にでも置かせてやれば!」
「……」
あー、ザイードの思惑が微妙に見えたぞ。
ここは住まいがメインの敷地だが、非常時は兵士が集まれるようになっているのだろう。正門を潜ってすぐの場所は大きなスペースになっている。
その広い場所に、たいして大きくないと思い込んでいる首が置かれたら、より小さく見えると踏んだのだろう。
さらに正門の外には野次馬が沢山集まっている。そのままカイルの悪評でも広めたいのかもしれない。
だったら、やることは一つだな。
決意が緊張を塗りつぶす。
「ベイルロード辺境伯様。口を挟むご無礼を許してもらえますか?」
「クラフトさん?」
「カイルの錬金術師か。良い。発言を許す」
「ありがとうございます。正門横というのが、先ほど馬車で入ってきた場所であれば、首を置くのに問題ありません。ただ、いくつかの花壇が潰れてしまいます」
「は?」
ザイードが妙な声を出す。
そりゃそうだ。
あの場所で花壇が潰れるということは、最低でも一軒家くらいの大きさが無ければ不可能なのだから。
「はっ! そこまで言うのなら見せて見ろ! 花壇などいくらでも直せる! 父上! よろしいですね!?」
「しかたない。許す。見せてみろ錬金術師」
「はっ! ありがとうございます!」
俺は一礼して、外に移動。執事さんに頼んで、庭にいる全ての人に退避してもらう。
二階の窓から様子を見ている貴族達に頭を下げてから、俺は取り出した。
彼らの立つ、貴族屋敷に匹敵する巨大なドラゴンの首を。
それは正面門を入ってすぐの広い空間を埋め尽くすほどの、今にも呪詛を吐き出しそうな恐ろしげな巨大なドラゴンの首を取り出したのだ。
突然あらわれたとんでもない物に、一瞬言葉を失った野次馬達が、次の瞬間悲鳴を上げて逃げ出そうとする。
うん。今度は俺のせいじゃないからな? ちゃんと許可を取ったからな?
パニックに陥りそうな群衆を見て、即座に用意していた魔法を発動する。
これは俺のオリジナル魔法で、魔力に物を言わせて、広範囲に声を伝える魔法だ。
いくぜ! フルパワー!
「聞け! 今ベイルロード辺境伯の住まいに鎮座するは、凶悪なる魔物、ドラゴンの首である! そう! 首だ! 辺境伯が三男、カイル・ガンダール・ベイルロード様が音頭を取り! 討ち取ったものなり! 皆! カイル様の偉業を讃えるのだ!」
俺の声が魔力に乗って、辺り一面にまき散らされる。
……セリフ変じゃなかったよな?
群衆に広がり始めていた、混乱の波はゆっくりと収まり、逆に熱狂へと変わっていく。
そして自然発生する唱和。
「「「カイル様万歳! カイル様万歳! カイル様万歳!」」」
うおおおおおお! と辺り一面から湧き上がる熱狂。
先ほどとは打って変わって、ドラゴンの首を一目見ようと、正面門の前に押し寄せる住民たち。
「「「カイル様万歳! カイル様万歳! カイル様万歳!」」」
「マジでドラゴンを退治したのか!?」
「俺は見たぞ! 恐ろしげで巨大な首を!」
「お! 俺も見たい!」
「えー、今なら銀貨五枚で家の屋根の上に登って良いよ!」
「それなら家の屋根のほうが良く見えるぞ! 銀貨六枚だ!」
「すげぇ! 辺境伯の屋敷を囲む壁よりもでかい生き物の首だなんて!」
「ああ! やっぱりカイル様は俺達の味方だ!」
「押すな馬鹿! 潰れるぅ!」
「えー、ドラゴン肉の串焼きはいかがっすかー?」
「ドラゴンの牙を削って作ったお守りだよー!」
「ほら! 本物のドラゴンの鱗だって! マジマジ! え? さっき見てきたのと大きさが違いすぎる? え? そんなデカかったの?」
「うちは本物のドラゴン肉だよ!」
「カイル様の姿絵はいかがか? 有名な絵師の……」
「肉が!」
「魚が!」
……いや、ドラゴン魚は無理がありすぎるだろ。
今、魔力を辿ってみたのだが、俺が想定していたより、魔法は広範囲に広がっていたらしい。具体的に言うと、このガンダール都市の全地域に声が届いてしまったほどかな?
うん。やり過ぎた。
見上げると、ペルシア、アルファード、リーファンが頭を抱え、そしてザイードは……顎を外していた。
ふん。ざまーみろ。
カイルの敵に容赦など必要ないのだ。
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