第120話ラウド・ゼロその1

 さてここで場面はいったん徹也が、今日子の住んでいるマンションに呼ばれたときへと、移ることになる。 

「あら。久しぶりじゃない!」

「なんだよ。今は今日子じゃなくて『ラウド・ゼロ』の方かい……」

 すると『ラウド・ゼロ』と名乗るその人格は、徹也に対して、

「あなたとはじめて出会ったときは、今日子じゃないって、よく気がついたなと、思ったわよ」

 すると徹也も徹也で、

「今日子はお前みたいに、あんなに殺気立っていないからな……」

 そう言って徹也は持参した『ボランジェ』というシャンパンを、二人で飲むように提案した。

 ボランジェを二人で飲み終ったときに『ラウド・ゼロ』という人格が、徹也に対して、こう聞いてきた。

「酔っている女の子を目の前にして、襲ったりしないんだ?」

 そう『ラウド・ゼロ』という人格から問われた徹也は、一切の隙も見せず、そしてまた表情も崩さずに、

「お前みたいに殺気立っている女の子を、酔ったついでに襲おうなんて気持ちには、俺にはとてもなれないね」

「あら、そうなんだ。何だか面白くないわね……」

 その徹也の目の前にいる『ラウド・ゼロ』という人格は、ただその言葉だけを、返事を徹也に対して返しただけだった。

 そこまで話が進むと『ラウド・ゼロ』という人格は突然、

「ところでうちの今日の晩ご飯はカレーなのだけれども、どうする? ついでだから一緒に食べていく?」

 徹也は『ラウド・ゼロ』という人格からそう問われたのだか、徹也の今目の前にいる人格は『ラウド・ゼロ』という人格であって、決して目の前にいる人格は、徹也自身が良く知っている『橋部今日子』という人格ではないのだが、別に夕食ぐらい一緒に食べても、罰は当たらないだろうと思って、その『ラウド・ゼロ』という人格の提案を、徹也は快くではないが、一応受け入れて、甘えさせてもらうことにした。

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