第115話搬送先の慶応病院にてその2
雪絵のベッドの横にいた雪絵の母親は、雪絵に対して、
「入学の手続きはお母さんがやっておくから、雪絵は今はゆっくり休んでね」
「お願い……お母さん……」
雪絵はそう言うのが、精一杯であった。
瞳が安心したような顔つきで、
「鹿島神宮のおみくじ、SFCって形とはいえ、結果的には本当に当たって、本当に良かったね。もしこれでおみくじの内容が外れたりでもしたら、取り返しのつかないことになっていたわよ」
すると今度は今日子が、
「SFCだけど慶応に受かって、本当に良かったね雪絵ちゃん。これでようやくご両親の呪縛からも離れられるね」
今日子がそう言った。しかし園里は渋い顔つきを崩さずに、
「良くはないわよ。話はそんなに単純じゃないわよ!」
園里はそう言った。そして園里は続けて、
「雪絵も頭は悪くないから、いずれわかるときがやって来るわ。慶応に受かったなんていう『勲章』は、決して今までの雪絵の地獄を癒してなんかくれないっていうことに。そのとき私たちがしなきゃいけないことは、そのことに雪絵が気がついてしまったときの、私たちがする雪絵に対するフォローよ」
そのとき病室では、雪絵がこんなことを呟いていた。
「聞こえているわよ……皆……」
雪絵は続けて、こう呟いた。
「今までの辛かった地獄なんか癒えない……今までの失った時間なんかもう戻ってこない……そんなことぐらい……私はもうわかっているわよ……」
「まあ一応は雪絵の無事も確認出来たことだし、もう用事は済んだわけだから、私たちも帰りましょう!」
そう園里がこわばった口調で瞳たち四人に、そう言った。
慶応病院の玄関を出てからすぐに園里が、
「いい大学に入ればいい会社に入れる。いい会社に入れば一生安泰だっていう、典型的な昔の時代の成功例を娘に押し付けている……。本当に典型的な最悪の親の例ね」
そう園里は言って、園里の怒りは煮えたぎったまま、五人は慶応病院から解散することとなった。
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