第114話搬送先の慶応病院にてその1

 雪絵が無事に『慶応SFCに受かった』という『良い知らせ』と『救急車で慶応病院へと運ばれた』という『悪い知らせ』を両方同時に聞いた瞳たち五人は、すぐさま雪絵が搬送された、慶応病院へと向かった。 

 慶応病院にて、雪絵の手術を担当した担当医からは、

「今までの度重なるストレスに加えて、受験で過度なストレスがかかっていたのでしょう。それによる重度の胃潰瘍と、十二指腸潰瘍の併発による、吐血だったようですね」

 そう雪絵の両親に、担当医から説明があった。その担当医は続けて、

「まあ五十二番遺伝子障害をお持ちの患者様ですから、すぐに回復するとは思いますが、一応現在は増血剤を投与して、まだ数日は安静が必要です。必要な栄養の投与は、当面は点滴にて行ないますので……」

 担当医の説明を聞き終わった後で、休憩室で雪絵の両親と瞳たち五人は、すっかり黙り込んでしまっていたが、突然その沈黙を破るかのように、雪絵の父親が、

「笹森家では、慶応に入ることぐらい、当たり前のことだ!」

 雪絵の父親がそう言った途端に、園里がとうとうキレた。

「ちょっと、いい加減にしてよ!」

 その園里の態度に、雪絵の父親は「何がだ!」と言い返したが、園里は雪絵の父親に対して、

「仮にも笹森家の一人娘でしょうが? 雪絵が今までどんな思いで親の期待に応えようとして頑張って、そして追い詰められていったか、なんで親として『わからない』のよ! というか『わかろうとしない』のよ!」

 園里の見せた異様な形相に、雪絵の父親は戸惑いを隠せない様子で、それ以上黙り込んでしまった。

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