第76話大学が夏休みへ

 大学が夏休みに入った。雪絵に限らず大学に進んだ者にとっては、たいていの場合大学に入ってからはじめて知ることになるのだが、大学の夏休みというのは、大体八月に入ってから辺りから、九月の終わり頃までが、夏休みと設定している大学が、圧倒的に多いということだ。

 雪絵は春学期に履修した授業の単位は、すべてクリアーしていた。雪絵は瞳から大学の入学前に、

「単位は一つか、多くても二つぐらい落とすのは別に普通だから、仮にそのぐらい単位を落としても、気まで落とさないようにね」

 そのようにアドバイスを、瞳からは貰ってはいたものの(いくつかの単位の評価はともかくとして)すべての単位が取れていたことに、雪絵は正直に言って安堵を覚えた。

 とはいえ大学が夏休みに入ったからといって、雪絵の毎日の生活に劇的な変化があったわけではなかった。雪絵は持病の統合失調症のせいで、運転免許が取れなくなってしまったため(いやもっと正確に言ってしまうと、通院している精神科の主治医が、運転免許を習得のための許可の診断書を書いてくれれば、運転免許の習得には、たとえ統合失調症であったとしても、トライ自体は出来るのだが、精神科の医者たちは、万が一その診断書を書いたことによって、もし仮に診断書を書いた患者が事故でも起こしてくれたら、自分の医師生活の終焉にもつながるためか、なかなか運転免許習得OKの診断書を、医者は書こうとはしない)一般の大学生にありがちな『夏休みを利用して教習所に通う』などという、いかにも大学生らしい体験など、雪絵にはあるはずがなかった……。

 雪絵は大学に通っていたときと同じように、薬の調節でしっかりと朝七時までには起床し、規則正しい生活をして、土日と祝日は朝九時から夕方五時まで、それと水曜日の夕方の、パソコンショップでのアルバイトをすることにも変化はなかった。月に一度の精神神経科の午前の時間の受診と、八月の中頃に、お盆休みは病院も空くからと、消化器内科の主治医の出井先生の、大腸内視鏡の予約も入れてもらった。ただし夏休みに入ったことで多少時間に余裕が出来たために、月曜日にも夕方の時間に、大学が夏休みの間だけ、追加で働かせてもらえるようにと、アルバイト先のパソコンショップに申請を出して、そしてその申請は無事に受理された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る