第45話物理についてとくとくと
それから数日が経ったとある土曜日に、例によって徹也が図書館で勉強をしていたときに、秀美がやって来た。秀美が徹也に対して、
「この前の約束通りに、物理を教えてもらうために、ここへやって来たのですけれども……」
秀美は徹也に、唐突にそう言ってきた。
(大学へやって来て、俺と会ったら必ず物理を教えるとは、そこまでの約束は、俺はたしかしてはいないはずなのだけれどな……)
徹也はそう思ったが、秀美の要望に、一応は応えることにした。
徹也はまず手はじめに、今読んでいた本を秀美に見せる。
「この駿台の山本義隆先生が書かれた『新・物理入門』という本は、俺にとってまさしく『聖書』であったし、物理を勉強するにあたっての『バイブル』ともいえる参考書というか、教科書なのね。俺は実は一年浪人を経験しているのだけれども、一年浪人していたときは、本科は代ゼミに通っていたのだけれども、それにも関わらず夏期講習と冬期講習だけは、駿台に行って山本先生の東大物理を受けていたのだよね。そのときにだね、山本先生から直々にこの聖書にサインを頂いたのだよね! まさに俺にとっては宝物なのだよ! 現に今でもこの本の内容は、大学入学後も下手な参考書よりかは、ずっと役に立つ内容が満載だからね!」
そう言った徹也は続けて、次の話を秀美にした。
「物理の勉強のはじめは『力学』からなのね。まあ『力学』なんて名前が付いているから『力の学問』だってことは、容易に想像が出来ると思うけれども……。さて『力って何?』って問われたとき、お前さんはどう答えるかい?」
秀美はさもわからないという困ったような表情をしている。徹也は秀美のその表情を見ながらも続けて、
「あくまでも大学受験の範囲内では、力はこう考えれば良いことになっているのね。つまりは『物体そのものを変形させるもの』と『物体の運動形態を変えるもの』と……。後者は『止まっている物が動き出す』とか、逆に『動いているものが止まる』とか……。ただし前者は高校の知識の中では難しいので、高校では扱わないのだけれども……」
徹也はそう説明した上で、
「お前さんも知っているであろう、物理学の偉人である『ニュートン』が『運動の法則』を三つ示した根拠というか根幹が、ここにあるのだけれども……。ああちなみにニュートンの運動の三大法則というのが、一つ目が『慣性の法則』で、ようするに『物体は力の作用を受けなければ、止まっているものは止まったままだし、動いているものは等速で運動する』というもので、二つ目が『運動の法則』まあ平たく、少し乱暴に言えば『運動方程式』のことなのね。そして最後の三つ目が『作用・反作用の法則』で、二つの物体があったときに、物体一が物体二に力を与えるときに、物体二は必ず物体一に対して、大きさが同じで逆向きの力を及ぼす』この三つだね。ちなみに多くの大学生向けの教科書では、さっき俺が言ったこの順序でニュートンの三大法則を説明しているけれども、山本義隆先生が書かれた『新・物理入門』では、運動方程式の重要性を重んじてか『運動の法則』の方が、最初に書かれているのね」
そこまで徹也は説明すると、徹也は少し言いにくそうに、こう言った。
「ただ、厳密に力の定義っていうものは決まってはいなくて、実はあのNASAでさえも、力の『定義づけ』には困っているらしいのね……」
そこまで聞いた秀美は、次のように徹也に質問を投げかけた。
「じゃあニュートンは、力っていうものの定義を明確に示さないまま、三つの運動の法則を表したってことなのかな?」
「うん。そうなんだよ」
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