私だけの魔法使い―ナイト― 

第32話 自由気ままなタフィーくん

 出発した扉から私達は地球へと戻った。

 林の中はもう、薄暗くなっている。

 『なんだ。思っていた程ではないな』

 「タフィー殿。この林には魔力がありますが、一歩林の外へ出れば魔力はないものと思って下さい」

 タフィーくんの一言におじいちゃんはそう返した。それにタフィーくんは頷く。

 『わかった。普段はここにいる事にする。俺様はここら辺見てるから後は宜しくな』

 そう言うと、スーッと林の奥へタフィーくんは消えて行った……。

 あの~? パートナーという私の存在は無視ですか? まあここに来るのに必要なだけだったかもしれないけど、一言ぐらい『行ってくるね』あってもよくない?

 「すげー、自由な精霊だな……」

 カナ君がボソッと呟いた。

 他のパートナーの精霊とはだいぶ違って見えるよね。性別の差なのかな?

 「さあ、帰るか」

 おじいちゃんの言葉に皆頷きハル君の家に向かった。

 家に着くころには、空は夕日でオレンジに染まり綺麗。

 「ただいま~」

 ハル君が元気よく玄関に入って行ったけどすぐにおじいちゃんの後ろに隠れた。何だろうと覗くと、そこにはおじさんが仁王立ちして立っていた!

 そうだった! おじさんの存在を忘れていた!

 「どこに行っていたんだ! おとなしくしていろと言っただろうが! しかもその恰好で出掛けていたのか! って、父さんもそのままの姿でウロウロしていのですか!?」

 おじさんは、最後は呆れたようにため息交じりに言った。

 「げ、忘れてた……」

 カナ君もおじいちゃんの後ろに避難する。

 「まあ、そんなにカリカリするな。エリーヌ――絵理に会いに行ってきただけだ。心配ない」

 「心配ないって! 母さんって異世界なんだろう? 何を考えているんですか! 子供たちに何かあったらどうするんですか!」

 「おじさま。私達が無理やりついていったのですから責めないで上げてください。ごめんなさい」

 マリアさんが謝るとおじさんも何も言えなくなった。

 「あの、ごめんなさい」

 私も謝る。無理言ってついていったのは本当だもんね。服装の件は自業自得という事で。

 「あぁもう、わかった! けど、もう勝手な行動はしないでくれ! あとその恰好で絶対に外に出るな!」

 「「はーい」」

 ハル君とカナ君は声を揃えて返事をして、着替えてくるとさっさと家の中に入って行った。

 逃げたな二人共……。

 「あの、私帰ります。コート中にあるんですけど……」

 「あら、お帰りになるの? でしたら私も今日は帰りますわ」

 「二人共今日は突き合わせてすまなかったな。今、コートを持って来るから待ってて」

 私達が頷くとおじさんはコートを取りに戻り渡してくれた。

 「では失礼しますわ」

 「失礼します」

 「気を付けて帰るんだよ」

 「気を付けてな」

 おじさんとおじいちゃんに見送られ家を出た。

 私達は二人並んで歩く。もう空はオレンジから夜空に変わろうとしていた。

 なんか疲れた一日だったなぁ……。

 「今日はお疲れ様でした。楽しかったですわね! やはりファンタジーの世界は素敵ですわ!」

 「はい。楽しかったです……」

 「でも、あなたが一番最初にパートナーを得るなんて少し納得いきませんわ」

 「えーと……」

 それは私を選んだわけじゃないと思うけど。この世界の人間を選んだと思うんだけどなぁ。

 「ルナ。陽翔はるとをお願いしますね。あの子、あぁ見えてナイーブですのよ」

 立ち止まって私に振り向きマリアさんは言った。

 きっと登校拒否になった事を言ってるんだと思う。私が力になれるかどうかわからないけど、ハル君の力になれるように頑張る!

 私は力強く頷いた。

 そして私達はまた歩き出し、家に向かった。



 ☆ ☆ ☆



 ジジジィ……。

 パシ!

 『面白いな、それ。どういう仕組みだ?』

 「きゃー!」

 声に目を開ければ目の前に顔!

 私は驚いて悲鳴を上げた! って、タフィーくん?!

 バン!

 「どうした?! 月海つぐみ!」

 私の悲鳴を聞いたお父さんが勢いよくドアを開けて入って来た。

 「あ……。変な夢見たみたい……」

 「そうか……」

 安堵したお父さんの周りをタフィーくんは飛び回る。

 「どうした月海」

 「ううん。別に……おうはよう」

 「おはよう」

 顔を引きつかせていたんだと思う。そう聞いて来たお父さんに私は誤魔化すように朝の挨拶をした。

 「そうだ、月海。今月末、母さん退院できるそうだ」

 「え? 本当!」

 お父さんは嬉しそうに頷いた。

 今日は月曜日。日曜日は、ゆっくり休んだのに疲れがとれなくて、すご~く早く寝ちゃったんだった!

 私のお母さんは体が弱くて入院していた。それが今月末退院。よかったぁ!

 「お父さんは、もう出るから遅刻するなよ」

 「はーい。いってらっしゃい!」

 「行って来ます」

 パタンとドアをお父さんは閉めた。

 「よかったぁ……」

 『なぁ、さっきの話だけど』

 「うわぁ。まだ居たんだ……。あの、着替えたいんだけど」

 『うん? どうぞ』

 タフィーくんは、部屋の中を物色するようにあちこち飛び回り始める。

 「だから着替えるから出て行ってくれないかな?」

 『なんで?』

 なんでって……。あ、もしかして、向こうの世界の人って魔法で着替えてる? 私が魔法を使えないの知っているよね? って、そう言えばなんでタフィーくんここにいるの?

 「ねぇ、どうしてここにいるの?」

 『おかしくないだろう? パートナーなんだから』

 「いやだって……林にいるんじゃ……」

 『あそこに居ても暇でさ……』

 暇だから私のとこに来たのか。向こうの世界に帰ればいいのに……。ここで生活するのも大変だろうし。

 「暇なら向こうの世界に帰っても……」

 『まだ何も堪能してないのにか?』

 何を堪能したいのでしょうか? 精霊が面白いと思うものなんて何もないでしょうに……。まあいいけど。

 「あの私は魔法を使わずに着替えるから林に戻ってくれないかな?」

 『戻ってもいいけど。なんでそんなに着替えにこだわるんだか……』

 不思議そうな顔をして、窓をスーッと通り抜け、部屋からタフィーくんは出て行った。

 向こうの世界には学校なんてないんだろうなぁ。そもそもそんなに着替えなさそうだね。あの言い方だと……。おじいちゃんに色々聞いてみようかな。

 私は着替えをすませ、朝食を食べると学校に向かった。

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